2 / 7
去年の秋口(2022年9月)
しおりを挟む
電車に揺られてようやく最寄駅に辿り着く。
営業で一日歩き通した足がずっしりと重い。
うちに帰らなきゃ……。
帰って、ご飯を食べて、早く寝ないと、明日も仕事だから。
そんな義務感に引きずられて、いつものコンビニに入る。
「いらっしゃいませー」
若い店員の声がなんだか遠く聴こえる。
夜道に慣れた目には光あふれる店内が眩しすぎて、僕は目を眇めた。
雑誌の並んだ通りを抜けて、飲み物の並んだガラス戸を開け、いつもと同じお茶のペットボトルを手に取る。
角を曲がると、いつもと同じような食べ物が棚に並んでいる。
その中から夕飯に何を食べようかと考えるも、どれを見たところで『食べたい』と思えない。
むしろ、何も食べたくない。
でも今日は休憩に入りそこねて昼食も抜いてしまったから、夕飯を食べないわけにはいかない。
明日も仕事だし、とにかく何か食べないと……。
結局、いつもと同じあんかけ焼きそばを手に取ってレジに向かう。
野菜も取れるし、あんかけ麺だから食欲がなくても食べやすい。
頭の隅でそんな風に思いながら。
店員が、僕の差し出したそれを手に取って、ピ。とレジに通す。
「温めますか?」
問われて、ぼんやりと俯いたまま頷く。
バタン、と電子レンジの扉が閉まった音と共に、店員が僕の前に戻ってくる。
チラと背後を振り返るが、レジに並んでいる人はいない。
「おじさん、もうここずっと毎日あんかけ中華そば食べてないか?」
問いかける声に、顔を上げる。
僕にそう言った店員は、まだ中学生くらいにも見える少年だった。
目に眩しい金色の髪が後ろで一つに括られている。
けど顔も喋り方も日本人のようだし、不良……いや、バンドマンか何かだろうか。
髪こそ派手な色だったが、ピアスなどの装飾品は見当たらない。
キュッと引き締まった小さめの顔が、僕を見上げてクリッと首を傾げた。
ああ、そうか、返事……。
「うん……そうだね」
僕が思わず頷くと、少年は困ったように苦笑した。
「毎日毎日同じもん食べ過ぎだよ」
「……そうだね……分かってはいるんだけど、もう帰る頃には頭が回らなくて、結局いつも同じメニューになっちゃうんだよね……」
なんだか気さくに話しかけられて、思わず正直に答えれば、少年は俺を労わるように小さく笑った。
「そっか、おじさん仕事でお疲れなんだなぁ」
ピーと鳴ったレンジを開けて、慣れた様子で少年は麺を取り出す。この子はいつからここで働いてたんだろう。
僕はどうやらもうずっと、毎晩立ち寄るコンビニの店員の顔すら見ていなかったらしい。
「はい、おじさん。お仕事お疲れ様。しっかり食って元気出してくれよ?」
少年は、僕のエコバッグに麺を入れて差し出してくれた。
真っ直ぐ僕を見る瞳は、ちょっとだけ色素が薄いのか茶色っぽい。
コンパクトに整った少年の顔の中で、淡い色の瞳がツンとした印象を和らげているようだ。
久々の、仕事と関係ない相手との会話に、なんだか心がほどけるのを感じる。
「ふふ、ありがとう」
その日は、いつものあんかけ焼きそばが、いつもよりちょっと美味しかった。
営業で一日歩き通した足がずっしりと重い。
うちに帰らなきゃ……。
帰って、ご飯を食べて、早く寝ないと、明日も仕事だから。
そんな義務感に引きずられて、いつものコンビニに入る。
「いらっしゃいませー」
若い店員の声がなんだか遠く聴こえる。
夜道に慣れた目には光あふれる店内が眩しすぎて、僕は目を眇めた。
雑誌の並んだ通りを抜けて、飲み物の並んだガラス戸を開け、いつもと同じお茶のペットボトルを手に取る。
角を曲がると、いつもと同じような食べ物が棚に並んでいる。
その中から夕飯に何を食べようかと考えるも、どれを見たところで『食べたい』と思えない。
むしろ、何も食べたくない。
