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第3話 青天の霹靂(5/5)
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それからの俺は、とにかく剣の修練に打ち込んだ。
この先、ルストックとまた共に戦う時に、せめてあいつと同じくらい戦えない事には、格好が付かない。そんな一心で。
いつの間にか、俺の中の『親の希望通りに騎士になんかなりたくない』という小さな拘りは、消えて無くなっていた。
毎夜のように遊び回っていた仲間達とは、すぐ疎遠になった。
かわりに、ルストックとはクラスが違っても、修練場で、食堂で、よく話すようになった。
そんな中、三年に上がるタイミングで、部屋割りが変わった。
三~五年は、これから先騎士団での生活に活かせるようにと、三学年をまたいだ縦割りの部屋割りとなっていた。
一、二年の頃は八人部屋だったが、上級生の部屋は六人部屋で、基本は各学年から二人ずつだった。
同学年のやつは俺以外に一人だけ。
だから、まさか、ルストックと同じ部屋になれるとは思ってもいなかった。
指示された部屋に入ったら、あいつがいた。
あの時は、本当に、心臓が止まるかと思った。
俺達は、クラスまで一緒になり……というより、二クラスだった騎士クラスが三年の壁の後、ひとクラスとなり、それこそ毎日、朝から晩まで顔を合わせるようになった。
俺はルストックを『ルス』と呼ぶようになり、あいつもまた俺を『レイ』と短く呼んでくれるようになった。
この頃には、俺にももう分かり始めていた。
俺が、ルスに向けているこの気持ちは、どうやら友情ではないようだ。と。
俺は毎日、あいつのほんの些細な仕草に、どうしようもなくドキドキしていた。
「レイ、おはよう」
なんて、寝起きのふにゃっとした顔で柔らかく微笑まれた日には、俺は顔が赤くならないようにするので必死だった。
俺は三男で、特に親が決めたような相手もなかったから、中等部の頃から声をかけてくる女の子達と、そこそこお付き合いはしてきた。
女の子達のことは皆可愛いと思っていたが、こんなに心臓が壊れそうな程ドキドキすることは無かったのに……。
二段ベッドが壁際に縦に二つ、窓際に一段のベッドが二つ並べられた六人部屋で、あいつは窓際のベッドだった。
俺は壁際の上の段から、よくあいつの顔を盗み見ていた。
目が覚めると、ルスはいつもムクリと起き上がり、しばらくベッドに座り込んでいる。
縦長の窓から差し込む朝日に、茶色がかった黒髪を揺らして、こしこしと目を擦る。
寝起きのぼんやりした顔は本当に可愛くて、あれを俺だけの物にしたいと願ってしまう。
ルスが他の奴と親しげに話をしていれば、それが男だろうと女だろうと、どうしようもなく妬いてしまった。
俺はこんなに心の狭い男だったのかと、自分で自分に呆れるほどだった。
***
「レインズ?」
微かな声に、ハッと我に返った。
見れば、修練場の新入隊員達は既にまばらで、解散された後のようだ。
下からルストックが俺を見上げている。
相変わらずの温かい小さな黒い瞳に、今俺が映っているのだと思うと……。
俺は、緩む口端を誤魔化すように、でかい声で答えた。
「よぉ。今日は休みじゃなかったのかー?」
ぶんぶんと手を振れば、ルストックは照れくさそうに苦笑した。
ああ。なんて可愛いんだろう。
あの照れた顔を、もっと近くで見たい。
もっと、俺の言葉であいつを笑わせたい。
けれど、それを伝える勇気は、俺にはまだ無かった。
この先、ルストックとまた共に戦う時に、せめてあいつと同じくらい戦えない事には、格好が付かない。そんな一心で。
いつの間にか、俺の中の『親の希望通りに騎士になんかなりたくない』という小さな拘りは、消えて無くなっていた。
毎夜のように遊び回っていた仲間達とは、すぐ疎遠になった。
かわりに、ルストックとはクラスが違っても、修練場で、食堂で、よく話すようになった。
そんな中、三年に上がるタイミングで、部屋割りが変わった。
三~五年は、これから先騎士団での生活に活かせるようにと、三学年をまたいだ縦割りの部屋割りとなっていた。
一、二年の頃は八人部屋だったが、上級生の部屋は六人部屋で、基本は各学年から二人ずつだった。
同学年のやつは俺以外に一人だけ。
だから、まさか、ルストックと同じ部屋になれるとは思ってもいなかった。
指示された部屋に入ったら、あいつがいた。
あの時は、本当に、心臓が止まるかと思った。
俺達は、クラスまで一緒になり……というより、二クラスだった騎士クラスが三年の壁の後、ひとクラスとなり、それこそ毎日、朝から晩まで顔を合わせるようになった。
俺はルストックを『ルス』と呼ぶようになり、あいつもまた俺を『レイ』と短く呼んでくれるようになった。
この頃には、俺にももう分かり始めていた。
俺が、ルスに向けているこの気持ちは、どうやら友情ではないようだ。と。
俺は毎日、あいつのほんの些細な仕草に、どうしようもなくドキドキしていた。
「レイ、おはよう」
なんて、寝起きのふにゃっとした顔で柔らかく微笑まれた日には、俺は顔が赤くならないようにするので必死だった。
俺は三男で、特に親が決めたような相手もなかったから、中等部の頃から声をかけてくる女の子達と、そこそこお付き合いはしてきた。
女の子達のことは皆可愛いと思っていたが、こんなに心臓が壊れそうな程ドキドキすることは無かったのに……。
二段ベッドが壁際に縦に二つ、窓際に一段のベッドが二つ並べられた六人部屋で、あいつは窓際のベッドだった。
俺は壁際の上の段から、よくあいつの顔を盗み見ていた。
目が覚めると、ルスはいつもムクリと起き上がり、しばらくベッドに座り込んでいる。
縦長の窓から差し込む朝日に、茶色がかった黒髪を揺らして、こしこしと目を擦る。
寝起きのぼんやりした顔は本当に可愛くて、あれを俺だけの物にしたいと願ってしまう。
ルスが他の奴と親しげに話をしていれば、それが男だろうと女だろうと、どうしようもなく妬いてしまった。
俺はこんなに心の狭い男だったのかと、自分で自分に呆れるほどだった。
***
「レインズ?」
微かな声に、ハッと我に返った。
見れば、修練場の新入隊員達は既にまばらで、解散された後のようだ。
下からルストックが俺を見上げている。
相変わらずの温かい小さな黒い瞳に、今俺が映っているのだと思うと……。
俺は、緩む口端を誤魔化すように、でかい声で答えた。
「よぉ。今日は休みじゃなかったのかー?」
ぶんぶんと手を振れば、ルストックは照れくさそうに苦笑した。
ああ。なんて可愛いんだろう。
あの照れた顔を、もっと近くで見たい。
もっと、俺の言葉であいつを笑わせたい。
けれど、それを伝える勇気は、俺にはまだ無かった。
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