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第6章 怨恨渦巻く陰謀編
91 呪術
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クリスタ王女の異変の原因は呪い?
ルシアが推測した異変の原因は呪いらしい。でも一体呪いって何のことだろう。
「ルシア、呪いってクリスタ王女が何かに呪われてるってこと? そういうことが実際にあるの?」
ルシアが腕を組んで話し始める。
『今回の件では不可解なところがいくつかある。まずは呪いについて教えてやろう。
呪いとは一種の魔法だ』
「えっ? 魔法なの?」
『そうだ。精神に作用し、衰弱させたり、操ったりする魔法だ。しかし呪いの魔法は非道な効果しかなく、使い勝手も悪いため忌み嫌われていた。
今では呪術と名前を変え、一部の者が受け継いでいるだけだ』
「呪術……」
『王女に会ったときから少し気になっていたのだが、魔力の流れにほんの少しだけ滞留しているようなところがあった。宰相の話を聞いたあとで思い返せば、あれは呪術によるものだな』
「そんなことに気づいてたの? 僕は何の違和感も感じなかったけど」
『我も宰相の話を聞かなければ、呪術のことなど思い出さなかっただろう。滅多にお目にかかれない魔法であるし、先ほども言ったが使う者が少ないのだ。
それは呪術が忌み嫌われているもう一つの理由による。その理由とは魔法を使うために触媒が必要になることだ』
「触媒って何が必要になるの?」
『呪術を使うためには生き物の一部、もしくは全部を触媒とする必要がある。一部の例としては髪の毛などが用いられる。全部とはそのままの意味で、大掛かりな呪術を使うためには生贄を必要とすることもある。呪いとは簡単に使えるものではないということだ』
生贄か……。考えるだけでゾッとするんですけど。
『王女の異変の原因は呪術と推測される。しかし不可解な点があるのだ。
一つは王女が人魚であるということだ。魅了を得意とする人魚は心を操る、つまり精神に作用する魔法を使うのが得意であり、またその耐性も強い。
もう一つは我が見る限り、昨日の食事のときに特別に衰弱したり、操られているようなことは無かった。そうなると呪いの症状は夜、就寝中に限定されて起きていることになる。そこから考えられることは、呪術を使っている者はすぐ側におり、就寝中を狙っているということだ』
「呪術を使っている者はすぐ側にいる人ということか。確かに王女様は大人しい方のようには感じたけど、衰弱しているようには見えなかったね」
『いずれにしても、もう一度王女に会えば分かることだ。今日の夕食のときに王女と会えるように宰相に話すとするか』
「ルシアが王女様をもう一度見れば原因が分かるの?」
『まあな。お主も注意深く魔力の流れを見れば、僅かに魔力が滞留しているところは見つけられると思うぞ』
「でも、それだけではそれが呪いかどうかなんて僕には分からないけどな」
『我も魔力が滞留しているだけでは呪いかどうかは断定できん。だからこそもう一度会って調べてみるしかない。気は進まぬが鑑定の魔法を使う』
「鑑定という魔法があるの?」
『うむ。鑑定の魔法は人にも物にも有効で、その対象についての情報を得ることができる。その対象が鑑定の魔法の使用者よりも、魔力操作が優れていたり、高いレベルの障壁魔法を使っている場合は見破るのも困難だがな。しかし我が使う鑑定で見破れぬものなど無いにも等しい。だからこそ、何でも鑑定を使うのは好きではないのだ』
そうなんだ。ルシアは何でも知ることができるのに、そういうのは好きじゃないんだね。プライバシーに配慮してるのかも知れないし、何でも知ってしまっては面白くないのかも知れないな。
『ところでレンは王女が障壁魔法を使っていたのは分かっておるか?』
「あれはやっぱり障壁魔法なの? 魔力の流れはいつも見るようにしてるから、王女の周りに魔力が纏われているのは見えたけど、障壁魔法と断定はできないよ」
『こういうことも慣れと経験だ。魔力の流れや密度によって、使っている魔法を想定できる。
我やお主が使っている障壁魔法とは魔力の流れが違うし、密度も薄い分効果も低いだろう。
衣服を纏うように魔力を纏うのが理想的なのだが、王女はそこまでの使い方はできていなかった。そうなると夜、寝ている間も障壁魔法を張り続けているかは疑問だな』
「もしかして、寝ているときに障壁魔法が使えないから夜だけ狙われているってこと?」
『その可能性が高いと思うがな。しかしそれを差し引いても、そもそも精神に作用する魔法耐性が強い人魚に呪いをかけるなど、使用者のレベルが高いか、触媒のレベルが高いかのどちらかだな』
聞きたくない言葉が出てきたけど、気になるから一応聞いておこう。
「あの、ルシア。触媒のレベルが高いって言うのは……」
『魔力の高い人間を生贄にしている、もしくは多くの人間を生贄にしているということだな』
やっぱり聞きたくなかった……。
『我々ができることは限られておる。とりあえずは宰相に話を通して王女に会わせてもらうことにしよう。レンよ。そんなに悩んだところで何も解決しないぞ。それよりも宰相がごちそうしてくれる炭火焼のことでも考えて楽しみにしておれ』
ルシアが僕のことを気遣ってくれているのはありがたいことだね。それに僕が悩んでも解決しないのはその通りだ。
「ありがとう、ルシア。何か僕にできることがあったら言ってね」
『そのつもりだ。とりあえずは美味いものを食べてからだ』
僕とルシアは別荘で約束の時間までゆっくりと過ごして、宰相様と待ち合わせの場所で会うことにした。
ルシアが推測した異変の原因は呪いらしい。でも一体呪いって何のことだろう。
「ルシア、呪いってクリスタ王女が何かに呪われてるってこと? そういうことが実際にあるの?」
ルシアが腕を組んで話し始める。
『今回の件では不可解なところがいくつかある。まずは呪いについて教えてやろう。
呪いとは一種の魔法だ』
「えっ? 魔法なの?」
『そうだ。精神に作用し、衰弱させたり、操ったりする魔法だ。しかし呪いの魔法は非道な効果しかなく、使い勝手も悪いため忌み嫌われていた。
今では呪術と名前を変え、一部の者が受け継いでいるだけだ』
「呪術……」
『王女に会ったときから少し気になっていたのだが、魔力の流れにほんの少しだけ滞留しているようなところがあった。宰相の話を聞いたあとで思い返せば、あれは呪術によるものだな』
「そんなことに気づいてたの? 僕は何の違和感も感じなかったけど」
『我も宰相の話を聞かなければ、呪術のことなど思い出さなかっただろう。滅多にお目にかかれない魔法であるし、先ほども言ったが使う者が少ないのだ。
それは呪術が忌み嫌われているもう一つの理由による。その理由とは魔法を使うために触媒が必要になることだ』
「触媒って何が必要になるの?」
『呪術を使うためには生き物の一部、もしくは全部を触媒とする必要がある。一部の例としては髪の毛などが用いられる。全部とはそのままの意味で、大掛かりな呪術を使うためには生贄を必要とすることもある。呪いとは簡単に使えるものではないということだ』
生贄か……。考えるだけでゾッとするんですけど。
『王女の異変の原因は呪術と推測される。しかし不可解な点があるのだ。
一つは王女が人魚であるということだ。魅了を得意とする人魚は心を操る、つまり精神に作用する魔法を使うのが得意であり、またその耐性も強い。
もう一つは我が見る限り、昨日の食事のときに特別に衰弱したり、操られているようなことは無かった。そうなると呪いの症状は夜、就寝中に限定されて起きていることになる。そこから考えられることは、呪術を使っている者はすぐ側におり、就寝中を狙っているということだ』
「呪術を使っている者はすぐ側にいる人ということか。確かに王女様は大人しい方のようには感じたけど、衰弱しているようには見えなかったね」
『いずれにしても、もう一度王女に会えば分かることだ。今日の夕食のときに王女と会えるように宰相に話すとするか』
「ルシアが王女様をもう一度見れば原因が分かるの?」
『まあな。お主も注意深く魔力の流れを見れば、僅かに魔力が滞留しているところは見つけられると思うぞ』
「でも、それだけではそれが呪いかどうかなんて僕には分からないけどな」
『我も魔力が滞留しているだけでは呪いかどうかは断定できん。だからこそもう一度会って調べてみるしかない。気は進まぬが鑑定の魔法を使う』
「鑑定という魔法があるの?」
『うむ。鑑定の魔法は人にも物にも有効で、その対象についての情報を得ることができる。その対象が鑑定の魔法の使用者よりも、魔力操作が優れていたり、高いレベルの障壁魔法を使っている場合は見破るのも困難だがな。しかし我が使う鑑定で見破れぬものなど無いにも等しい。だからこそ、何でも鑑定を使うのは好きではないのだ』
そうなんだ。ルシアは何でも知ることができるのに、そういうのは好きじゃないんだね。プライバシーに配慮してるのかも知れないし、何でも知ってしまっては面白くないのかも知れないな。
『ところでレンは王女が障壁魔法を使っていたのは分かっておるか?』
「あれはやっぱり障壁魔法なの? 魔力の流れはいつも見るようにしてるから、王女の周りに魔力が纏われているのは見えたけど、障壁魔法と断定はできないよ」
『こういうことも慣れと経験だ。魔力の流れや密度によって、使っている魔法を想定できる。
我やお主が使っている障壁魔法とは魔力の流れが違うし、密度も薄い分効果も低いだろう。
衣服を纏うように魔力を纏うのが理想的なのだが、王女はそこまでの使い方はできていなかった。そうなると夜、寝ている間も障壁魔法を張り続けているかは疑問だな』
「もしかして、寝ているときに障壁魔法が使えないから夜だけ狙われているってこと?」
『その可能性が高いと思うがな。しかしそれを差し引いても、そもそも精神に作用する魔法耐性が強い人魚に呪いをかけるなど、使用者のレベルが高いか、触媒のレベルが高いかのどちらかだな』
聞きたくない言葉が出てきたけど、気になるから一応聞いておこう。
「あの、ルシア。触媒のレベルが高いって言うのは……」
『魔力の高い人間を生贄にしている、もしくは多くの人間を生贄にしているということだな』
やっぱり聞きたくなかった……。
『我々ができることは限られておる。とりあえずは宰相に話を通して王女に会わせてもらうことにしよう。レンよ。そんなに悩んだところで何も解決しないぞ。それよりも宰相がごちそうしてくれる炭火焼のことでも考えて楽しみにしておれ』
ルシアが僕のことを気遣ってくれているのはありがたいことだね。それに僕が悩んでも解決しないのはその通りだ。
「ありがとう、ルシア。何か僕にできることがあったら言ってね」
『そのつもりだ。とりあえずは美味いものを食べてからだ』
僕とルシアは別荘で約束の時間までゆっくりと過ごして、宰相様と待ち合わせの場所で会うことにした。
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