教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

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第3章 ハンターの町 ボレアザント編

44 ボレアザントの裏通り②

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 蹴られた女の子を見ると、左腕を押さえながら、痛みで辛そうな表情をしている。

「僕は治癒魔法が使えます。その子が怪我をしているようだから、治療をしてあげたいだけなんです。応急処置だけでもさせてくれませんか」

 僕は冷静にお願いをした。別に治療をされて困ることはないはずだ。

「治癒魔法だと? それがどうした。そんなものをさせるつもりはない。同じことを何回も言わせるな! とっとと失せろ!」

 どうやら、この人とは話が進みそうにないな。仕方ない。

「分かりました。それではお願いはしません。勝手に治療します」

 僕は女の子の側に行って魔力を集中する。

「テメエ、何をやってんだよ! 治癒魔法なんて必要ないと言っただろうが。そいつは俺の所有物だ。勝手な真似をするとそいつがただでは済まないぞ!!」

 所有物? 何を言ってるんだ? いい加減にしないと……

「そこまでだ、レン! 魔法を使うのを止めろ!」

 うん? 向こうから大きな声が聞こえてくる。あれ? レナールさん?

「すまねえな。俺の連れが迷惑をかけちまってるみたいで」
「砂漠の変幻のレナールか! あんたの連れだったのか。頼むぜ。いきなりしゃしゃり出てきて俺の奴隷に治療を始めようとするのはマナー違反だろ」
「ああ。悪かったな。まだその辺りのことが分かってないんで大目にみてくれないか。怪我をしているのを見て、居ても経ってもいられなくなったんだろう」
「仕方ないな。まあ有名なあんたの頼みならこれで終わりにするとしよう。その小僧にはしっかりと常識を教えといてくれよ」
「ああ、分かった。しかし一つ聞きたいんだが、その子の怪我はどうするつもりなんだ?」
「ふん。あんたにも関係ない話のはずだがな。まあいい。おい! その娘を連れてこい!」

 命じられた熊の獣人の男の子が、ウサギの獣人の女の子を連れて行く。すると狼の獣人の男が魔力を集めて、女の子の左腕に手をかざす。治癒魔法だ!

「これで安心したか? 俺の奴隷たちへの指導や教育に口出しは無用だぜ。今回はBランクハンターのあんたの顔を立てたがな」
「ああ。感謝するよ」

 そのあとレナールさんに声をかけられて、僕はレナールさんとハンターギルドに向かって歩きだした。

「レン。奴隷のことは知ってるか?」
「あっ。そういえばルシアが安易に手を出してはいけないと言ってた……」
「そうだ。サンネイシス帝国では奴隷制度は普通のことだ。奴隷は主人の所有物扱いとなり、主人の意向に逆らうことはできない。第三者が手出しすることもできないのだ」
「僕は普通に働いてる女の子が怪我をさせられたと思ったから……。奴隷と思わなかったんです」
「ああ。そういうことか。奴隷の見分け方を知らないんだな」
「見分け方があるんですか?」
「奴隷かどうかはすぐに分かる。奴隷は全員首輪をつけさせられているんだ。首輪は魔道具になっていて奴隷魔法がかけられている。奴隷魔法による契約内容はそれぞれ違うんだが、一般的には主人に逆らうことはできないとか、主人が取り決めたことを破ることはできないとかだな。共通しているのは奴隷魔法を解除せずに首輪を外すことはできないってことだ」

 そう言われると、あの女の子も男の子も首輪を付けてた。あれは奴隷という意味だったのか。

「レナールさん、あんなに小さな子どもが奴隷になることもあるんですか?」
「色んなパターンがあるが、普通にあることだ。奴隷同士の子どもということもあるし、子どもでも犯罪を犯す者もいる。おそらくさっきのパターンは親が子どもを奴隷商に売ったのかもしれんな」
「親が子どもを奴隷として売るんですか!?」
「違法行為なんだが、実際にはあるんだよ。貧しい家庭で育てられない子どもを奴隷商に売ることが。
 子どものことなんて何とも思わず奴隷商に売る非道な親もいるが、食事もまともに食べさせられず、奴隷としてでも生きてさえいてくれればと思う者もいる。
 捨て子を奴隷契約することは認められているから、奴隷商は買った子どもを捨て子だったことにして、奴隷契約して売るわけだ」
「……すみません。すぐに気持ちの整理がつかないです……」
「他国から来て、特にお前はまだ小さいんだから奴隷制度をすんなりと受け入れるのは難しいだろうな」

 レナールさんが言うとおり、僕は奴隷制度を目の当たりにして、ショックを受けていた。ルシアから奴隷制度があるとは聞いてたけど、勝手に奴隷は大人だと思い込んでいた。それに親が子どもを奴隷商に売るなんて信じられなかったけど、レナールさんの説明を聞いていると単純な問題では無いことも分かった。

「ちなみにだが、さっきのは奴隷に怪我させたのはやりすぎだと思うが、服もきれいなものを着せていたし、健康状態も悪くなさそうだったから、きちんとした食事も与えているのだろう。そういう意味では酷い扱いをされていないとも言える。何をもって酷いと考えるのかにもよるが、そういう見方もあるということだ」
「はい。僕も物事を一面的にとらえては駄目なんだなと学びました。僕自身の一方的な正義感を振りかざすつもりもないです。ショックはありますけど、自分がすべきことをしっかりと考えていきたいと思います」
「世の中にはたくさんの楽しいことがあるが、辛いこともある。色んな経験をする中で挫折することがあるかも知れない。そんなときは立ち止まってもいいさ。お前ならきっと乗り越えられると思うし、俺でよければ頼ってくれな」

 レナールさんがニカッと微笑んだ。

「はい! ありがとうございます!」
「よ~し、そうしたらルシアさんとも合流して旨いものを食いに行こうぜ!」

 僕たちは集合場所のハンターギルドまで色んなことを話しながら歩いて行った。
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