24 / 56
ずっとずっと、年上の人(俺)
しおりを挟む
ウィムが俺に向かって手を伸ばす。
やたらと艶かしく迫ってくる指先から距離を取ろうと足を引いた時、ウィムの手はティルダムの手に包まれた。
「……」
ティルダムが静かに首を振る。よくみれはティルダムのもう片方の手はまだウィムの腰に添えられていた。
「あら、ティルちゃんヤキモチぃ? ちょっとからかっただけよぉ」
笑顔を見せるウィムに、ティルダムは心配そうに言った。
「休もう」
「アタシを誘ってくれてるの?」
「……無理は、よくない……」
ティルダムがひょいとウィムを抱き上げる。
荷物程度の気やすさで、師範よりもガタイのいいウィムはティルダムの片腕に収まった。
「じゃあ、甘えちゃおうかしらね。話は、また後でね……」
どこか苦々しく呟いたウィムが目を閉じると、ティルダムは俺たちに頭を下げて、部屋を出て行った。
途端、部屋の気温が下がったような気がして、俺は思わず師範を振り返る。
師範は話の途中で立ち上がったままの姿で、じっと立ち尽くしていた。
片手が顔を覆っていて表情まではわからないが、どうやら動揺しているようだ。
「……師範……」
そっと肩に触れると、ビリッと手の平が痺れて弾かれる。
この感覚も、なんだか久しぶりだな。
今更ながらに気付く自分が、本当にバカで、情けない。
師範が不安定な時に触ると弾かれたりするのは、師範が魔族だったから、だ……。
今まで俺は師範の事を、魔力の多い人だから、心が乱れるとそういったものが漏れているんだろうな。なんて勝手に思い込んでいた。
「あ……。ご、ごめんなさい……」
謝る師範に、俺はもう一度触れる。
「こんなの大したことない」
そっと胸に抱き寄せると、師範は大人しく俺の腕の中に収まった。
……抵抗しないんだな。
もっと押し返されたりするんじゃないかと思っていた俺は、なんだかもう、それだけで嬉しくなってしまって、問題なんて何もないような気がしてしまう。
マズイな。一度問題を整理しよう。
俺を育ててくれたこの人は、魔族……いや、ウィムは魔王だと言ってたな。
北の魔王については俺も噂を聞いたことがある。
雪に溶け込む真っ白な姿に、闇色の瞳を持つ、永遠の時を生きる魔王だと。
なんでも千年以上は生き続けている魔王で、その魔力には限りがないとかなんとか……。
……いや、待ってくれ。
――千年……??
確かに師範は俺が子どもの頃から少しも変わらず美しいと思う。
この白い頬も、輝く白銀の髪も、吸い込まれそうな深い闇色の瞳も、確かに伝承の北の魔王の特徴と同じだが……。
師範は……千年以上前からずっとこの姿なのか……?
年上なのは百も承知だが、それにしたって、千年以上も離れてるだなんて思いもしなかった。
こうやって師範の背を追い越して、俺も少しは大人になったつもりでいたのに。
もしかして、師範から見たら今の俺ですら、ほんの小さなガキなんじゃないのか?
「……ギリル?」
不安げな声がして、俺は腕の中の師範を覗き込んだ。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや。ちょっと……」
アホな事を考えていた自分が恥ずかしすぎて、思わず視線を泳がせる。
そんな俺を見て、師範が小さく苦笑した。
「なんですか?」
それがたまらなく嬉しくて、俺はつい口を開いた。
「その、さ。師範から見たら、俺はまだまだガキに見えてんのかな……って」
「そんな事を考えていたんですか?」
師範は驚きを通り越したのか、呆れたような声で言った。
「いや、だって。北の魔王って、千年も生きてるんだろ?」
「……ギリルは、彼の言葉を信じたのですか?」
「違うのか?」
俺が尋ね返せば、師範はシュンと俯いて、どこか悔しそうに答えた。
「……違いません、が……」
なんだこれ。
師範もしかして拗ねてんのか?
俺がウィムの言葉をホイホイ信じるからか?
