20 / 56
翌朝(俺)
しおりを挟む
遠くで鳥の声がする。
ああ、もう朝か。
師範が起きる前に朝の修練を終えないと。
硬いベッドから身を起こせば、ギィと小さく軋んだ音がした。
「んんー……。 なぁにぃ? もう起きたのぉ?」
隣のベッドから眠そうな声をかけられて、そういや今夜はウィムリド……通称ウィムの部屋に泊めてもらったんだと思い出す。
普段は俺と師範で一部屋、ウィムとティルダムで一部屋使っているが、昨夜は俺が師範と同じ部屋で寝て、余計なことを聞かずにいる自信がなかった。
昨夜遅くに「ごめん、どっちか俺と部屋変わってくれ」と二人の部屋を訪ねると、ウィムは面倒そうに「あらぁ? 喧嘩でもしちゃったわけぇ?」と言い、ティルダムは一つ頷いて愛用の枕を抱え、ベッドを空けてくれた。
だから、師範は今頃ティルダムと同じ部屋で寝ているはずだ。
「走ってくる」
「ぁあ、毎朝偉いわねぇ。頑張ってねぇ」
ウィムは目を閉じたままぞんざいに答えると、布団を引っ張り上げてゴロリと背を向けた。
持ち上げられた布団から白く長い脚がのぞく。
そこにはレースで縁取られたひらひらした薄紫の布がかかっているが、それきりで、ズボンを履いているような様子はない。
「おいウィム、寝間着くらい着ろよ」
「んー……? ネグリジェ着てるじゃないのよぅ」
「ズボンも履け」
「これでも裸じゃないだけアンタに気を遣ってるのよぅ?」
確かに、急に押しかけたのは俺だし、こいつの趣味に文句を言っても仕方ないな。
「……起こして悪かったな」
「いいわよぉ」
俺はため息を飲み込むと、剣の下がったベルトを巻いて部屋を出た。
宿を裏手から出て、そう大きくない村を一周するように走り始める。
ウィムは聖職者で、俺たちと同じ男性だ。
ちなみに、ウィムの事をウィムリドと呼ぶと「男っぽい名前で呼ばないでよぉ」なんて文句を言われる。だから俺たちは仕方なくウィムとかウィーとか適当に略して呼んでいた。
普段から喋り方はああだし、女性聖職者の服を着ているが、何をどうしてか凄腕のヒーラーだった。
俺のいるパーティーは攻撃担当の剣士の俺と、頭脳担当で魔法使いの師範に、回復と支援担当の聖職者のウィム、防御担当の重戦士のティルダムという四人構成だ。
四人というのは討伐メインのパーティーとしては少ないらしく、大概七~八人は必要らしい。そんなわけで行く先々で驚かれることは多いが、俺は今のパーティーに過不足は感じていなかった。
ああ……、そうか。
それはきっと、師範が特別だったから……か。
師範の使う術は、今まで他のパーティーにいたというウィムもティルダムも見たことがない物が多い。
師範は遠い北の国の術だと言って笑ったが、そうではなかったんだろう。
いや、遠い遠い北の山向こうには魔族の国があると言われている。
師範は……そこに居た事があるんだろうか。
止まない疑問が次から次へと頭を埋め尽くして、じわじわ足が重くなってゆく。
いつもの早朝修練を済ませて宿の一階にある食堂に入ると、師範以外の二人はすっかり食事を終えていた。
「あらぁ、遅かったわねぇ。先に食べちゃったわよぅ?」
ひらひらと手を振って俺に声をかけてきたのは、さっきのウィムだ。
やはり、首元まで詰まった女性聖職者の服を着ていた。
足元はずっしりと重そうなロングスカートだが、脚は分厚いタイツが残さず覆い隠している。
鮮やかな紫の髪に、紫がかった青い瞳。背は俺よりは低いが師範より高い。
癖のあるウェーブがかった髪が、顔周りを華やかに包んでいる。
後ろ側は襟足だけが少し長いが結ぶほどの長さはなく、これで化粧をせずに男らしい服を着ていれば、相当な美丈夫に見えそうなものだが、本人にその気はまるでないようだ。
「ああ。悪かったな」
食事が終わっても俺を待っていたのか、それとも師範を一人残せずに付き合っててくれたのか、俺は二人に小さく頭を下げた。
ああ、もう朝か。
師範が起きる前に朝の修練を終えないと。
硬いベッドから身を起こせば、ギィと小さく軋んだ音がした。
「んんー……。 なぁにぃ? もう起きたのぉ?」
隣のベッドから眠そうな声をかけられて、そういや今夜はウィムリド……通称ウィムの部屋に泊めてもらったんだと思い出す。
普段は俺と師範で一部屋、ウィムとティルダムで一部屋使っているが、昨夜は俺が師範と同じ部屋で寝て、余計なことを聞かずにいる自信がなかった。
昨夜遅くに「ごめん、どっちか俺と部屋変わってくれ」と二人の部屋を訪ねると、ウィムは面倒そうに「あらぁ? 喧嘩でもしちゃったわけぇ?」と言い、ティルダムは一つ頷いて愛用の枕を抱え、ベッドを空けてくれた。
だから、師範は今頃ティルダムと同じ部屋で寝ているはずだ。
「走ってくる」
「ぁあ、毎朝偉いわねぇ。頑張ってねぇ」
ウィムは目を閉じたままぞんざいに答えると、布団を引っ張り上げてゴロリと背を向けた。
持ち上げられた布団から白く長い脚がのぞく。
そこにはレースで縁取られたひらひらした薄紫の布がかかっているが、それきりで、ズボンを履いているような様子はない。
「おいウィム、寝間着くらい着ろよ」
「んー……? ネグリジェ着てるじゃないのよぅ」
「ズボンも履け」
「これでも裸じゃないだけアンタに気を遣ってるのよぅ?」
確かに、急に押しかけたのは俺だし、こいつの趣味に文句を言っても仕方ないな。
「……起こして悪かったな」
「いいわよぉ」
俺はため息を飲み込むと、剣の下がったベルトを巻いて部屋を出た。
宿を裏手から出て、そう大きくない村を一周するように走り始める。
ウィムは聖職者で、俺たちと同じ男性だ。
ちなみに、ウィムの事をウィムリドと呼ぶと「男っぽい名前で呼ばないでよぉ」なんて文句を言われる。だから俺たちは仕方なくウィムとかウィーとか適当に略して呼んでいた。
