【ノンケほだされ】Purple Violet【健気受け】鈍感クソ真面目男前←(激重感情)←軽いノリを装う純情一途

良音 夜代琴

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第3話 青天の霹靂(2/5)

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あれは中等部の頃だ。隣の学校に剣の強い奴がいるとかで、いつもつるんでる奴らが見に行くというのに半ば無理矢理付き合わされた。
レインズ自身は剣に興味も無かったし、強いだとか弱いだとか、そんな事はどうだってよかった。
ただ、親が城で剣を指導する立場だったから、小さい頃からやりたくもないのに剣を持たされていて、その分人よりは出来た。
けど、それは誰にも言わなかったし、授業でも手を抜いていたので、家に来るほど仲の良い奴以外は知らなかった。

ひと目見て、そいつが努力家だという事は分かった。
そいつは、基本の型通りに、まるでお手本そのもののように剣を振るう奴だった。
きっと毎日真面目に、コツコツと修練を重ねてきたんだろう。そう思わせる動きだった。
木剣が打ち合う音が止む。
相手の木剣は、そいつの流れるような美しい所作で弾き飛ばされていた。
しんと静まり返ったその場に、カランと木剣の落ちる音がして、周りを囲んでいた奴らが歓声を上げる。
立会人がそいつの勝ちを宣言し、そいつは試合用の簡易マスクを外した。
茶色がかった黒髪が真ん中で分けられていて、目元にさらりとかかる。
実直そうなキリリとした眉はイメージ通りだったが、その下の黒い瞳は小さく控えめで、そいつは優しげに笑うと、対戦相手に手を差し伸べた。

対戦相手の少年が、どうしてか酷く羨ましく思えた。
俺は、あんな風に、真摯に手を差し伸べられた事はなかった。
授業の稽古はいつも手を抜いていたし、家では修練に握手を交わすような必要は無かったから。
じわりと息が苦しくなって、俺は胸を押さえる。
あの優しげに笑った少年から、どうしても、目が逸らせなかった。
対戦相手の少年が何か話すと、あいつは少し照れ臭そうに苦笑を見せた。
あんなに温かく、苦笑するやつがいるのか……。
「なあ、あいつなんて名前だって?」
青い瞳を逸らせぬままに、自分をここへ連れてきた連中に問う。
「だから、ルストックだよ」
「ルストック……」
レインズはその名を口の中で呟いた。
その間にも仲間の会話は続いていく。
「出身は確か、ザインツだったか?」
「ああ、あの何年か前に潰された村だろ」
「最近多くないか? 魔物」
「まったく、騎士様達は、ちゃんと仕事してくれてんのかね」
「父さんも、高い税金ばっか取ってって文句言ってたぜ」
「おい、そのくらいにした方が……」
仲間達の話題が逸れていくのを聞き流していたレインズは、視線を感じて仲間達を振り返った。
「あ? ああ、気にすんなよ。俺も、騎士になる気はさらさら無いしな」
歳の離れた兄は頭が良く、文官になった。
歳の近い兄には、剣の才が無かった。
父の期待が自分にかかっているのは分かっていたが、親の言う通りになるのは面白くなかったし、何より、自分には人のために自らを犠牲にするような精神は持ち合わせがない。
「ああいうのは、もっと真面目な奴がやるもんだろ」
レインズの言葉に、仲間達がまたワイワイと話す。
騎士というのは世間一般的には、男子に人気の誉れ高い職業だったが、この城下町では、残念ながら子ども達の憧れの職業にはなりきれなかった。
城下町の路地裏では、怪我をして引退を余儀なくされた元騎士が、国元に戻る場所もなく、怪しげな連中と昼間から酒を飲んだり屯ろしたりしている。
正規の騎士達の中にも『お前達は俺達が守ってやっているんだ』と傲慢な態度で町民に接する者もあった。
騎士という存在が一番多いこの町が、この国で一番騎士を支持する者が少ないというのも悲しい話ではあったが、そんなわけで、レインズに騎士になる気はまるで無かった。

「ルストック、お前ならきっと立派な騎士になれるだろう」
たまたま耳に入った言葉に振り返れば、黒髪の彼の肩を両手で掴んで熱く語りかけている、彼の師と思わしき人が居た。
言われたルストックは、少し恥ずかしそうに、けれど誇らしげに笑って答えた。
「ありがとうございます」
ああ、あの少年は、声までも真面目そうで、温かく響くんだな。
そんな事を感じながら、レインズは、あの少年なら確かに、立派な騎士になれるだろうなと思った。

それから二年ほど、仲間の試合の応援に付き合わされる度、会場でルストックの姿を見た。
俺の青い目は、いつしか勝手にあの少年を追うようになっていた。
いつ見ても、ルストックは強く、真っ直ぐで、対戦相手にはいつだって礼儀正しくて、優しい瞳を向けていた。
あの温かい眼差しに見つめられて、握手を求められるその相手が、どうにも羨ましく思えるのも、やはり変わらなかったが、かといって何をどうするでもなく。
この時はまだ、ルストックは、自分の人生には、まるで関係のない奴だった。


高等部へ上がる前になって、親は王立防衛学校への進学を強く勧めてきた。
そこには騎士団の幹部生を育てるためのコースがあった。
親の言いなりになるのは癪だったが、俺は入寮を条件に、その誘いに乗った。
寮にさえ入ってしまえば、五年間の学園生活の間は、親にキツイ稽古をさせられる事もないだろうし、今よりきっと、ずっと自由に遊べるだろうと思った。

実際、入学当初はしばらくそんな生活を続けていた。
レインズが暗くなるまで友達と遊んで帰ると、ルストックは決まって寮の陰で剣を振っていた。
彼としては目立たないところでやっていたのだろうに、なぜかレインズは、その姿にいつも気付いてしまった。
騎士を目指していた様子のルストックがこの学校に居ることは、全く驚きでも何でもなかったし、同じ寮である事も予想出来ていた。
もしかしたら同じ部屋になる可能性も、と思ったのだが、一年生は出身地や出身校の近いもので部屋割りをされているらしく、何の接点もないルストックとは随分と離れた部屋だった。

ルストックが一人黙々と剣を振る姿を見る度に、きっと、ああいう真面目なやつは、俺みたいなチャランポランは嫌いなんだろうな。と。
勝手にそんな風に考えては、一人勝手に傷付いていた。
ルストックとは、同じ騎士幹部生コースではあったが、クラスも違う俺は、まだルストックに名前だって覚えられていなかった。


だからまさか、この黒髪の少年が自分にとってこんなに大事な存在になるなんて、思っていなかった。……あんな事件が起こるまでは。
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