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第4章 帝都アウシルバード編
55 若きレオーネ③
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皇位継承戦が行われる早朝。レオーネはいつもより早く目が覚めた。
特に緊張しているとか、寝付けなかったというわけでもないが、随分と久しぶりに今は亡き母親の夢をみた。
レオーネの母は酒場の片隅で占いを生業にしていた兎の獣人であった。兎の獣人の女性には美形が多いが、特にレオーネの母であるイライザは美しかった。
イライザと先代皇帝であるフィリップはイライザが働いている酒場で偶然に出会った。
フィリップはお忍びで酒を飲みに来ていた酒場の片隅で、長い列を作っている占い師に目が留まった。美しいこともあるが、イライザが纏う雰囲気に興味を惹かれる。またイライザも店の端でフードを被りお酒を飲んでいる男性がなぜか気になる。
店が終わったあとに出会った二人は、皇帝と平民の占い師という壁が無かったかのように恋に落ちてしまう。
ある日、イライザが懐妊したことが判明する。フィリップは喜んでいたが、イライザは重い気分になっていた。愛する人の子を生みたいが、皇帝の子どもになるのだ。どのような未来が待っているのか分からないことへの不安が大きかった。
フィリップはすぐさま皇宮へと戻り、イライザを側室とし、生まれてくる子を認知して、皇宮に住ませるように部下に命令を出す。
そこで反対したのが皇后であるカミラと正式に認められた3人の側室だ。中でもカミラの怒りは凄まじく、実家のエーバー家まで巻き込んで抗議をした。確かに正しい手続きを踏まずに、愛人という立場のイライザを側室にするというのは皇帝といえども簡単に認められることではない話だ。しかしフィリップは愛するイライザと子どものために、何とか二人を認めてもらいたいと画策する。
そこで妥協案とされたのが、イライザは正式な側室としては認められず、生まれてくる子ども共々皇宮に住めない代わりに、生まれてくる子どもは皇帝の正統な血を継ぐ皇子として認めることだ。
フィリップは正式な側室ではなくとも、生まれてくる子どもと一緒に皇宮に住ませることを主張したが、イライザがそれを断るようにお願いした。皇宮に住むことは自分には過分な待遇であり、子どもと一緒に暮らせるのであればどこでも構わないと。
イライザが平穏な暮らしを望んでいることを汲み取ったフィリップは、街中に子どもと二人で暮らすには立派な住居を用意して、そこに住ませることにした。
そうして生まれたレオーネはとても元気で活発な子どもだった。父親譲りの黄金の毛並みの輝きが、どことなく気品を感じさせるようでもある。たまに会いに来る父親がこの国の皇帝だと知ったときは少し驚きはしたものの、自分にとって何かが変わることでもないため特に気にすることもなかった。
しかし父親から教えてもらった槍の使い方にはとても興味を持った。一度、父親であるフィリップから本気の突きを見せてもらったときは本当に感動して、それからは毎日のように槍の練習に明け暮れた。
10歳のときには周りの環境がとても狭く感じて、ハンターギルドでハンターの登録をした。それからの毎日はとても刺激的だった。ランクが上がっていくのとともに討伐する魔物がどんどん強くなっていく。しかしそれ以上に強くなっていったレオーネは17歳のときにはBランクに昇格していた。
そんなある日、母親のイライザが亡くなってしまう。
もともと身体が弱かったイライザはレオーネが17歳のころには、起きている時間より、寝ている時間の方が長くなっていた。また占い師であったイライザは数年前から自分の死期がこの年であると予感していた。
そのためレオーネには一人で生き抜く強さを身に付けるように、父から習った槍術と自分の教えを叩きこんでいた。レオーネは飛びぬけた才能と惜しまない努力により母の期待をはるかに上回る力を身に付けていた。
それからも今まで以上にハンター活動を精力的にこなしたレオーネは18歳で異例のAランクに認定された。Bランクからわずか1年で昇格することは普通ではありえない。しかしその普通を押しのけるだけの実績を残したレオーネ。魔物討伐に特化した異例のハンターは”黄金の若獅子”と呼ばれるようになっていた。
レオーネは母親の墓前に誓う。小さいころからとても優しく、とても厳しかった母。そのどちらも自分が一人で生きていけるように与えてくれた愛であることを理解していた。
母に誇れる強さを求めて、これからも努力を惜しまず、挑戦し続けていくことを誓いながら、一筋の涙を流した。
まもなく皇位継承戦が行われる。これは母に捧げる挑戦だ。
自分の追い求めてきた強さを、帝国最強と呼ばれる義兄にぶつけることができる唯一の機会である。勝ち負けなどどうでもいいなんて言わない。強さを証明するために、目の前の敵に勝つだけだ。
