栄養士の息子 (拾った少年に世話を焼かれるおじさんのお話)

良音 夜代琴

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遠慮と友達登録。

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そこへ、男性スタッフが「子猫が来たって聞きましたよー?」と小走りで入ってくる。この人はオープンの頃からずっといるスタッフで僕の事も小さい頃から知っている、森川さんという人だ。
「ぅわわわっ、かわいーっっ。まさに可愛い真っ盛りじゃないですかぁぁ!」
ひゃーっと歓声を上げつつ、森川さんがスマホでパシャパシャと子猫達を撮りまくる。
「お。いいとこに来たな。俺はちょっと今から健診行ってくるな」
「はーい、いってらっしゃい」
「保健所と警察に電話しといてくれ。あ、あとそいつらにもなんか食わせといてくれな。俺の奢りで」
「はいはーい」
気安く答えて手を振る森川さんに、叔父さんは片手を上げると箱を抱えて出て行った。
「保健所……と警察……?」
不安げに呟く少年には「あの子猫たちが何処かで盗まれた子じゃないか、探してる人がいないか、確かめる必要があるんだよ」と僕が説明した。
「ごめんねぇ、店長ってば思い立ったら即行動の人だから。豊くんも、そっちの子もゆっくりしていってね」
森川さんが、改めて僕達を席に案内してくれる。

「えと、俺、こういう店って初めてで……」
緊張気味に店内を見回す少年に、森川さんは店の決まりだけじゃなく店の猫たちの紹介や猫と触れ合う時のコツまで丁寧に教えてくれる。
こんな風に安心して後を任せられる森川さんがいるから、叔父さんもあんな風に簡単に店を空けるんだろうな。
森川さんは学生の頃からここでアルバイトをしていたから、もう二十年になるんだろうか。

……それにしても、子猫を預けたらホッとしてか急激にお腹が空いてきた。

「豊くんと米谷くんはお昼は食べた?」
「あ、いやまだ……」
「僕もまだです」
「今日は店長の奢りだから、遠慮なくじゃんじゃん注文してね。大盛りで作っちゃうよ」
いつの間にか米谷君の名前まで聞き出していたらしい森川さんが、優しげな丸い銀のメガネの向こうでにっこり微笑む。叔父さんは米谷君には名前を聞いてもいなかったよね。
僕はメニューからデミオムライスのセットとパンケーキを、米谷君はずいぶん悩んでからサンドイッチを選んでいた。
「サラダとスープもセットにしようか?」
「いや、えっと……」
森川さんの言葉に少年が答えあぐねる。
もしかして、遠慮してるのかな。
「遠慮しなくていいんだよ」と僕が言えば「そうそう、若いうちはおじさんたちからしっかり奢ってもらうといいよ」と森川さんも言う。
「ぅ、じゃあ、お言葉に甘えて……」
米谷君はぺこりと頭を下げながら、どこか照れくさそうにセットをお願いした。
へえ。米谷君ってコンビニでは僕にあんまり敬語使わない気がするんだけど、そんな言葉も使えるんだなぁ。

……ん? それって、僕は目上の人だと思われてないって事……なのかな?

「飲み物は何がいい? 私のオススメはこれとこれだよ」
森川さんが米谷君にジュースをすすめる。
よく見れば袖で値段のところを伏せている。
ああ、ジュースって高いからね。値段を見たら米谷君が遠慮すると思ったんだろうな。

「えっと、じゃあこっちで」
「僕はコーヒーで」
「豊くんはいつものブレンドかな?」
「お願いします」

森川さんは「すぐ作ってくるから、猫と遊んで待っててね」と厨房に向かった。
店内には少しずつ人が増えている。ああ、そろそろ一番混む時間帯だ。
叔父さんがいなくて大丈夫かな……。

「なんか、ごめんな」
ぽつりと落とされた謝罪の言葉に、僕は店内を見回すのをやめて、少年を見る。
「おじさんにも、おじさんのおじさんにも、俺のせいで余計な仕事させちゃってさ。なのに飯まで食わせてもらったりして……」
「いいよそんなの、誰も気にしてないし。叔父さんなんか逆に喜んでたからね」
多分、しばらくはスマホに叔父さんからの『こんなに可愛く育ってるぞ』写真が送られて来るんだろうな。
今までもそうだったし。
あ、そうだ。
「米谷君もあの猫達がどうなるか気になるよね?」
「え? あ。うん。それは気になるけど」
「じゃあ僕と連絡先交換しない? 叔父さんから写真送られたら転送するから」
「いいのか?」
「うん」
「……もしかしたらすぐ解約するかもしんねーけど、その時は連絡するから」
少年はそう前置きして、僕を友達登録した。
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