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第5話 花のような(3/9)

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ルスが困ったように眉を寄せて嘆息する。
けれどその口元は柔らかく微笑んでいた。
「泣くんじゃない」
ルスの指が、俺の涙を拭う。
次から次へと溢れて止まらない涙を、ルスは柔らかな唇で拭った。
それでも涙の止まらない俺を、ルスは優しく抱き寄せる。
「お前に泣かれると、どうしたらいいのか分からないんだ……」
苦しげな言葉に、俺が顔を擦ってルスを見ると、心底困った。という顔を見せてルスが苦笑した。
「お前は、こんなによく泣く奴だったんだな」
「……俺だって、驚いてるよ」
こんな……、こんな情けない俺は、俺だって知らなかった。
でも、こんな俺を、一番大切だと、ルスは言ってくれたんだ。
俺も、ルスの想いに応えたい。
ルスを、この世で一番幸せにしてやりたい。
「俺、ルスの事、絶対幸せにするからなっ!」
決意を胸に宣言すると、ルスは口端を上げて不敵に笑った。
「残念だったな。俺はもう十分幸せだ」
「なっっ」
そう言えばそうだった。確かにこいつは、もう十分に幸せだと言っていた……。
「いや、お前という伴侶ができて、十二分に幸せになってしまったな」
「っっっっっ」
「だから、これからは俺がお前を幸せにしよう」
ルスは実直そうな眉で、真っ直ぐな瞳で、柔らかな笑みを浮かべて、俺を見ている。
俺はその優しげな表情に、息をするのも忘れて見惚れていた。
「ゆっくりでいい。今まで聞いてやれなかったお前の思いを、全部聞かせてくれ」
俺の両肩を温かなルスの手が包む。
「お前が辛かった事も、全部俺にぶつけてくれたらいい」
ルスは俺の額に優しく口付けて、続ける。
「お前の苦しみは、俺が全部、受け止めよう」
…………おっ……男前ぇぇぇぇぇ…………。
何だこいつ。いや、わかってたけど。わかってたけど!!
わかってたけどさぁっっっ!!!
こんっっっっっな優しくて男前な奴、なんで今まで再婚してなかったのか不思議なくらいだよ!!
いや、分かってるけどさ。
仕事が忙しくて、職場は男だらけで、そんな機会がなかっただけだって。
実際、学生の頃は三回告白されてたよな。
俺は知っている。
こいつが『自分は騎士になるつもりだから、いつ死ぬかわからないような奴を選ばない方がいい』とか言って断ってたの。
こっそり、覗いてたからな。
花屋の子の時も、そんな事言ってたけど、それを説得して告白させたのは、俺だった。
ルスが、幸せになれると思ったんだ。
でも結果的に、彼女とその子は死んで、ルスは、もっともっと寂しくなってしまった。
「俺……っ、俺さ……」
俺の言葉に、ルスは優しく答える。
「うん、なんだ?」
「ルスをあの子とくっ付けて……、その結果、ルスを悲しませてさ……」
「お前……」
「っ、ごめん、な……」
俺の顎に、ルスの温かい指が触れる。
くい、と上を向かされたところへ、ルスの唇が降ってきた。
ルスの分厚い舌で唇をなぞられて、俺はそこを開いてルスを受け入れる。
「ん……ぅ……」
ルスの舌は、俺を慰めるように、俺の内側を撫でさする。
俺の中が、ルスでいっぱいになって、温かくて柔らかいもので満たされて、何だか、ふわふわして力が抜けちまう……。
ガクンと膝の力が抜けた俺の腰をルスが慌てて引き寄せた。
「こら! 立ってる時に力を抜くな!」
ルスの声に危機感が滲んでいる。
そっか。片足で立ってんだから、俺の事まで支えらんねーのか。
よいしょ。と立ち直ると、ルスがホッと息を吐く。
「その懺悔は、あの後も散々聞いたぞ」
言われて、確かに蟻の一件からしばらくは、酔う度ルスに謝ってたなと思い出す。
「素面でも、謝っときたかったんだよ……」
「お前のような二日酔いのやつが、素面と言えるのか?」
「うぐ……」
言葉に詰まった俺の肩を掴んで、ルスがクルリと俺の向きを変える。
「ほら、もうベッドに戻れ。まだもう少し、休む時間があるだろう?」
片腕で杖をつきながらの癖に、ルスは器用に俺の背を押して、俺はあれよあれよと言う間に寝室前まで戻されてしまった。
「もう少しだけでも休んでおけ」
と言うルスに俺は思わず叫ぶ。
「っ、じゃあ、ルスが添い寝してくれるなら、寝る!」
ルスは半眼で俺を見て、ため息も同時に答えた。
「おいおい……。俺の嫁は随分と要求が多いな……」
俺の、嫁、て……っっっっ。
そ、その表現は、俺が恥ずかしすぎるんで、ほんっと勘弁してくれよ……。
ルスはそう言いながらも、俺と一緒に寝室に入ってくれる。
「足がこうでなければ、抱き上げて運んでやれたんだがな」
小さな呟きには後悔が滲んでいた。
が、俺にはそれより気になる事があった。
抱き上げてって、まさか、お姫様抱っこ的なやつか!?
絶対そうだろこの男前!!!!
俺は、ルスに横抱きにされる自分を想像して、赤くなる。いやぜっっったい恥ずかしいって!!
ルスが怪我しててよかったなんて、思う瞬間がくるとはな……。
ベッドまで背を押され、俺はベッドに上がる。
ルスは、俺を寝かせたら、帰ってしまうんだろうか。
振り返り見上げれば、ルスは困った顔をしていた。
「……こんなところで赤くならないでくれ。襲いたくなるだろう?」
……もういっそ、襲ってくれればいいのに。
でもルスは、そんな事しないんだろうな……。
ギシ、とベッドを軋ませて、ルスが動かない片足を両手で持ち上げつつベッドに上がってくる。
そっか、俺が一緒に寝てって言ったから……。
ルスはごろりと横向きに、片腕を枕にして横たわる。
「ルス……」
俺は、ルスに帰ってほしくなくて、どうすればルスを引き止められるか分からなくて、手を伸ばした。
ルスはその手をつかんでぐいと引き寄せる。
「ぅわ」
どさ、とルスの隣に倒れ込む。
「ほら、さっさと休め。せっかくの半休を無駄にするな」
そう言うルスは、もう目を閉じている。
うーん、真面目だなぁ。
彫りの深いその顔をじっと見つめていると、ルスが目を開いた。
「お前も目を閉じろ。何のために俺が添い寝してると思ってるんだ?」
ため息を吐くように、げんなりとルスが呟く。
そして、さっきから掴んだままだった俺の手を引き寄せると、俺の手の甲に唇を寄せた。
「なっ……!?
敬愛を示す動作に、思わず動揺する。
いや、意味合いとしては、俺の嫁と俺の姫は似たようなもんじゃないか。
って頭で分かっててもドキドキするもんはするんだよ!!!!
ルスはゆっくり唇を離すと、閉じていた目を開く。
優しげな黒い瞳が俺を見つめて微笑む。
「ほら、もう寝ろ」
「っ、寝れるか!!」
思わず叫んだ俺に、ルスはキョトンとする。
っあーーーーっ、その顔が可愛いんだよ!!
「添い寝したら寝ると言ったのはお前じゃないか。前言撤回とは、騎士の名を疑われるぞ?」
「お前が心臓に悪い事ばっかするからだよ! こんな心臓バックバクで寝れるか!!」
「ふむ……?」
ルスは俺の背に手を回すと俺の胸に耳を寄せた。
ルスの意外と柔らかい髪が俺の顎をくすぐる。
って、お前昨夜は汗と酒臭かったのに、あれからうちの風呂使ったのかよ、良い匂いじゃねーか!!
「本当だな。それは悪い事をした」
俺の心音を確認したルスが、素直に謝る。
ぁあ、ルスは本当に可愛いな……。
俺が顔を寄せると、ルスは大人しく目を閉じる。
なんだよ、この、俺のキスを待ってるルスとか、夢じゃねぇのかよ、最高過ぎんだろ!!
そっと唇を重ねる。ルスの唇はやっぱりあったかい。
こんな素直で可愛い奴、一人で帰して自慰させるとか絶対無理だわ。
いや、本当に、ルスが良くても俺が無理。
俺はルスの股間へと手を伸ばす。
まだじわりと熱を持ったそこを指先でなぞれば、ルスがびくりと肩を揺らした。
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