普段から喋り方はああだし、女性聖職者の服を着ているが、何をどうしてか凄腕のヒーラーだった。
俺のいるパーティーは攻撃担当の剣士の俺と、頭脳担当で魔法使いの師範に、回復と支援担当の聖職者のウィム、防御担当の重戦士のティルダムという四人構成だ。
四人というのは討伐メインのパーティーとしては少ないらしく、大概七~八人は必要らしい。そんなわけで行く先々で驚かれることは多いが、俺は今のパーティーに過不足は感じていなかった。
ああ……、そうか。
それはきっと、師範が特別だったから……か。
師範の使う術は、今まで他のパーティーにいたというウィムもティルダムも見たことがない物が多い。
師範は遠い北の国の術だと言って笑ったが、そうではなかったんだろう。
いや、遠い遠い北の山向こうには魔族の国があると言われている。
師範は……そこに居た事があるんだろうか。
止まない疑問が次から次へと頭を埋め尽くして、じわじわ足が重くなってゆく。
いつもの早朝修練を済ませて宿の一階にある食堂に入ると、師範以外の二人はすっかり食事を終えていた。
「あらぁ、遅かったわねぇ。先に食べちゃったわよぅ?」
ひらひらと手を振って俺に声をかけてきたのは、さっきのウィムだ。
やはり、首元まで詰まった女性聖職者の服を着ていた。
足元はずっしりと重そうなロングスカートだが、脚は分厚いタイツが残さず覆い隠している。
鮮やかな紫の髪に、紫がかった青い瞳。背は俺よりは低いが師範より高い。
癖のあるウェーブがかった髪が、顔周りを華やかに包んでいる。
後ろ側は襟足だけが少し長いが結ぶほどの長さはなく、これで化粧をせずに男らしい服を着ていれば、相当な美丈夫に見えそうなものだが、本人にその気はまるでないようだ。
「ああ。悪かったな」
食事が終わっても俺を待っていたのか、それとも師範を一人残せずに付き合っててくれたのか、俺は二人に小さく頭を下げた。
10
あなたにおすすめの小説
竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜
レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」
魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。
彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。
勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される
八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。
蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。
リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。
ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい……
スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)
もう一度言って欲しいオレと思わず言ってしまったあいつの話する?
藍音
BL
ある日、親友の壮介はおれたちの友情をぶち壊すようなことを言い出したんだ。
なんで?どうして?
そんな二人の出会いから、二人の想いを綴るラブストーリーです。
片想い進行中の方、失恋経験のある方に是非読んでもらいたい、切ないお話です。
勇太と壮介の視点が交互に入れ替わりながら進みます。
お話の重複は可能な限り避けながら、ストーリーは進行していきます。
少しでもお楽しみいただけたら、嬉しいです。
(R4.11.3 全体に手を入れました)
【ちょこっとネタバレ】
番外編にて二人の想いが通じた後日譚を進行中。
BL大賞期間内に番外編も完結予定です。
逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦
雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、
隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。
しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです…
オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が
なかたのでした。
本当の花嫁じゃない。
だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、
だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という
お話です。よろしくお願いします<(_ _)>
壊すほどに、俺はお前に囚われている
氷月
BL
【後輩と先輩、交錯する心と体】
春、新学期の大学キャンパス。
4年の蓮(レン)は、人気者らしく女子に囲まれながらも、なぜか新入生・七瀬巧(タクミ)の姿を探してしまう自分に気づいていた。
彼は去年の秋、かつて蓮が想いを寄せていた男の恋人の友人として出会った相手。
――まさか、この俺様が、また男に惹かれるなんて。
否定しようとすればするほど、目はタクミを追ってしまう。
無邪気に笑う顔。ふと見せる真剣な横顔。
先輩と後輩、互いに抗えない感情に囚われながら、夏の学園を駆け抜けていく――。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる