【ノンケほだされ】Purple Violet【健気受け】鈍感クソ真面目男前←(激重感情)←軽いノリを装う純情一途

良音 夜代琴

文字の大きさ
上 下
41 / 87

第6話 こぼれた水(13/13)

しおりを挟む
「よく分かった……。話してくれてありがとう。辛い思いをさせてしまったな」
ルスは俺を労るように抱きしめて、その手で優しく背を撫でる。
「そうだ。ちょっと待っていろ」
そう言って、ルスは不意に立ち上がった。
そのままコツコツと杖を付いて玄関へと向かう。
え? 何だ?
俺はその行動の意味が分からず焦る。
ミートパイの話はしたが、それを買うにしても、もう店はとっくに閉まっている。
「すぐ戻るからな」
と言い残されて、俺は慌ててその後を追った。
「え、や……。やだよ……。置いてくなよ……」
俺の不安を隠しきれない声に、ルスが小さくふき出す。
「そうか。すまん。それなら一緒に行こう」
いや紳士的に言うけどさ、今お前、俺のこと笑ったろ。
ムッとしつつルスの後をついて行けば、家を出て少しのところでルスは足を止めた。
「ああ。あった。これだな」
片足で器用にしゃがみ込み、ルスは足元の小さな花を摘んだ。
立ち上がり俺を振り返るルス。

その手には、紫色の可憐な花が握られていた。
俺はその花の花言葉を知っていた。

けど、ルスがそんな事知ってるとも思えねぇし……。

俺が戸惑う間に、ルスはたった一輪のその花を俺に差し出す。
恥ずかしげに小さく俯いたその花と同じように、ルスもほんの少し照れ臭そうに目を伏せた。

「ルス……?」
これ、俺がもらっていいんだよな……?
俺がおずおずと手を伸ばせば、ルスは小さな黒い瞳で俺を見つめる。
天高く上った月が、俺たちの肩に静かに光をそそいでいる。
いつもの見慣れた街並みがしんと静まり返っていて、何だかいつもと違って見えた。
まるで世界に俺とルスしかいないみたいだ。

ルスは俺をじっと見つめたまま、ゆっくり口を開いた。
「レインズ、俺はお前が好きだ。
 もういい歳した男が、呆れるくらいに、お前の事で頭がいっぱいなんだ」
言葉とともに、紫の花は俺の手の中におさまった。
ルスの体温が残った小さな花。
花言葉は、今ルスが言った通りの内容だ。
慎ましやかなシルエットと、小さいながらに品のある佇まい。
紫色は、夜の空気によく映えた。

「な……。なん……っっ」
情けないけれど、俺は言葉が選べなかった。
俺が……。俺だけがずっと、お前のことを思っていた。
その、はずだったのに……。
いつの間にそんな……。

「まだ前の俺はお前に愛を告げてなかったんだろ?
 これで、俺が一歩リードだな」
ルスはニッと笑って言う。
笑顔の人懐こさは学生の頃のままに。
皺の深さには、ここまでの彼の生き様が刻まれていた。
「おいおい、誰と競ってんだよ……」
俺がようやく軽口を叩くと、ルスは口元の笑みを残したままに一瞬悲しげに眉を寄せる。
「俺を同一視してないのはお前だろ?
 それとも、お前の中で二人になってた俺は、ちゃんと一人に戻れたのか?」
言われて、どうだろうかと胸に問う。
……答えはすぐには出そうにない。
躊躇う俺に、ルスは『仕方ないな』とでも言うように温かく微笑んだ。
実直そうな太い眉が優しく下がり、黒い小さな瞳が俺をそっと見つめている。
俺が気付かなかったうちに、ルスはこうやって俺の事を愛のこもった眼差しで見ていてくれたんだ。

ああ、本当だ……。
ルスは、ここにいる。

俺のそばで俺を見て、俺と言葉を交わしてる。
ここにいるのが、この世に一人だけの、俺の大事なルストックだ。
今までのルスと同じじゃなくてもいい。
これからのルスを、これからも俺は、きっと毎日好きになるんだ……。

「なんだ。俺に見惚れてるのか? 久々に見たな、お前のそんな顔……」
言うルスが、ほんの少しホッと肩を下ろした事に気付いてしまう。
……ルスも不安だったんだ。
気付いた途端、どうしようもなく愛しさが溢れてきた。

俺は手の中の花を潰さないようにそっと包んで、答える。
「お……、俺も、ルスの事……」
パッと目の前に出された制止の手で、俺の言葉は途切れた。
「知ってる」
「し、知ってたって、言わせろよっ!」
ルスは言い返す俺から目を逸らして、小さく呟いた。
「まだ外だからな……。こんな所でそんな事を言われたら、押し倒してしまうだろう?」
もう押し倒してくれよ!!!!
俺は心で強く叫ぶ。
ルスが、真っ赤になって震える俺の肩を撫でて「帰ろう」と言う。
ルスに触れられた肩が、なんだかすごく熱い。
見れば、ルスは黒い瞳にじわりと熱を宿していた。
「共にな」
言い添えられて、俺は「お、おう」と答えて歩き出す。
え、えと……、この、俺の肩、掴んだままなんだ?
俺に熱く注がれたままの視線が、なんだか受け止めきれなくて俺は何か話題を探す。
「そういや、何で……ルスが花言葉とか、知ってんだ……?」
「今日叔母さんに教えてもらった」
ああなるほど、そう言う事か。
え、いや、って事は?
ルスは何……?
どこまで、叔母さんに話したんだ……??
ぐるぐると考える俺のすぐ隣で、ルスが笑った気配がした。
「驚いただろう?」
ふ。と口端だけを上げて、自慢げに俺を見ているルス。
自信を取り戻したルスのニヒルな笑顔は、より一層、男らしい。
月光の元でキラキラ輝くその笑顔を、俺は眩しく見つめる。
「…………驚いた」
俺の口から、素直な言葉がポロリと零れる。
ルスは、満足そうに目を細めて言った。
「もう、俺から目を離すなよ」
言われなくても、俺の瞳はもう二度とルスから逸らせそうになかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『これで最後だから』と、抱きしめた腕の中で泣いていた

和泉奏
BL
「…俺も、愛しています」と返した従者の表情は、泣きそうなのに綺麗で。 皇太子×従者

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

彼は罰ゲームでおれと付き合った

和泉奏
BL
「全部嘘だったなんて、知りたくなかった」

十七歳の心模様

須藤慎弥
BL
好きだからこそ、恋人の邪魔はしたくない… ほんわか読者モデル×影の薄い平凡くん 柊一とは不釣り合いだと自覚しながらも、 葵は初めての恋に溺れていた。 付き合って一年が経ったある日、柊一が告白されている現場を目撃してしまう。 告白を断られてしまった女の子は泣き崩れ、 その瞬間…葵の胸に卑屈な思いが広がった。 ※fujossy様にて行われた「梅雨のBLコンテスト」出品作です。

つまりは相思相愛

nano ひにゃ
BL
ご主人様にイかないように命令された僕はおもちゃの刺激にただ耐えるばかり。 限界まで耐えさせられた後、抱かれるのだが、それもまたしつこく、僕はもう僕でいられない。 とことん甘やかしたいご主人様は目的達成のために僕を追い詰めるだけの短い話です。 最初からR表現です、ご注意ください。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

美しき父親の誘惑に、今宵も息子は抗えない

すいかちゃん
BL
大学生の数馬には、人には言えない秘密があった。それは、実の父親から身体の関係を強いられている事だ。次第に心まで父親に取り込まれそうになった数馬は、彼女を作り父親との関係にピリオドを打とうとする。だが、父の誘惑は止まる事はなかった。 実の親子による禁断の関係です。

処理中です...