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第6章 怨恨渦巻く陰謀編
SS エレノア女王の私室
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「行ってしまったのじゃ」
「行ってしまわれましたな」
ネイスエル女王国の女王エレノアと宰相のベルスは王宮の屋上で、ルシアの背中に乗り飛んで行ったレンとクリスタを姿が見えなくなるまで見送っていた。
そしてエレノア女王の私室で、二人はハーブティーを飲みながら談笑していた。
「しかし、アクア様の龍の姿は見たことがあるのじゃが、ルシア様の姿はそれ以上の威圧感……威厳というべきかもしれんが、満ち溢れておったのじゃ」
「私などは初めて龍を見ましたからな。迫力で声も出せませんでしたぞ」
「ルシア様と初めてお会いしたときに、よく魅了の魔法をかけたものじゃ。想い出すだけでゾッとするのじゃ」
「私はその場におりませんでしたが、王宮が無くなる寸前だったのでしょう? それはゾッとしますな」
二人は自分たちを落ち着かせるように、ハーブティーを口に運ぶ。
「もう一つの驚きはレン殿じゃな。アリウス家の嫡男という肩書きだけでも他国は構えるというのに、そんなものは目眩ましに感じるほどの存在じゃ。あの年齢で魔力操作を極めておる。それに加えて見たこともない魔法を使うのじゃ。ルシア様がお連れになるのも納得じゃし、アクア様たちと対等に話しておるのじゃぞ! そんな人間がどこにおる? 規格外にもほどがあるのじゃ」
「誠にその通りですな。とは言ってもまだ子どもです。しかも素直で善悪を見極める目も持っています。我々大人が正しい道を示してやれば、正直で公正な青年へと成長してくれることでしょう」
「レン殿をよからぬことに巻き込む輩が現れたら妾たちで叩き潰さねばならん。諜報を怠ってはならぬのじゃ」
「心得てございます」
二人は今後の方針を共有して、ハーブティーを一口飲む。
「女王様、アマンダの件ですが、まだ協力者の特定には至っておりません。アマンダの行動を洗い出しましたが、触媒を作るような行動を取っていないため、状況から想定すると触媒を調達するものがいたはずです。
現在も特殊尋問官が尋問を続けていますが、なかなか上手く情報を得られていません。人魚というのがネックになっています。魅了などの魔法が通じませんからな」
「そうか。こうなると人魚は魅了にかからないのが厄介じゃな。時間をかけて調べるしかあるまい」
「これは私の推測ですが、アマンダが人魚であることを利用した黒幕がいることも考えられます。アマンダがクリスタ王女に嫉妬していたことは確かでしょうが、呪術を使わせるように誘導した者がいる可能性も捨てきれません」
「クリスタを狙わせた黒幕がいるというのかえ! ……妾もアマンダだけで事を起こしたとは思いたくないゆえ、そういうことが頭をよぎったこともあるが、叔母としての甘さかと思いその可能性は消していたのじゃがな」
「いえ、今の段階ではあらゆる可能性を捨てるべきではありません。予断を持たず調査を進めて参ります」
「そうじゃな。その判断は宰相に任す。抜かりなく調べるのじゃ」
「お任せください」
このあともエレノアとベルスは国内で起きているたくさんの事柄について話し込む。
ハーブティーのポットは空になったため、侍女におかわりを用意させ、新しい茶葉で淹れなおした熱々のティーカップを口にする。
「あとはクリスタが無事に旅から帰ってくるのを祈るのじゃ」
「ルシア様とレン殿が付いておりますから心配はありますまい」
「妾も危険な目に会う心配はしておらぬ。ルシア様とレン殿に迷惑をかけないといいのじゃがな」
「クリスタ王女ならその心配も必要ないかと。明るく聡明な方ですからな」
「妾としてはレン殿を捕まえるぐらいを期待しておるのじゃがな」
「じょ、女王様! それはまだ気が早いのでは。クリスタ王女は成人になられたばかりですぞ」
「ということはクリスタはいつでも結婚できるのじゃ。そうしたらレン殿が成人になるのを待つだけ。
ベルスよ。レン殿がクリスタの伴侶になってくれたと想像してみよ。ネイスエルは安泰ではないかえ?」
「それはおっしゃる通りですな。しかし、王女の気持ちもありましょう。王女が好意を持たれているなら全力で支援しますぞ」
「ふふ。母親としての勘じゃが、クリスタはレン殿に惹かれておるじゃろ。まだ異性への感情として大きくなっているかは分からんが、そうならば結ばれて欲しいと思うのじゃ」
「そうなのですか。私は王女の気持ちには気付いておりませんでしたが、そうなるとあとはレン殿の気持ち次第ですな」
「妾も勘じゃよ。そうであってもらいたいという願望も混じっておるかもしれん。
若者の出会いはこちらまで新鮮な気持ちにしてくれるのじゃ。二人の出会いには感謝じゃな」
