76 / 131
第5章 ネイスエル女王国編
74 水中での実戦訓練①
しおりを挟む ローズは冨岡と時間を過ごしたいと願いながらも、冨岡が目標に向かって行動していることを悟り、最大限の遠慮を見せたのだ。
それがお茶をしている数分間だけ、時間をもらうというもの。まさか彼女が我儘な令嬢などと言われていたなんて思えない。いや、元々他人に気を配ることの出来る子だったのだろう。
それでも両親に構ってもらいたい、という想いがローズを我儘な令嬢へと変貌させていた。
素直だが素直ではなく、思慮深さゆえに直情的な子なのである。
冨岡はそんなローズに対し、まるで姪っ子でもできたかのように思い、微笑んだ。
「ははっ、それじゃあ俺が持ってきたお茶を淹れますので、一杯だけお付き合いください。いいですか、ローズ」
冨岡が言うとローズは、嬉しそうに表情を緩ませてから、それを察されないように唇を尖らせる。
「し、仕方ないわね、トミーは。この国の未来を担う公爵令嬢の時間は安くないのよ。せっかくなら楽しませてもらえるかしら」
どこか演技がかったローズの口調に合わせて、冨岡はわざとらしく胸に手を当てて頭を下げた。
「仰せのままに」
そのまま冨岡は自分の持ってきた紅茶を淹れようと、ダルクに目線を向ける。しかしいつの間にか、ダルクは湯を用意し、紅茶を淹れていた。その手際は、紅茶好きと自称する富岡ですら舌を巻くほどであり、口を出す余地などなかった。
用意された紅茶に口を付けながら、ローズはスキップをするような声で冨岡に話しかける。
「ところでトミー。聞きたいことがあるのだけれど」
「何ですか?」
「その、庶民の方々は恋愛の末に婚姻の契りを結ぶのよね?」
「お見合いとかもありますけど、恋愛結婚も多いでしょうね。少なくとも俺の国ではほとんどそうでした」
そう答えてから冨岡は、ローズの言葉を深く読み解いた。わざわざ『庶民は』と言うくらいなのだから、貴族は違うのだろう。おおよそ想像はしていたが、やはり貴族は家のために結婚するものらしい。
そしてそれはローズも同じだ。公爵家令嬢ともなれば、それなりに位の高い貴族と婚姻を結ぶことになる。
だとしたら、今の答えは考えが足りなさすぎた。一瞬で反省し、ダルクに目を向ける冨岡だが、令嬢に対して過保護である執事は穏やかな表情で立っている。
問題なかったのだろうか、と考えながら冨岡はローズに視線を戻した。すると彼女は、少し考えてから幾つか段階を飛ばした言葉を放つ。
「トミーは男妾になるつもりはない?」
「ブフッ」
まさか幼いローズの口からそんな言葉を聞くとは思っておらず、冨岡は紅茶を吐き出してしまった。
自分の口を拭いながら、恐る恐る問いかける。
「な、何を言ってるんですか、ローズ。お、男め・・・・・・いやいや、そんな言葉どこで学ぶんですか」
「あら、知らないの? 私の趣味は読書なのよ? 最近、暇を持て余したご婦人の中で流行っている小説があるの。熱烈な恋の物語よ。家のための婚姻を定められた令嬢と、立場を持たない庶民の男。二人は秘密の恋をするの」
それがお茶をしている数分間だけ、時間をもらうというもの。まさか彼女が我儘な令嬢などと言われていたなんて思えない。いや、元々他人に気を配ることの出来る子だったのだろう。
それでも両親に構ってもらいたい、という想いがローズを我儘な令嬢へと変貌させていた。
素直だが素直ではなく、思慮深さゆえに直情的な子なのである。
冨岡はそんなローズに対し、まるで姪っ子でもできたかのように思い、微笑んだ。
「ははっ、それじゃあ俺が持ってきたお茶を淹れますので、一杯だけお付き合いください。いいですか、ローズ」
冨岡が言うとローズは、嬉しそうに表情を緩ませてから、それを察されないように唇を尖らせる。
「し、仕方ないわね、トミーは。この国の未来を担う公爵令嬢の時間は安くないのよ。せっかくなら楽しませてもらえるかしら」
どこか演技がかったローズの口調に合わせて、冨岡はわざとらしく胸に手を当てて頭を下げた。
「仰せのままに」
そのまま冨岡は自分の持ってきた紅茶を淹れようと、ダルクに目線を向ける。しかしいつの間にか、ダルクは湯を用意し、紅茶を淹れていた。その手際は、紅茶好きと自称する富岡ですら舌を巻くほどであり、口を出す余地などなかった。
用意された紅茶に口を付けながら、ローズはスキップをするような声で冨岡に話しかける。
「ところでトミー。聞きたいことがあるのだけれど」
「何ですか?」
「その、庶民の方々は恋愛の末に婚姻の契りを結ぶのよね?」
「お見合いとかもありますけど、恋愛結婚も多いでしょうね。少なくとも俺の国ではほとんどそうでした」
そう答えてから冨岡は、ローズの言葉を深く読み解いた。わざわざ『庶民は』と言うくらいなのだから、貴族は違うのだろう。おおよそ想像はしていたが、やはり貴族は家のために結婚するものらしい。
そしてそれはローズも同じだ。公爵家令嬢ともなれば、それなりに位の高い貴族と婚姻を結ぶことになる。
だとしたら、今の答えは考えが足りなさすぎた。一瞬で反省し、ダルクに目を向ける冨岡だが、令嬢に対して過保護である執事は穏やかな表情で立っている。