いや、可愛すぎんだろ。
俺は思わず腕の中の師範を抱きしめて、その額に口付けた。
「や、やめてください」
慌てたその口ぶりも、俺には可愛く思えてしまう。
「なぁ、師範……。俺のこと、どう思ってる?」
耳元で囁けば、師範の細い肩が揺れる。
「ギ、ギリルはギリルですっ」
「それはズルイだろ」
「……っ、ギリルは……、私の弟子で、聖剣に認められた勇者で、私の願いを叶えてくれる唯一の人です」
「それはもっとズルくないか?」
俺の言葉に師範は息を詰める。
「……私は、狡くて身勝手で、汚いんです」
「そこまで言ってねーだろ」
俺に全てを話したからか、師範はどうも昨日から時折子どもっぽい部分を覗かせている。
俺の保護者という立場を、この人はもう捨てたのだろうか。
それは寂しい事ではあったが、それで師範が俺のことを一人の男として見てくれるのなら……。
「なぁ、師範……。俺のこと、好き?」
やたらと艶かしく迫ってくる指先から距離を取ろうと足を引いた時、ウィムの手はティルダムの手に包まれた。
「……」
ティルダムが静かに首を振る。よくみれはティルダムのもう片方の手はまだウィムの腰に添えられていた。
「あら、ティルちゃんヤキモチぃ? ちょっとからかっただけよぉ」
笑顔を見せるウィムに、ティルダムは心配そうに言った。
「休もう」
「アタシを誘ってくれてるの?」
「……無理は、よくない……」
ティルダムがひょいとウィムを抱き上げる。
荷物程度の気やすさで、師範よりもガタイのいいウィムはティルダムの片腕に収まった。
「じゃあ、甘えちゃおうかしらね。話は、また後でね……」
どこか苦々しく呟いたウィムが目を閉じると、ティルダムは俺たちに頭を下げて、部屋を出て行った。
途端、部屋の気温が下がったような気がして、俺は思わず師範を振り返る。
師範は話の途中で立ち上がったままの姿で、じっと立ち尽くしていた。
片手が顔を覆っていて表情まではわからないが、どうやら動揺しているようだ。
「……師範……」
そっと肩に触れると、ビリッと手の平が痺れて弾かれる。
この感覚も、なんだか久しぶりだな。
今更ながらに気付く自分が、本当にバカで、情けない。
師範が不安定な時に触ると弾かれたりするのは、師範が魔族だったから、だ……。
今まで俺は師範の事を、魔力の多い人だから、心が乱れるとそういったものが漏れているんだろうな。なんて勝手に思い込んでいた。
「あ……。ご、ごめんなさい……」
謝る師範に、俺はもう一度触れる。
「こんなの大したことない」
そっと胸に抱き寄せると、師範は大人しく俺の腕の中に収まった。
……抵抗しないんだな。
もっと押し返されたりするんじゃないかと思っていた俺は、なんだかもう、それだけで嬉しくなってしまって、問題なんて何もないような気がしてしまう。
マズイな。一度問題を整理しよう。
俺を育ててくれたこの人は、魔族……いや、ウィムは魔王だと言ってたな。
北の魔王については俺も噂を聞いたことがある。
雪に溶け込む真っ白な姿に、闇色の瞳を持つ、永遠の時を生きる魔王だと。
なんでも千年以上は生き続けている魔王で、その魔力には限りがないとかなんとか……。
……いや、待ってくれ。
――千年……??
確かに師範は俺が子どもの頃から少しも変わらず美しいと思う。
この白い頬も、輝く白銀の髪も、吸い込まれそうな深い闇色の瞳も、確かに伝承の北の魔王の特徴と同じだが……。
師範は……千年以上前からずっとこの姿なのか……?
年上なのは百も承知だが、それにしたって、千年以上も離れてるだなんて思いもしなかった。
こうやって師範の背を追い越して、俺も少しは大人になったつもりでいたのに。
もしかして、師範から見たら今の俺ですら、ほんの小さなガキなんじゃないのか?
「……ギリル?」
不安げな声がして、俺は腕の中の師範を覗き込んだ。
「どうかしましたか?」
「ああ、いや。ちょっと……」
アホな事を考えていた自分が恥ずかしすぎて、思わず視線を泳がせる。
そんな俺を見て、師範が小さく苦笑した。
「なんですか?」
それがたまらなく嬉しくて、俺はつい口を開いた。
「その、さ。師範から見たら、俺はまだまだガキに見えてんのかな……って」
「そんな事を考えていたんですか?」
師範は驚きを通り越したのか、呆れたような声で言った。
「いや、だって。北の魔王って、千年も生きてるんだろ?」
「……ギリルは、彼の言葉を信じたのですか?」
「違うのか?」
俺が尋ね返せば、師範はシュンと俯いて、どこか悔しそうに答えた。
「……違いません、が……」
なんだこれ。
師範もしかして拗ねてんのか?
俺がウィムの言葉をホイホイ信じるからか?
いや、可愛すぎんだろ。
俺は思わず腕の中の師範を抱きしめて、その額に口付けた。
「や、やめてください」
慌てたその口ぶりも、俺には可愛く思えてしまう。
「なぁ、師範……。俺のこと、どう思ってる?」
耳元で囁けば、師範の細い肩が揺れる。
「ギ、ギリルはギリルですっ」
「それはズルイだろ」
「……っ、ギリルは……、私の弟子で、聖剣に認められた勇者で、私の願いを叶えてくれる唯一の人です」
「それはもっとズルくないか?」
俺の言葉に師範は息を詰める。
「……私は、狡くて身勝手で、汚いんです」
「そこまで言ってねーだろ」
俺に全てを話したからか、師範はどうも昨日から時折子どもっぽい部分を覗かせている。
俺の保護者という立場を、この人はもう捨てたのだろうか。
それは寂しい事ではあったが、それで師範が俺のことを一人の男として見てくれるのなら……。
「なぁ、師範……。俺のこと、好き?」
10
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
壊すほどに、俺はお前に囚われている
氷月
BL
【後輩と先輩、交錯する心と体】
春、新学期の大学キャンパス。
4年の蓮(レン)は、人気者らしく女子に囲まれながらも、なぜか新入生・七瀬巧(タクミ)の姿を探してしまう自分に気づいていた。
彼は去年の秋、かつて蓮が想いを寄せていた男の恋人の友人として出会った相手。
――まさか、この俺様が、また男に惹かれるなんて。
否定しようとすればするほど、目はタクミを追ってしまう。
無邪気に笑う顔。ふと見せる真剣な横顔。
先輩と後輩、互いに抗えない感情に囚われながら、夏の学園を駆け抜けていく――。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる