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猫カフェ『青い瞳のにゃんこ喫茶』
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「俺、猫カフェって初めて来た」
ビルの一階にある猫カフェは、ベージュ色の建物の中でここだけ外壁が青く塗られていて、同じく青い看板に白い文字で『猫カフェ・青い瞳のにゃんこ喫茶』と書かれていた。
少年が窓越しに店内を覗き込む。
「あ、猫いる。そっちにも。ここにも」
猫を見つけるたび、少年は瞳を輝かせた。
無邪気な姿にほっこりしつつ、僕は少年の代わりにドアを開ける。
「入ろうか」
少年は段ボール箱を大事そうに抱えていた。
箱はしきりとガサゴソ音を立てていて、ときおりミャーという鳴き声が聞こえる。
まだ元気そうだけど、この子猫達はいつからあそこにいたんだろうか。きっとお腹も空いてるだろうな。
「へー、二重ドアになってんだな」
「うん、必ず入ったドアを閉めてから、次を開けるルールだよ」
僕はドアに貼られた注意書きを要約して伝える。
「なるほどな」
小さく頷いた少年の後ろのドアを閉めて、前方のドアを開けると、少年はちょっと申し訳なさそうに「ありがとな」と僕に会釈した。
店に入ると「いらっしゃいませ」と明るい声がかかる。
少年の肩が小さく揺れた。
「あ、すみません、今日は公園に捨てられていた子猫を拾ってしまって……」
僕が若い女性スタッフに事情を説明しはじめると、奥から口髭にエプロン姿の五十代男性が出てきて僕に手を振った。
「豊じゃないか、久しぶりだな」
「お久しぶりです。お変わりありませんか?」
少年と若い女性スタッフが、僕とオーナーを交互に見る。
「ああ、こいつは俺の甥っ子なんだ」
「このお店は、僕の叔父さんがやってるんだよ」
僕達が説明すると、二人は「へぇ」「そうなんですか」と納得してくれたようだ。
「で? 猫を拾ったって?」
叔父さんの言葉に、少年がキョロキョロと箱を下ろす場所を探す。
それをやんわり手で制して、僕は答える。
「うん、元気そうではあるんだけど」
「そうだな、裏で見ようか」
手招きして踵を返す叔父さんの後に、僕と少年が続く。
スタッフオンリーの扉の先は狭いスタッフルームになっていて、さらにその向こうは保護猫たちのケージエリアになっている。
スタッフルームはスタッフの更衣室も休憩室も全て兼ねていて、ロッカーとテーブルの脇に小さな椅子が三つ重ねてあった。
「狭くて悪いな」と言いながら、叔父さんはさして申し訳なくもなさそうな様子で椅子を勧める。
「すみません。急に……」
少年が頭を下げて、丸いパイプ椅子に座る。
こちらは随分と申し訳なさそうだ。
促されて、少年が机の上に段ボールを置くと叔父さんが蓋を開けた。
「お。三匹か。目は開いてるな。おーおー、元気だなぁ。人にも慣れてるし、目ヤニも無い。状態は良さそうだな」
叔父さんは慣れた様子で1匹ずつ抱き上げては全身をくまなくチェックしている。
その様子を、少年がハラハラと見守る。
「何処で拾ったんだって?」
叔父さんに尋ねられたのは僕じゃなくて少年の方だった。
少年が公園の名前を答える。
「豊の近所の公園か。まったく、悪い奴もいるもんだなぁ。こんな可愛い子達を置き去りにするなんてなぁ」
叔父さんは愛くるしい子猫たちに猫撫で声で話しかける。目尻が下がりっぱなしだ。
「でもよかったなぁ、お前達。いいお兄ちゃんに拾ってもらえて。これからは俺達がちゃんと育てて、いい飼い主さん探してやるから、安心していいぞ」
三匹目を箱に戻すと、叔父さんはそう言って僕達に微笑んだ。
少年がほうっと息をつく。
「うちも先月二匹引き取られたとこだったし、三匹ならちょうどいい。これだけ人に慣れてれば、すぐうちの人気猫になるな」
言いながら、叔父さんはエプロンを脱ぐと上着を羽織る。
「まずは三匹まとめて病院だな」
「病院?」