今までも討伐困難な魔物と何度も戦ってきた。そのたびに限界を超えて強くなってきたという自負がある。今回も限界を超える。そして自身の強さを証明してみせよう。
特に緊張しているとか、寝付けなかったというわけでもないが、随分と久しぶりに今は亡き母親の夢をみた。
レオーネの母は酒場の片隅で占いを生業にしていた兎の獣人であった。兎の獣人の女性には美形が多いが、特にレオーネの母であるイライザは美しかった。
イライザと先代皇帝であるフィリップはイライザが働いている酒場で偶然に出会った。
フィリップはお忍びで酒を飲みに来ていた酒場の片隅で、長い列を作っている占い師に目が留まった。美しいこともあるが、イライザが纏う雰囲気に興味を惹かれる。またイライザも店の端でフードを被りお酒を飲んでいる男性がなぜか気になる。
店が終わったあとに出会った二人は、皇帝と平民の占い師という壁が無かったかのように恋に落ちてしまう。
ある日、イライザが懐妊したことが判明する。フィリップは喜んでいたが、イライザは重い気分になっていた。愛する人の子を生みたいが、皇帝の子どもになるのだ。どのような未来が待っているのか分からないことへの不安が大きかった。
フィリップはすぐさま皇宮へと戻り、イライザを側室とし、生まれてくる子を認知して、皇宮に住ませるように部下に命令を出す。
そこで反対したのが皇后であるカミラと正式に認められた3人の側室だ。中でもカミラの怒りは凄まじく、実家のエーバー家まで巻き込んで抗議をした。確かに正しい手続きを踏まずに、愛人という立場のイライザを側室にするというのは皇帝といえども簡単に認められることではない話だ。しかしフィリップは愛するイライザと子どものために、何とか二人を認めてもらいたいと画策する。
そこで妥協案とされたのが、イライザは正式な側室としては認められず、生まれてくる子ども共々皇宮に住めない代わりに、生まれてくる子どもは皇帝の正統な血を継ぐ皇子として認めることだ。
フィリップは正式な側室ではなくとも、生まれてくる子どもと一緒に皇宮に住ませることを主張したが、イライザがそれを断るようにお願いした。皇宮に住むことは自分には過分な待遇であり、子どもと一緒に暮らせるのであればどこでも構わないと。
イライザが平穏な暮らしを望んでいることを汲み取ったフィリップは、街中に子どもと二人で暮らすには立派な住居を用意して、そこに住ませることにした。
そうして生まれたレオーネはとても元気で活発な子どもだった。父親譲りの黄金の毛並みの輝きが、どことなく気品を感じさせるようでもある。たまに会いに来る父親がこの国の皇帝だと知ったときは少し驚きはしたものの、自分にとって何かが変わることでもないため特に気にすることもなかった。
しかし父親から教えてもらった槍の使い方にはとても興味を持った。一度、父親であるフィリップから本気の突きを見せてもらったときは本当に感動して、それからは毎日のように槍の練習に明け暮れた。
10歳のときには周りの環境がとても狭く感じて、ハンターギルドでハンターの登録をした。それからの毎日はとても刺激的だった。ランクが上がっていくのとともに討伐する魔物がどんどん強くなっていく。しかしそれ以上に強くなっていったレオーネは17歳のときにはBランクに昇格していた。
そんなある日、母親のイライザが亡くなってしまう。
もともと身体が弱かったイライザはレオーネが17歳のころには、起きている時間より、寝ている時間の方が長くなっていた。また占い師であったイライザは数年前から自分の死期がこの年であると予感していた。
そのためレオーネには一人で生き抜く強さを身に付けるように、父から習った槍術と自分の教えを叩きこんでいた。レオーネは飛びぬけた才能と惜しまない努力により母の期待をはるかに上回る力を身に付けていた。
それからも今まで以上にハンター活動を精力的にこなしたレオーネは18歳で異例のAランクに認定された。Bランクからわずか1年で昇格することは普通ではありえない。しかしその普通を押しのけるだけの実績を残したレオーネ。魔物討伐に特化した異例のハンターは”黄金の若獅子”と呼ばれるようになっていた。
レオーネは母親の墓前に誓う。小さいころからとても優しく、とても厳しかった母。そのどちらも自分が一人で生きていけるように与えてくれた愛であることを理解していた。
母に誇れる強さを求めて、これからも努力を惜しまず、挑戦し続けていくことを誓いながら、一筋の涙を流した。
まもなく皇位継承戦が行われる。これは母に捧げる挑戦だ。
自分の追い求めてきた強さを、帝国最強と呼ばれる義兄にぶつけることができる唯一の機会である。勝ち負けなどどうでもいいなんて言わない。強さを証明するために、目の前の敵に勝つだけだ。
今までも討伐困難な魔物と何度も戦ってきた。そのたびに限界を超えて強くなってきたという自負がある。今回も限界を超える。そして自身の強さを証明してみせよう。
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