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番外編
出張の、半ば【読切】
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ルス……今頃何してんのかな……。
両膝を抱えるようにして、窓の外を眺めていた金髪碧眼の男がため息を吐く。
「元気にしてんのかな……」
抱えた膝に額を押し付けて、男は青い瞳を閉じた。
ルスに会いたいな……。
口には出さなかったのに。それでもその欲求を認めた途端、会いたくて会いたくてたまらなくなる。
顔が見たい。今すぐに。
あの優しくて小さな黒い瞳で、俺を見て笑ってほしい。
互いに中隊長だった頃は、それぞれが別の遠征に出れば数ヶ月顔を合わせない事だってざらだったのに。
共に暮らすようになって、初めてのルスの出張。戦闘の予定もないし、ほんの二週間ほどで戻ってくる。ルスは俺よりずっと真面目で堅い奴だし、ちっとも心配なんてない。
そう思ってた。
なのにさ、こんなの。
ほんとに。全然予想してなかったんだよ。
まさかこの俺が。
だってもう、こんな歳になってんのに?
誰が見たって立派なおっさんだろ?
それがまさか。
一週間も経たねーっつーのに、こんな寂しくてたまんなくなるなんて思うか???
酒でも飲みに行こっかな。なんて思ってしまってから、慌てて首を振る。
いやいや、約束しただろ。
ルスが不在の間は一人で飲みに行かねーって。
どうもルスは俺が酒に弱いとこが心配らしい。
ベロベロに酔わされて、拐われでもしたら困るって、あんな真面目に心配されたら、絶対行かねーって言うしかねーだろ?
まあ、そんな事はまずありえねーと思うんだけどさ。
俺の事、取られたら困るみたいに言われたらさ。
……嬉しいよな……。
にへ、と緩んでしまった口元をそのままに、記憶の中で笑うルスを見つめる。
ああ、ルスに触れたいなぁ……。
あの分厚い胸と優しい腕に包まれたい。
そして、あの温かい手で、唇で、触れてほしい。
肌に蘇るその感触に、じわじわと息が上がってどうしようもなくなってくる。
「なあ……。早く帰ってきてくれよ、ルス……」
----------
誰かに呼ばれた気がして、俺は空を見上げた。
夜空には大きな三日月がひとつポツンと浮かんでいた。
細い金色にあいつの金髪が重なる。
そもそも、俺を呼ぶ奴なんてあいつくらいのもんだろう。
ルストックは、黒い小さな瞳を細めて月を見つめる。
レイは今頃どうしてるだろうか。
全く平気だと言ってはいたが、あいつのことだ。本当にそうだとは思わない方がいいだろう。
俺がいなくて……本当は今頃寂しがっているんじゃないか?
余裕そうな顔をしていたが、あいつは随分と寂しがりだからな。
それに自覚がないのがいけない。
若い頃は甘い誘いに誘われるまま、次々に手を出していたくせに『別に寂しいわけじゃねーよ』なんてよく言ったものだ。
……いや、あれはあの頃の俺の聞き方が悪かったのかも知れんな。
俺が側にいないなら、あいつにとっては誰といても寂しかったのだろう。
ルストックは小さく自嘲する。
俺も随分と自信過剰になったものだ。
これも全部、あいつのせいだな。
目を閉じれば、滑らかな肌にかかる金の髪も、そこに煌めく青い宝石のような瞳も、すぐ側に感じられる。
レインズ……。
離れていても、俺はお前だけを思っている。
だから俺が戻るまで、もう少しだけ、良い子で待っていてくれ。
寂しくても、他のやつには指一本触れさせるなよ。
……お前なら、ちゃんとできるだろう?
両膝を抱えるようにして、窓の外を眺めていた金髪碧眼の男がため息を吐く。
「元気にしてんのかな……」
抱えた膝に額を押し付けて、男は青い瞳を閉じた。
ルスに会いたいな……。
口には出さなかったのに。それでもその欲求を認めた途端、会いたくて会いたくてたまらなくなる。
顔が見たい。今すぐに。
あの優しくて小さな黒い瞳で、俺を見て笑ってほしい。
互いに中隊長だった頃は、それぞれが別の遠征に出れば数ヶ月顔を合わせない事だってざらだったのに。
共に暮らすようになって、初めてのルスの出張。戦闘の予定もないし、ほんの二週間ほどで戻ってくる。ルスは俺よりずっと真面目で堅い奴だし、ちっとも心配なんてない。
そう思ってた。
なのにさ、こんなの。
ほんとに。全然予想してなかったんだよ。
まさかこの俺が。
だってもう、こんな歳になってんのに?
誰が見たって立派なおっさんだろ?
それがまさか。
一週間も経たねーっつーのに、こんな寂しくてたまんなくなるなんて思うか???
酒でも飲みに行こっかな。なんて思ってしまってから、慌てて首を振る。
いやいや、約束しただろ。
ルスが不在の間は一人で飲みに行かねーって。
どうもルスは俺が酒に弱いとこが心配らしい。
ベロベロに酔わされて、拐われでもしたら困るって、あんな真面目に心配されたら、絶対行かねーって言うしかねーだろ?
まあ、そんな事はまずありえねーと思うんだけどさ。
俺の事、取られたら困るみたいに言われたらさ。
……嬉しいよな……。
にへ、と緩んでしまった口元をそのままに、記憶の中で笑うルスを見つめる。
ああ、ルスに触れたいなぁ……。
あの分厚い胸と優しい腕に包まれたい。
そして、あの温かい手で、唇で、触れてほしい。
肌に蘇るその感触に、じわじわと息が上がってどうしようもなくなってくる。
「なあ……。早く帰ってきてくれよ、ルス……」
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誰かに呼ばれた気がして、俺は空を見上げた。
夜空には大きな三日月がひとつポツンと浮かんでいた。
細い金色にあいつの金髪が重なる。
そもそも、俺を呼ぶ奴なんてあいつくらいのもんだろう。
ルストックは、黒い小さな瞳を細めて月を見つめる。
レイは今頃どうしてるだろうか。
全く平気だと言ってはいたが、あいつのことだ。本当にそうだとは思わない方がいいだろう。
俺がいなくて……本当は今頃寂しがっているんじゃないか?
余裕そうな顔をしていたが、あいつは随分と寂しがりだからな。
それに自覚がないのがいけない。
若い頃は甘い誘いに誘われるまま、次々に手を出していたくせに『別に寂しいわけじゃねーよ』なんてよく言ったものだ。
……いや、あれはあの頃の俺の聞き方が悪かったのかも知れんな。
俺が側にいないなら、あいつにとっては誰といても寂しかったのだろう。
ルストックは小さく自嘲する。
俺も随分と自信過剰になったものだ。
これも全部、あいつのせいだな。
目を閉じれば、滑らかな肌にかかる金の髪も、そこに煌めく青い宝石のような瞳も、すぐ側に感じられる。
レインズ……。
離れていても、俺はお前だけを思っている。
だから俺が戻るまで、もう少しだけ、良い子で待っていてくれ。
寂しくても、他のやつには指一本触れさせるなよ。
……お前なら、ちゃんとできるだろう?
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