教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第4章 帝都アウシルバード編

68 ハンターギルド帝都支部

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 帝都支部はボレアザント支部ほどの大きさじゃないけど、3階建てのしっかりとした建物だった。ここも十分に立派な建物なんだけど、ボレアザントが異常な豪華さなんだよな。

 フライヤが建物の扉を開けると、受付には猫の獣人の女性が待ち構えていた。

「フライヤ様、お待ちしておりました。そちらのお二人はルシア様とレン様ですね。ギルドマスターの部屋にご案内します」

 ここもボレアザントと同じで、受付は猫の獣人なんだな。すごくベテランの雰囲気がするね。

 僕たちは2階にあるギルドマスターの部屋へと案内された。部屋にいるのは3人。中央に大きな机があり、その周りに置いてある椅子に座っている。右奥にファンタールさん、左奥に熊の獣人の男性、さらに奥の年季の入った机のところにいた狼の獣人の男性がこちらにやってくる。

「よく来てくれた。私が帝都支部ギルドマスターのビクトルだ。そして左手に座っているのは副ギルドマスターのアルカスだ。3人はそちらの椅子にかけてくれ」

 すごく通る声でビクトルさんが挨拶をする。あの熊の獣人は副ギルマスなのか。気配から見るとギルマスのビクトルさんよりも強そうだな。うん? ファンタールさんの機嫌が悪そうだけど気のせいかな。

「まずはクイーンサンドワームを討伐したことに対して心より感謝申し上げる。おかげでボレアザントは大きな損害を被ることもなかった。またボレアザントの優秀なハンターを見事な治癒魔法で救っていただいたことも聞いている。これらの功績により、特別表彰を行う。アルカス、こちらに持って参れ」
「はっ」

 ビクトルさんが指示を出すと、アルカスさんが机の下から紙を取り出し、ビクトルさんに手渡す。ビクトルさんがその紙を読み上げる。

「3名には特別表彰としてそれぞれに2,000万ゴルドの討伐報酬を、ルシア殿とレン殿は本日よりCランクハンターに昇格とする。昇格試験はクイーン討伐の実績により特別免除となった。以上だ」

 2,000万ゴルド? Cランクハンター? 昇格はともかくそんな大金をもらっちゃっていいの?

 ビクトルさんの話が終わると奥に座っていたファンタールさんが席を立つ。

「ルシア殿、レン殿、フライヤ、すまない。本来ならばクイーンサンドワームの討伐報酬はそれぞれ1億ゴルドをもらってもおかしくないほどの偉業。それを本部は正式なクエストではないという理由で金額を渋りおった。本当にケチな奴らだ。誠に申し訳ない」

 ファンタールさんが僕たちに向かって頭を下げる。なるほどね。ファンタールさんは本部の対応が気に入らなかったから機嫌が悪いわけか。するとビクトルさんが言葉を付け加える。

「内情をばらせばファンタールの言ったとおりだ。クイーンの討伐は国を救ってくれたと言っても過言ではない。しかし天災級の魔物に関しては本部直轄の案件となり、支部では報酬の決裁権が無いのだ。本部直轄となる本来の目的は、天災級の魔物という脅威に対しては、国が動くものであり、ハンターギルドとしても本部が動くほどの案件ということ。またその案件を解決したのがハンターであれば、報酬内容もそれに見合ったものを本部が支払うということなのだが、今回は例外的な判断が多すぎたため、本部も決裁を迷ったのだろうな」

 するとフライヤが口を挟む。

「ふん。本部と支部の駆け引きに興味はない。お前のことだから帝都支部の利益につながるように立ちまわっているだろうが、ルシア様も特別表彰なんかに期待はしておられないからな。私はファンタールの顔を立てるためにここに来たまで。話はそれで終わりか?」
「散々な言われようだが、フライヤにはいつもの報酬は用意しているぞ。ユレアード王国で20本限定で販売された火酒だ。手に入れるのは苦労したんだぞ」
「本当か! ユレアードの火酒はたまらんからな。それはありがたい。さすがはビクトルだ」

 フライヤったら、お酒のことになると途端に機嫌が良くなるな。本当、分かりやすいよ。

「酒はすぐに持って来させる。しかし今回は報酬金に納得のいかないファンタールが本部と随分やりあって、Cランク昇格という異例の条件は引き出させたのだ。3階級昇格など私も聞いたことがないぞ」
「いや私は当然の主張をしたまで。天災級の魔物を倒せるハンターなど限られた者だけだ。それなのに報酬金を渋られたのだ。Cランクに昇格してせめて素材の引き取りだけでも利益を得てもらいたかったからな。手数料が20%から10%に変わるから、この2人なら得られる実利は大きいだろう」

 そうか。手数料か。ミナさんがハンター登録のときにそんな説明をしてたな。

「デメリットは所属ギルドの強制依頼というわけだが、幸いにして2人の所属はボレアザント。私の裁量で何とでもできるだろう。2人ともこれで納得してもらえないだろうか」

 ファンタールさんは色々と考えてくれてたんだな。

「僕は全く問題無いですし、フライヤを手伝っただけなのに2,000万ゴルドももらって申し訳ないぐらいです」
『我はお金には困っておらんから報酬金はどうでもよいし、ハンターランクは気にしてもいない。それよりも夕食が楽しみだ』

 ルシアもぶれないな~。でも僕たちの返事を聞いてファンタールさんは安心したようだ。

「もちろん用意している。それでは1階の食堂に移動しよう。帝都支部名物のフルコースだ」
「それならさっきの火酒は食堂に持って行かせるとしよう」

 ビクトルさんが通話の魔道具を使って、火酒を食堂に持って行くよう指示を出していた。
 夕食を待ちきれないルシアと、僕とフライヤとファンタールさんの4人は1階の食堂に移動した。



「ビクトル殿、本当によかったのですか? ファンタールはあの2人を認めているようですが、人族の小僧が言っていたようにフライヤがクイーンを退治するところにたまたま居合わせただけでしょう。そんなやつらに報酬金やCランク昇格は過分な内容では?」
「ふふ。そうだな。確かに実力のほどは分からぬが、あのルシアという男はフライヤが敬って接するほどの相手。弱いということはあるまい。将来的にAランクに上がることも考えられる。ギルドに高ランクハンターが多くいることは発言権の強化にもつながるからな。帝国所属の高ランクハンターを増やすための先行投資だ。とは言っても本部直轄の案件ゆえ、こちらの懐は何も痛んでいないがな」



<人物紹介>

ビクトル
狼の獣人。ハンターギルド帝都支部のギルドマスター。
上昇志向が非常に強く、利用できるものは何でも利用する。
今回のクイーンサンドワーム討伐に関しては、発生から退治までの時間が異常に短いため、本部が疑問を抱くということを想定しつつも、ファンタールと本部のやりあいを傍観し、結果としてCランクハンターが認められたことには満足している。

アルカス
熊の獣人。ハンターギルド帝都支部の副ギルドマスター。
力こそが全てと考えており、人族を見下す典型的な獣人族。
魔物討伐をメインとしたAランクハンターであり、その実力は確かなもの。
力もあり頭が切れるビクトルに心酔しており、ビクトルの指示には従順である。
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