教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第7章 土の大龍穴編

123 氷竜との戦い

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 僕は目の前に20本のファイアーランスを出現させた。
 まだ氷竜は見えていないけど、探知魔法と気配で相手の位置は掴んでいる。

 氷竜を目がけてファイアーランスを一斉に放つ。
 目の前の吹雪の中にファイアーランスが突き刺さるように飛んでいく。高熱を帯びたファイアーランスは、吹雪をかき消しながら数十メートル先の氷竜に次々と命中する。

「よし、狙い通りに……うわ、何て大きさだ……」

 僕が放ったファイアーランスは見事に命中したけど、吹雪をかき消して姿を現した氷竜は、10m以上の巨体に氷の鱗を纏い、殺気を剥き出しにしてこちらを睨んでいた。

 ファイアーランスは命中したはずなのに、傷一つ付いてない? 威力も強くしたつもりだったのに。

『氷竜に火魔法で攻撃するのは間違っていないぞ。相手の属性の弱点を付くのは基本だからな。しかしお主のファイアーランスではダメージを与えられておらぬ。理由は3つある。一つはこの酷い寒さの環境下では火魔法の効果が弱まってしまうこと。もう一つはファイアーランスを20本と分けたため威力が落ちたこと。最後の一つは単純だ。氷竜は魔法防御力に優れた魔物ということだな』

 なるほど。ものすごく分かりやすい説明だ。簡単に言えば僕の攻撃の仕方がてんでダメだったんだな。
 よし。ファイアーランスを1本にして、威力を最大限に高めて攻撃してみよう。

 ……と考えた瞬間に氷竜の魔力が急速に集中する。魔法攻撃か!
 氷竜の口が大きく開くと、鋭い牙が見えたのと同時に、氷のブレスが僕を目がけて放たれる。速い!

 僕は目の前に大きくて分厚いファイアーウォールを出す。一瞬も気を抜けない! 下手すると直撃するところだったけど、僕にぶつかる前にギリギリで間に合った!
 その直後、氷竜のブレスがファイアーウォールにぶつかると、ものすごい衝撃が発生する。うおっ! これはヤバい。ファイアーウォールに大量に魔力を流さないと突き破られる!
 僕はファイアーウォールに魔力を流す。だけど氷竜もブレスに魔力を流して強化してる! いや、これはまずい。このまま魔力を流し合うのなら、魔力量からいって僕の方が押し切られてしまう。

 ファイアーウォールと氷竜のブレスのせめぎ合い。決着はすぐに訪れた。ファイアーウォールを突き破った氷竜のブレスは十分な威力と速度を保ったまま、僕の全身を覆う大きさで鼻先に迫る。
 これ、このまま直撃したら死んじゃうな。特殊個体、強すぎじゃない?

 氷竜のブレスが僕の全身を覆ってぶつかるその刹那のタイミングで、僕は氷竜の真後ろに転移した。

「くらえっ!!」

 ミスリルの剣にありったけの魔力を流して、氷竜の背中を切り裂く。
 しかし、氷竜は恐るべき反応で、僕の剣を避けるように横に移動する。

「逃がすか!」

 僕の剣が氷竜の右の翼を切り落とした。傷口から血が吹き出すが、あっという間に血が固まる。恐らく血を氷の魔法で凍らせて止血したんだろう。頭のいい魔物だ。

 氷竜は僕から少し距離を取ってこちらに振り返る。傷つけられて激高するかと思ってたのに、妙に冷静に見える。
 それがかえって怖く感じるな。怒りで攻撃をしてくる方が隙ができそうな気がするけど、氷竜は冷静に僕を仕留める方法を考えているように思える。

 相手の行動を待つのは得策じゃない。同じ特殊個体という分類だけど、クイーンサンドワームとは違って、右の翼が治癒することはないようだ。ここは次元断で攻撃をしよう。

 僕は氷竜に次元断のマーキングを行う。可能な限りたくさんの次元断で切り裂くことにしよう。全力でやらないと、こっちがやられる。

 僕は全神経を集中してマーキングを行なっていた。
 すると、横から冷静な声色でルシアが声をかけてきた。

『レンよ。お主の狙いは悪くないのだが、目的を忘れておらんか?』

 ん? 目的?

「氷竜を倒すことだよね。ちょっと待ってよ。今は集中してるからさ」

 ルシアと話をしてる間に氷竜が新たな攻撃を仕掛けて来るかも知れない。それを防ぐ自信は僕には無い。

『ふ~。やはり目的を忘れておるな。氷竜は今のお主では気を抜いて戦える相手ではないゆえ仕方ないがな』
「え? 氷竜を倒さないといけないでしょ? このまま攻撃しないと僕には勝てそうに無いよ」
『お主がそのまま次元断を使ったら、目的の魔石まで切り刻まれそうだったのでな』
「あ! 特殊個体の魔石! 魔石がいるんだったね!」

 すっかり忘れてた……。

『まあよい。特殊個体と戦う経験は貴重だから、先にお主に戦わせてみたまで。あとは我がやる。戦うところをみて学ぶとよい』

 え? ルシアが戦うの? 氷竜と? というか、ルシアが戦うところってしっかり見たこと無いんですけど!

 ルシアが僕と氷竜の間を歩いて行く。さっきまで冷静に僕を睨んでいた氷竜は、目の前に移動してきた龍族の男に目を奪われていた。
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