問題なかったのだろうか、と考えながら冨岡はローズに視線を戻した。すると彼女は、少し考えてから幾つか段階を飛ばした言葉を放つ。
「トミーは男妾になるつもりはない?」
「ブフッ」
まさか幼いローズの口からそんな言葉を聞くとは思っておらず、冨岡は紅茶を吐き出してしまった。
自分の口を拭いながら、恐る恐る問いかける。
「な、何を言ってるんですか、ローズ。お、男め・・・・・・いやいや、そんな言葉どこで学ぶんですか」
「あら、知らないの? 私の趣味は読書なのよ? 最近、暇を持て余したご婦人の中で流行っている小説があるの。熱烈な恋の物語よ。家のための婚姻を定められた令嬢と、立場を持たない庶民の男。二人は秘密の恋をするの」
0
お気に入りに追加
1,492
あなたにおすすめの小説

終了し強制力の無くなった乙女ゲームの世界の悪役令嬢のその後…
クロノス
恋愛
私はよくある異世界に転生した元日本人で社会人だった。仕事の帰り道によくあるトラック事故にて呆気なく死んでしまった/(-_-)\
まさかの転生先が前世で何度もプレーする程大好きだった乙女ゲームの中の悪役令嬢になっていた。
私の前世の推しである悪役令嬢になるなんて~
攻略対象者?ヒロイン?知りません!
って思ってたらヒロインめちゃくちゃウザイし攻略対象者もめちゃくちゃウザイ…
強制力やっぱりあるし( ・᷄ὢ・᷅ )
強制力あっても何とか逞しく乗り切ろうとする悪役令嬢に転生した私の物語
女神の愛し子の私に冤罪って…
って何故かどんどん話のスケールがでかくなってませんか!?
ゆるふわ設定です!
頭をラフにしてお読み下さい(*^^*)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

食うために軍人になりました。
KBT
ファンタジー
ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。
しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。
このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。
そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。
父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。
それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。
両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。
軍と言っても、のどかな田舎の軍。
リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。
おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。
その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。
生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。
剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~
一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。
しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。
流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。
その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。
右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。
この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。
数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。
元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。
根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね?
そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。
色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。
……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる