教え上手な龍のおかげでとんでもないことになりました

明日真 亮

文字の大きさ
上 下
8 / 131
第1章 ウェリス王立学園編

07 ルシアと登校

しおりを挟む

 次の日、どこからか帰ってきたステラは俺達と合流した後にテッカンさんの工房へとやってきた。
 
「こ、これは――魔炎鋼竜の牙じゃねーか!」
「嘘、マジで!?」
「ステラ、これどうしたんだよ」
「少しツテがあってな。国庫に置いてあったから貰ってきた」
「そんな簡単に取って来れるのか」
「で、父ちゃん。これでコンテスト用の武器も作れるし、万々歳やん」
 
「……いや、これだけだと足りねぇ」
 
「はい?」
「ガッチンの野郎はこの竜の素材をある程度は自由に使えるはずだ。鱗や爪、髭や翼――竜は武具素材の宝庫と言ってもいい。だからこそあのアルマステンの解析が必要なんじゃ」
「その解析の進捗は?」
「まだ時間が欲しいが……だからステラとヨーイチには、もう1つだけ強い素材を探してきて欲しい」
「どういったモノを?」
「何らかのマテリアル鋼の最高品質のモノであれば……」
「アホか! そんな高いもんそうそう市場に出とるか!」
 
 マテリアル鋼の事も調べたが、購入するにはやはり錬金術の工房へ直接出向いて頼むしかないか。
 でも俺の手持ちじゃ全然足りなさそうだし、借金か……。
 
『マテリアル鋼は人為的な方法で精製する以外にも方法があります』
 
(え、どうするの?)
 
 『先程のドワーフの言っていた通り、竜の肉体は天然のマテリアル鋼と言えます。生物由来の素材は、通常の金属と違い反発現象が起き難いとされます』
 
(でも竜なんかどこに居るか分かんないし……)
 
 『かつて私の時代にマテリアル鋼を量産する計画がありました。岩や魔鉱石のみを食すよう改良し、体内で精製するモノでした。しかし精製には長い長い年月を掛けねばならず、計画は頓挫しました』
 
(ダメじゃん)
 
 『しかしその時の実験生物が野に放たれています。当時の名前は魔鋼竜マグナドラゴンです。そしてそれは、この地にも居るはずです』
 
「居るはずって。テッカンさん知ってます? 岩や魔鉱石を好んで食べる生物……」
「あぁ? 岩や魔鉱石を好んで食べる……どっかで聞いた事ある特徴だな」
「いやそれ鉱山喰いマインイーターやん」
「そうだ鉱山喰い……鉱山喰いか! その方法があったか!」
 
 テッカンは部屋の奥へ引っ込み、1冊の分厚い本を持って帰ってきた。
 
「コイツは魔鉱石の取れる鉱山に住み着き、そこにある鉱石を根こそぎ食っちまう害獣だ。向こうから人を襲う事も無いし、1年の殆どを岩の中で寝て過ごす。そのあまりの硬さ故に一般冒険者じゃ文字通り歯が立たねぇから、討伐もほぼ無理な奴だ」
「……でも、ウチらドワーフなら別や」
「ルビィ。お前はすぐに他の工房の奴らに声を掛けてくれ、儂から話があると。鍛冶屋通りの広場だ」
「分かった!」


  ◇◆◇◆◇◆◇

 
 それから数時間後の夜、広場にテッカンと共に俺達は居た。
 テッカンの人望がどれほどあるのか――それはこれを見たら納得するしかない。
 総勢100人ほどか。老若男女、ノーマン(人間)にドワーフや……エルフの職人なんてのも居るのか。
 
「テッカン! 帰って来てたんならすぐに声掛けろよな!」
「みんな済まなかったな! 儂が己の職人人生を掛けて王都へ行ったのは知っていると思うが、色々あって今はギリギリの所にいる」
 
 ここでざわめく職人達――。
 
「その間にここの区域に大手武器工場が出来たせいで、鍛冶屋通りに今までの活気が失われつつある事も知っている」

 それで妙に客が少なかったのか。
 もしかして、俺が大通りで買った武器屋もそういう関係があったのかな。
 
「しかし、それを解決できる妙案がある。ドワーフの皆は昔……100年前くらいにやった鉱山狩りの事は覚えているな」
「おぉ、おぉ……まさかやるのか!?」
「今回も国に黙ってやる事にした。だから参加は強制じゃない……じゃが素材を持って帰る事が出来れば、鍛冶屋通りの新たな名物として売り出せる!」
「いいぜやろうぜ!」
「どうせ暇だしな!」
 
 ドワーフ職人はみんな乗り気だ。他の職人、特に若い人らは良い顔をしてなかったが、反対する気は無さそうだ。
 
「出発は急だが明後日、西の鉱山へ行く!」

「「おぉー!!」」

  ◇◆◇◆◇◆◇
 
 という事があって出発の日。
 早朝、中央広場には30人ほどの職人達が集まっていた。各々の荷物を馬車に積み込み、計8台。これだけ多いと壮観である。

「って父ちゃんも着いて来るんか」
「当たり前だ。責任者の儂が行かんと示しが付かんだろう」
「解析は?」
「必要なもんは積んだ。現場近くに放棄された町があるはずだから、そこでやる」
「全部積み込んだ。出れるぞー!」
「よし。出発じゃー!!」

  ◇◆◇◆◇◆◇

 
 西への街道を進むこと1日。途中から旧街道へ入りさらに1日進んだ所に目的の鉱山はあった。
 道中、立て札で『この先、魔物が住み着いた鉱山。危険』と書かれているのをいくつか見つけるが、当然一団は気にせず進む。
 町の入り口の封鎖を勝手に壊し、一団は街へと入った。
 もう住民が居なくなり何年も経ったのだろう。中には朽ちてしまったような家屋もある。
 かつてのメインストリートを通り、一団は鉱山の入り口へとやってきた。
 
「よしみんな。まずはお疲れ様じゃ! 本格的な探索は明日から行うから、各自準備を進めてくれ」
「「「うーすっ」」」
 
 俺はキャンプ用のテントの設営をやったり、薪を集めるのを手伝ったりしていたのだが、何故だろう。どこからか視線を感じる気がする。
 
「ニーアはどうだ」
 
『不明。私のセンサーには、何も感知しておりません』
 
「……気のせいかな」
 
 ちなみにニーアのセンサーはそこまで広くはない。俺を中心に200mくらいだ。あまり広すぎると拾う情報が増えすぎて処理が難しくなるらしい。
 向こうの方では、既に職人達の笑い声が聞こえる。
 
「あの人達、今晩も酒ばっか飲むんだろうなぁ」


 
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

終了し強制力の無くなった乙女ゲームの世界の悪役令嬢のその後…

クロノス
恋愛
私はよくある異世界に転生した元日本人で社会人だった。仕事の帰り道によくあるトラック事故にて呆気なく死んでしまった/(-_-)\ まさかの転生先が前世で何度もプレーする程大好きだった乙女ゲームの中の悪役令嬢になっていた。 私の前世の推しである悪役令嬢になるなんて~ 攻略対象者?ヒロイン?知りません! って思ってたらヒロインめちゃくちゃウザイし攻略対象者もめちゃくちゃウザイ… 強制力やっぱりあるし( ・᷄ὢ・᷅ ) 強制力あっても何とか逞しく乗り切ろうとする悪役令嬢に転生した私の物語 女神の愛し子の私に冤罪って… って何故かどんどん話のスケールがでかくなってませんか!? ゆるふわ設定です! 頭をラフにしてお読み下さい(*^^*)

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

食うために軍人になりました。

KBT
ファンタジー
 ヴァランタイン帝国の片田舎ダウスター領に最下階位の平民の次男として生まれたリクト。  しかし、両親は悩んだ。次男であるリクトには成人しても継ぐ土地がない。  このままではこの子の未来は暗いものになってしまうだろう。  そう思った両親は幼少の頃よりリクトにを鍛え上げる事にした。  父は家の蔵にあったボロボロの指南書を元に剣術を、母は露店に売っていた怪しげな魔導書を元に魔法を教えた。    それから10年の時が経ち、リクトは成人となる15歳を迎えた。  両親の危惧した通り、継ぐ土地のないリクトは食い扶持を稼ぐために、地元の領軍に入隊試験を受けると、両親譲りの剣術と魔法のおかげで最下階級の二等兵として無事に入隊する事ができた。  軍と言っても、のどかな田舎の軍。  リクトは退役するまで地元でのんびり過ごそうと考えていたが、入隊2日目の朝に隣領との戦争が勃発してしまう。  おまけに上官から剣の腕を妬まれて、単独任務を任されてしまった。  その任務の最中、リクトは平民に対する貴族の専横を目の当たりにする。  生まれながらの体制に甘える貴族社会に嫌気が差したリクトは軍人として出世して貴族の専横に対抗する力を得ようと立身出世の道を歩むのだった。    剣と魔法のファンタジー世界で軍人という異色作品をお楽しみください。

狼の子 ~教えてもらった常識はかなり古い!?~

一片
ファンタジー
バイト帰りに何かに引っ張られた俺は、次の瞬間突然山の中に放り出された。 しかも体をピクリとも動かせない様な瀕死の状態でだ。 流石に諦めかけていたのだけど、そんな俺を白い狼が救ってくれた。 その狼は天狼という神獣で、今俺がいるのは今までいた世界とは異なる世界だという。 右も左も分からないどころか、右も左も向けなかった俺は天狼さんに魔法で癒され、ついでに色々な知識を教えてもらう。 この世界の事、生き延び方、戦う術、そして魔法。 数年後、俺は天狼さんの庇護下から離れ新しい世界へと飛び出した。 元の世界に戻ることは無理かもしれない……でも両親に連絡くらいはしておきたい。 根拠は特にないけど、魔法がある世界なんだし……連絡くらいは出来るよね? そんな些細な目標と、天狼さん以外の神獣様へとお使いを頼まれた俺はこの世界を東奔西走することになる。 色々な仲間に出会い、ダンジョンや遺跡を探索したり、何故か謎の組織の陰謀を防いだり……。 ……これは、現代では失われた強大な魔法を使い、小さな目標とお使いの為に大陸をまたにかける小市民の冒険譚!

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

公爵家三男に転生しましたが・・・

キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが… 色々と本当に色々とありまして・・・ 転生しました。 前世は女性でしたが異世界では男! 記憶持ち葛藤をご覧下さい。 作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

処理中です...