エレノアとベルスはお互いに微笑みを浮かべながら、新しく淹れたハーブティーを飲み干すのであった。
「行ってしまわれましたな」
ネイスエル女王国の女王エレノアと宰相のベルスは王宮の屋上で、ルシアの背中に乗り飛んで行ったレンとクリスタを姿が見えなくなるまで見送っていた。
そしてエレノア女王の私室で、二人はハーブティーを飲みながら談笑していた。
「しかし、アクア様の龍の姿は見たことがあるのじゃが、ルシア様の姿はそれ以上の威圧感……威厳というべきかもしれんが、満ち溢れておったのじゃ」
「私などは初めて龍を見ましたからな。迫力で声も出せませんでしたぞ」
「ルシア様と初めてお会いしたときに、よく魅了の魔法をかけたものじゃ。想い出すだけでゾッとするのじゃ」
「私はその場におりませんでしたが、王宮が無くなる寸前だったのでしょう? それはゾッとしますな」
二人は自分たちを落ち着かせるように、ハーブティーを口に運ぶ。
「もう一つの驚きはレン殿じゃな。アリウス家の嫡男という肩書きだけでも他国は構えるというのに、そんなものは目眩ましに感じるほどの存在じゃ。あの年齢で魔力操作を極めておる。それに加えて見たこともない魔法を使うのじゃ。ルシア様がお連れになるのも納得じゃし、アクア様たちと対等に話しておるのじゃぞ! そんな人間がどこにおる? 規格外にもほどがあるのじゃ」
「誠にその通りですな。とは言ってもまだ子どもです。しかも素直で善悪を見極める目も持っています。我々大人が正しい道を示してやれば、正直で公正な青年へと成長してくれることでしょう」
「レン殿をよからぬことに巻き込む輩が現れたら妾たちで叩き潰さねばならん。諜報を怠ってはならぬのじゃ」
「心得てございます」
二人は今後の方針を共有して、ハーブティーを一口飲む。
「女王様、アマンダの件ですが、まだ協力者の特定には至っておりません。アマンダの行動を洗い出しましたが、触媒を作るような行動を取っていないため、状況から想定すると触媒を調達するものがいたはずです。
現在も特殊尋問官が尋問を続けていますが、なかなか上手く情報を得られていません。人魚というのがネックになっています。魅了などの魔法が通じませんからな」
「そうか。こうなると人魚は魅了にかからないのが厄介じゃな。時間をかけて調べるしかあるまい」
「これは私の推測ですが、アマンダが人魚であることを利用した黒幕がいることも考えられます。アマンダがクリスタ王女に嫉妬していたことは確かでしょうが、呪術を使わせるように誘導した者がいる可能性も捨てきれません」
「クリスタを狙わせた黒幕がいるというのかえ! ……妾もアマンダだけで事を起こしたとは思いたくないゆえ、そういうことが頭をよぎったこともあるが、叔母としての甘さかと思いその可能性は消していたのじゃがな」
「いえ、今の段階ではあらゆる可能性を捨てるべきではありません。予断を持たず調査を進めて参ります」
「そうじゃな。その判断は宰相に任す。抜かりなく調べるのじゃ」
「お任せください」
このあともエレノアとベルスは国内で起きているたくさんの事柄について話し込む。
ハーブティーのポットは空になったため、侍女におかわりを用意させ、新しい茶葉で淹れなおした熱々のティーカップを口にする。
「あとはクリスタが無事に旅から帰ってくるのを祈るのじゃ」
「ルシア様とレン殿が付いておりますから心配はありますまい」
「妾も危険な目に会う心配はしておらぬ。ルシア様とレン殿に迷惑をかけないといいのじゃがな」
「クリスタ王女ならその心配も必要ないかと。明るく聡明な方ですからな」
「妾としてはレン殿を捕まえるぐらいを期待しておるのじゃがな」
「じょ、女王様! それはまだ気が早いのでは。クリスタ王女は成人になられたばかりですぞ」
「ということはクリスタはいつでも結婚できるのじゃ。そうしたらレン殿が成人になるのを待つだけ。
ベルスよ。レン殿がクリスタの伴侶になってくれたと想像してみよ。ネイスエルは安泰ではないかえ?」
「それはおっしゃる通りですな。しかし、王女の気持ちもありましょう。王女が好意を持たれているなら全力で支援しますぞ」
「ふふ。母親としての勘じゃが、クリスタはレン殿に惹かれておるじゃろ。まだ異性への感情として大きくなっているかは分からんが、そうならば結ばれて欲しいと思うのじゃ」
「そうなのですか。私は王女の気持ちには気付いておりませんでしたが、そうなるとあとはレン殿の気持ち次第ですな」
「妾も勘じゃよ。そうであってもらいたいという願望も混じっておるかもしれん。
若者の出会いはこちらまで新鮮な気持ちにしてくれるのじゃ。二人の出会いには感謝じゃな」
エレノアとベルスはお互いに微笑みを浮かべながら、新しく淹れたハーブティーを飲み干すのであった。
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