でも今日は休憩に入りそこねて昼食も抜いてしまったから、夕飯を食べないわけにはいかない。
明日も仕事だし、とにかく何か食べないと……。
結局、いつもと同じあんかけ焼きそばを手に取ってレジに向かう。
野菜も取れるし、あんかけ麺だから食欲がなくても食べやすい。
頭の隅でそんな風に思いながら。
店員が、僕の差し出したそれを手に取って、ピ。とレジに通す。
「温めますか?」
問われて、ぼんやりと俯いたまま頷く。
バタン、と電子レンジの扉が閉まった音と共に、店員が僕の前に戻ってくる。
チラと背後を振り返るが、レジに並んでいる人はいない。
「おじさん、もうここずっと毎日あんかけ中華そば食べてないか?」
問いかける声に、顔を上げる。
僕にそう言った店員は、まだ中学生くらいにも見える少年だった。
目に眩しい金色の髪が後ろで一つに括られている。
けど顔も喋り方も日本人のようだし、不良……いや、バンドマンか何かだろうか。
髪こそ派手な色だったが、ピアスなどの装飾品は見当たらない。
キュッと引き締まった小さめの顔が、僕を見上げてクリッと首を傾げた。
ああ、そうか、返事……。
「うん……そうだね」
僕が思わず頷くと、少年は困ったように苦笑した。
「毎日毎日同じもん食べ過ぎだよ」
「……そうだね……分かってはいるんだけど、もう帰る頃には頭が回らなくて、結局いつも同じメニューになっちゃうんだよね……」
なんだか気さくに話しかけられて、思わず正直に答えれば、少年は俺を労わるように小さく笑った。
「そっか、おじさん仕事でお疲れなんだなぁ」
ピーと鳴ったレンジを開けて、慣れた様子で少年は麺を取り出す。この子はいつからここで働いてたんだろう。
僕はどうやらもうずっと、毎晩立ち寄るコンビニの店員の顔すら見ていなかったらしい。
「はい、おじさん。お仕事お疲れ様。しっかり食って元気出してくれよ?」
少年は、僕のエコバッグに麺を入れて差し出してくれた。
真っ直ぐ僕を見る瞳は、ちょっとだけ色素が薄いのか茶色っぽい。
コンパクトに整った少年の顔の中で、淡い色の瞳がツンとした印象を和らげているようだ。
久々の、仕事と関係ない相手との会話に、なんだか心がほどけるのを感じる。
「ふふ、ありがとう」
その日は、いつものあんかけ焼きそばが、いつもよりちょっと美味しかった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
変態高校生♂〜俺、親友やめます!〜
ゆきみまんじゅう
BL
学校中の男子たちから、俺、狙われちゃいます!?
※この小説は『変態村♂〜俺、やられます!〜』の続編です。
いろいろあって、何とか村から脱出できた翔馬。
しかしまだ問題が残っていた。
その問題を解決しようとした結果、学校中の男子たちに身体を狙われてしまう事に。
果たして翔馬は、無事、平穏を取り戻せるのか?
また、恋の行方は如何に。
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
BL学園の姫になってしまいました!
内田ぴえろ
BL
人里離れた場所にある全寮制の男子校、私立百華咲学園。
その学園で、姫として生徒から持て囃されているのは、高等部の2年生である白川 雪月(しらかわ ゆづき)。
彼は、前世の記憶を持つ転生者で、前世ではオタクで腐女子だった。
何の因果か、男に生まれ変わって男子校に入学してしまい、同じ転生者&前世の魂の双子であり、今世では黒騎士と呼ばれている、黒瀬 凪(くろせ なぎ)と共に学園生活を送ることに。
歓喜に震えながらも姫としての体裁を守るために腐っていることを隠しつつ、今世で出来たリアルの推しに貢ぐことをやめない、波乱万丈なオタ活BL学園ライフが今始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる