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米谷 彩斗(17)
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あのオッサンは毎日夜遅くに来て、くたびれた顔で、決まってお茶とあんかけ焼きそばを買ってくんだよな。
最初の印象は『このオッサン毎日よく飽きねーな』だった。
コンビニで、いつも決まったものを買う客は他にもいる。
それが『このオッサン毎日毎日ずっと同じもんばっか食ってて大丈夫か?』に変わり始めたのは、あのオッサンが全く同じもんを買い続けてひと月が過ぎた頃だ。
いつも同じ物を買う客だって、それ以外の物を買ったり、ちょっと違う物を買う事もある。
でもこのオッサンは、あまりにも毎日毎日同じ組み合わせ過ぎた。
このままじゃ栄養が偏って、病気にでもなるんじゃねーか?
そうは思っても、相手は客だしな。
なんて思っちゃいたんだが、つい、お節介で声をかけちまった。
自分で言うのもなんだけど、俺は髪も派手な金色だし、背も低くてガキっぽい見た目だし『なんだこいつ』みたいな顔されるかと思ってたんだよな。
でもあのオッサンは、俺の事不思議そうに眺めただけで、嫌そうな顔はしなかった。
それが、ちょっと嬉しかった。
それから毎日一度、あのオッサンと店で話すようになった。
「サラダでも食ったら?」なんて言えば、あのオッサンは素直に頷いた。
「そうだね、そうしようか」
どうやら本当に疲れ切ってるだけで、別にあんかけ焼きそばにこだわりもなかったらしいオッサンは、俺が勧める食べ物を毎日素直に買って帰った。
「昨日もそれだったろ? 今日はこっちのがいーんじゃね?」
「でもこれすごく美味しかったから、また食べたいな……」
オッサンが名残惜しそうに期間限定のシールを見つめる。
なんかこのオッサン俺よりずっと大人の癖に、いちいち仕草が子どもっぽいんだよな。
それにめちゃくちゃ素直だしな。
どんだけ、親に大事に育てられたんだろーな……。
「期間限定品だもんな、気持ちは分かる。けどまだしばらくはそれ置いてるはずだから、また今度で間に合うよ。同じもん続けて食うのはオススメしねーな」
「うーん、そっか。米谷君がそう言うなら、そうしておくよ」
オッサンが、もさもさした黒髪を揺らして黒縁メガネの向こうでふにゃっと苦笑する。
こんなに図体がデカいのに、こんなに人畜無害そうに見えるってのは、ある意味才能だよな。
オッサンは、いつの間にか俺の名前を覚えて、呼んでくれるようになっていた。
客がいなくなった店内で、俺は棚にスナック菓子を補充しながら、少し前に出て行ったオッサンを思い浮かべる。
あのオッサン、今頃家で一人でアレ食ってんのかな。
……一人……?
一人だよな?
いつも一人分しか買ってかねーし。
他に一緒に住んでる奴がいんなら、こんなに毎日コンビニで夕飯買わねーだろうし。
……いや、分かんねーか。
うちの母さんみたいに、大人でも料理しない人もいるしな。
けどまあ、そんならやっぱ二人分買うかな。
俺はそんなことをぼんやり考えながら、棚の菓子類を整える。
そういや、あのオッサン甘いもん買わねーな。
甘そうな顔してるくせに、甘いもんは苦手なのか?
突然、休憩に引っ込んだはずの店長が、血相を変えて出てきた。
「米谷くん! お母さんの職場から電話!」
俺の目の前に受話器が差し出される。
急な知らせなんて悪い知らせに決まってる。俺はそんな思いを頭の隅に追いやりながら、その電話を取った。
最初の印象は『このオッサン毎日よく飽きねーな』だった。
コンビニで、いつも決まったものを買う客は他にもいる。
それが『このオッサン毎日毎日ずっと同じもんばっか食ってて大丈夫か?』に変わり始めたのは、あのオッサンが全く同じもんを買い続けてひと月が過ぎた頃だ。
いつも同じ物を買う客だって、それ以外の物を買ったり、ちょっと違う物を買う事もある。
でもこのオッサンは、あまりにも毎日毎日同じ組み合わせ過ぎた。
このままじゃ栄養が偏って、病気にでもなるんじゃねーか?
そうは思っても、相手は客だしな。
なんて思っちゃいたんだが、つい、お節介で声をかけちまった。
自分で言うのもなんだけど、俺は髪も派手な金色だし、背も低くてガキっぽい見た目だし『なんだこいつ』みたいな顔されるかと思ってたんだよな。
でもあのオッサンは、俺の事不思議そうに眺めただけで、嫌そうな顔はしなかった。
それが、ちょっと嬉しかった。
それから毎日一度、あのオッサンと店で話すようになった。
「サラダでも食ったら?」なんて言えば、あのオッサンは素直に頷いた。
「そうだね、そうしようか」
どうやら本当に疲れ切ってるだけで、別にあんかけ焼きそばにこだわりもなかったらしいオッサンは、俺が勧める食べ物を毎日素直に買って帰った。
「昨日もそれだったろ? 今日はこっちのがいーんじゃね?」
「でもこれすごく美味しかったから、また食べたいな……」
オッサンが名残惜しそうに期間限定のシールを見つめる。
なんかこのオッサン俺よりずっと大人の癖に、いちいち仕草が子どもっぽいんだよな。
それにめちゃくちゃ素直だしな。
どんだけ、親に大事に育てられたんだろーな……。
「期間限定品だもんな、気持ちは分かる。けどまだしばらくはそれ置いてるはずだから、また今度で間に合うよ。同じもん続けて食うのはオススメしねーな」
「うーん、そっか。米谷君がそう言うなら、そうしておくよ」
オッサンが、もさもさした黒髪を揺らして黒縁メガネの向こうでふにゃっと苦笑する。
こんなに図体がデカいのに、こんなに人畜無害そうに見えるってのは、ある意味才能だよな。
オッサンは、いつの間にか俺の名前を覚えて、呼んでくれるようになっていた。
客がいなくなった店内で、俺は棚にスナック菓子を補充しながら、少し前に出て行ったオッサンを思い浮かべる。
あのオッサン、今頃家で一人でアレ食ってんのかな。
……一人……?
一人だよな?
いつも一人分しか買ってかねーし。
他に一緒に住んでる奴がいんなら、こんなに毎日コンビニで夕飯買わねーだろうし。
……いや、分かんねーか。
うちの母さんみたいに、大人でも料理しない人もいるしな。
けどまあ、そんならやっぱ二人分買うかな。
俺はそんなことをぼんやり考えながら、棚の菓子類を整える。
そういや、あのオッサン甘いもん買わねーな。
甘そうな顔してるくせに、甘いもんは苦手なのか?
突然、休憩に引っ込んだはずの店長が、血相を変えて出てきた。
「米谷くん! お母さんの職場から電話!」
俺の目の前に受話器が差し出される。
急な知らせなんて悪い知らせに決まってる。俺はそんな思いを頭の隅に追いやりながら、その電話を取った。
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