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飯野 豊(27)
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「――米谷君、……米谷君?」
僕が声をかければ、ポテトサラダとコールスローを手にした小柄なコンビニ店員の少年は、ハッとした顔で僕を振り返った。
「あ……ごめん。ちょっと、ボーッとしてた……」
誰だってぼんやりすることはあると思う。
けどこの少年は先週二日バイトを休んだ後からずっとこの調子で、ただのコンビニ利用客の僕でも流石に心配になってしまう。
チラリとレジに視線を投げれば、店長さんがこちらを見ている。
店長さんは僕の父よりちょっと年上くらいの男性だ。日焼け肌が健康的な店長さんも、僕と同じで米谷君が心配なのか、しきりとこちらの……米谷君の様子をうかがっている。
視線を戻せば、少年はまた手元のサラダを見つめたままじっと固まっていた。
米谷君は高校生らしいので、学業とバイトの両立で疲れてるのかな? なんて思っていたけれど、それにしたってもう一週間もこの調子というのは流石におかしい。
どころか、ぼんやり度は日に日に増している気がする。
ハッと僕を見上げて、ポテトサラダを勧めてくれる米谷君からサラダを受け取りながら、僕は思い切って尋ねた。
「米谷君、その……、何かあったの……?」
「えっ」
僕の言葉に、人よりちょっとだけ淡い茶色の瞳が揺れる。
「あ……、いや、まあ……。何もないってことは、ないけどさ……」
言葉を探すように、少年は視線を彷徨わせながら俯いた。
僕の身長は170センチでそう高くはないけど、米谷君は僕より10センチ……いや15センチくらいは低いので、俯かれてしまうと、全然顔が見えなくなってしまう。
金髪の少年のつむじからは、黒髪が顔を出している。
「……ま、何とかなるよ」
少しの沈黙の後、少年はぎこちなく笑顔を作って僕を見上げた。
やっぱり、僕みたいな冴えない会社員に、多感な少年の人生相談は無理だったようだ。
「そうだね、困らせちゃってごめん。応援してるよ」
当たり障りのないように会話を切り上げると、少年は縋るように僕を見上げた。
心臓が跳ねる。
僕で何か力になれるなら、本当に、何でも言ってくれていいのにな……。
その思いを言葉に出来ないまま、少年を見つめ返す。
米谷君は何か言いたそうな顔をしていたけど、結局何も聞く事はできなかった。
そんな昨夜のやりとりを思い返しながら、玄関のドアを開ける。
今日は天気の良い土曜日で、僕の仕事は土日が休みだ。
うららかな陽射しに誘われて、家を出たのは昼を回った頃だ。
たまには図書館にでも行ってみようか。料理とか栄養バランスの本でも読めば、少しは自分で自分の食べ物くらい選べるようになるだろうし。
いつも米谷君に頼りっぱなしだから、少しは自分でも勉強しないと。
なんて考えながら公園の脇を通り抜けようとして、ふと隅の方でうずくまる人影に目が止まる。
しゃがみ込んだその背には、一つに括られた金色の髪。
背格好も、いつもの彼に似ている気がして、僕は公園へ足を踏み入れた。
僕が声をかければ、ポテトサラダとコールスローを手にした小柄なコンビニ店員の少年は、ハッとした顔で僕を振り返った。
「あ……ごめん。ちょっと、ボーッとしてた……」
誰だってぼんやりすることはあると思う。
けどこの少年は先週二日バイトを休んだ後からずっとこの調子で、ただのコンビニ利用客の僕でも流石に心配になってしまう。
チラリとレジに視線を投げれば、店長さんがこちらを見ている。
店長さんは僕の父よりちょっと年上くらいの男性だ。日焼け肌が健康的な店長さんも、僕と同じで米谷君が心配なのか、しきりとこちらの……米谷君の様子をうかがっている。
視線を戻せば、少年はまた手元のサラダを見つめたままじっと固まっていた。
米谷君は高校生らしいので、学業とバイトの両立で疲れてるのかな? なんて思っていたけれど、それにしたってもう一週間もこの調子というのは流石におかしい。
どころか、ぼんやり度は日に日に増している気がする。
ハッと僕を見上げて、ポテトサラダを勧めてくれる米谷君からサラダを受け取りながら、僕は思い切って尋ねた。
「米谷君、その……、何かあったの……?」
「えっ」
僕の言葉に、人よりちょっとだけ淡い茶色の瞳が揺れる。
「あ……、いや、まあ……。何もないってことは、ないけどさ……」
言葉を探すように、少年は視線を彷徨わせながら俯いた。
僕の身長は170センチでそう高くはないけど、米谷君は僕より10センチ……いや15センチくらいは低いので、俯かれてしまうと、全然顔が見えなくなってしまう。
金髪の少年のつむじからは、黒髪が顔を出している。
「……ま、何とかなるよ」
少しの沈黙の後、少年はぎこちなく笑顔を作って僕を見上げた。
やっぱり、僕みたいな冴えない会社員に、多感な少年の人生相談は無理だったようだ。
「そうだね、困らせちゃってごめん。応援してるよ」
当たり障りのないように会話を切り上げると、少年は縋るように僕を見上げた。
心臓が跳ねる。
僕で何か力になれるなら、本当に、何でも言ってくれていいのにな……。
その思いを言葉に出来ないまま、少年を見つめ返す。
米谷君は何か言いたそうな顔をしていたけど、結局何も聞く事はできなかった。
そんな昨夜のやりとりを思い返しながら、玄関のドアを開ける。
今日は天気の良い土曜日で、僕の仕事は土日が休みだ。
うららかな陽射しに誘われて、家を出たのは昼を回った頃だ。
たまには図書館にでも行ってみようか。料理とか栄養バランスの本でも読めば、少しは自分で自分の食べ物くらい選べるようになるだろうし。
いつも米谷君に頼りっぱなしだから、少しは自分でも勉強しないと。
なんて考えながら公園の脇を通り抜けようとして、ふと隅の方でうずくまる人影に目が止まる。
しゃがみ込んだその背には、一つに括られた金色の髪。
背格好も、いつもの彼に似ている気がして、僕は公園へ足を踏み入れた。
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