少年が顔色を変える。
僕が「健康チェックだよ。他の猫にノミとか病気がうつるといけないからね」と説明すると、少年は「そっか」と安堵した顔を見せた。
ビルの一階にある猫カフェは、ベージュ色の建物の中でここだけ外壁が青く塗られていて、同じく青い看板に白い文字で『猫カフェ・青い瞳のにゃんこ喫茶』と書かれていた。
少年が窓越しに店内を覗き込む。
「あ、猫いる。そっちにも。ここにも」
猫を見つけるたび、少年は瞳を輝かせた。
無邪気な姿にほっこりしつつ、僕は少年の代わりにドアを開ける。
「入ろうか」
少年は段ボール箱を大事そうに抱えていた。
箱はしきりとガサゴソ音を立てていて、ときおりミャーという鳴き声が聞こえる。
まだ元気そうだけど、この子猫達はいつからあそこにいたんだろうか。きっとお腹も空いてるだろうな。
「へー、二重ドアになってんだな」
「うん、必ず入ったドアを閉めてから、次を開けるルールだよ」
僕はドアに貼られた注意書きを要約して伝える。
「なるほどな」
小さく頷いた少年の後ろのドアを閉めて、前方のドアを開けると、少年はちょっと申し訳なさそうに「ありがとな」と僕に会釈した。
店に入ると「いらっしゃいませ」と明るい声がかかる。
少年の肩が小さく揺れた。
「あ、すみません、今日は公園に捨てられていた子猫を拾ってしまって……」
僕が若い女性スタッフに事情を説明しはじめると、奥から口髭にエプロン姿の五十代男性が出てきて僕に手を振った。
「豊じゃないか、久しぶりだな」
「お久しぶりです。お変わりありませんか?」
少年と若い女性スタッフが、僕とオーナーを交互に見る。
「ああ、こいつは俺の甥っ子なんだ」
「このお店は、僕の叔父さんがやってるんだよ」
僕達が説明すると、二人は「へぇ」「そうなんですか」と納得してくれたようだ。
「で? 猫を拾ったって?」
叔父さんの言葉に、少年がキョロキョロと箱を下ろす場所を探す。
それをやんわり手で制して、僕は答える。
「うん、元気そうではあるんだけど」
「そうだな、裏で見ようか」
手招きして踵を返す叔父さんの後に、僕と少年が続く。
スタッフオンリーの扉の先は狭いスタッフルームになっていて、さらにその向こうは保護猫たちのケージエリアになっている。
スタッフルームはスタッフの更衣室も休憩室も全て兼ねていて、ロッカーとテーブルの脇に小さな椅子が三つ重ねてあった。
「狭くて悪いな」と言いながら、叔父さんはさして申し訳なくもなさそうな様子で椅子を勧める。
「すみません。急に……」
少年が頭を下げて、丸いパイプ椅子に座る。
こちらは随分と申し訳なさそうだ。
促されて、少年が机の上に段ボールを置くと叔父さんが蓋を開けた。
「お。三匹か。目は開いてるな。おーおー、元気だなぁ。人にも慣れてるし、目ヤニも無い。状態は良さそうだな」
叔父さんは慣れた様子で1匹ずつ抱き上げては全身をくまなくチェックしている。
その様子を、少年がハラハラと見守る。
「何処で拾ったんだって?」
叔父さんに尋ねられたのは僕じゃなくて少年の方だった。
少年が公園の名前を答える。
「豊の近所の公園か。まったく、悪い奴もいるもんだなぁ。こんな可愛い子達を置き去りにするなんてなぁ」
叔父さんは愛くるしい子猫たちに猫撫で声で話しかける。目尻が下がりっぱなしだ。
「でもよかったなぁ、お前達。いいお兄ちゃんに拾ってもらえて。これからは俺達がちゃんと育てて、いい飼い主さん探してやるから、安心していいぞ」
三匹目を箱に戻すと、叔父さんはそう言って僕達に微笑んだ。
少年がほうっと息をつく。
「うちも先月二匹引き取られたとこだったし、三匹ならちょうどいい。これだけ人に慣れてれば、すぐうちの人気猫になるな」
言いながら、叔父さんはエプロンを脱ぐと上着を羽織る。
「まずは三匹まとめて病院だな」
「病院?」
少年が顔色を変える。
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