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従者サイドのお話
黒兎と飴色獅子(5/5)
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クレイが震えている事は、繋がったままのノクスには、すぐに分かった。
彼が何に怯えているのかも、もちろん分かる。
「大丈夫ですよ……。私は、どこも怪我していません……」
ノクスは身をかがめて、シュンとなっている獅子の耳へ口付ける。
この手が使えれば、撫でる事も、抱きしめることもできるのに。
「……このタイを、解いてもらえませんか?」
「…………やだ」
拗ねたような声で、獅子は呟いた。
黒兎は、体内のそれが力を失うのを感じながら、どうしたら良いのだろうかと、途方に暮れる。
「お前、さっきなんつった」
俯いたままの獅子に問われて、黒兎がよくわからないままに答える。
「え、ええと……好き、だと……」
「その前」
黒兎は、自分が何と言ったのか、一瞬思い出せずに首を捻る。
そして、やっと気付く。彼が何に心奪われたのか。
「……クレイ先輩……」
ピク。と獅子の耳が二つ揃ってこちらへ向いた。
「お前、まだ俺の事そんな風に思ってたのか?」
感情の読み取れない声に、ノクスは戸惑いながらも、正直に答える。
「先輩は変わらず先輩だと思っていますが……」
「……いつもクレアさんって呼んでんじゃねぇか」
今度の言葉には、拗ねたような響きが多分に含まれていた。
「それは立場上……」
「じゃあ、クレア先輩って呼べよ」
「それはちょっと……」
獅子はようやくじわりと顔を上げると、渋る後輩に「何でだよ……」と溢す。
黒兎は、その瞳が思ったよりもずっと傷付いた色をしていた事に息を呑んだ。
獅子はノクスの後ろへ両手を回すと、黙ったまま縛を解いた。
「……先輩……?」
理不尽に捕われていた癖に、戸惑うような声で尋ねるノクスに、クレイは苦笑を噛み殺しながら、解いたそれを差し出して言う。
「これで、俺の口を縛っとけ」
「……それは私のタイですが……」
ノクスの瞳が、どうして、そんな涎だらけになるのが分かっているのに、自分の持ち物を使わないのか、と言外に訴えている。
クレイは自分の握ったタイから、ノクスの首の匂いが濃く漂う事に気付くと、苦しげな苦笑を滲ませて「そうだな。俺のにするか」と言った。
立ち上がった彼は、自身のカバンを漁ると、ガチャリと音を立てて、格子状のそれを取り出した。
「……マズルガード……」
ノクスが普段目にする事の無いそれを見て、思わずその名を呟く。
それは、鼻先から顎までの口周りを囲むように湾曲した鉄柵と、それを頭の後ろで締めるベルトでできていて、装着すれば口が開かなくなる、一種の拘束具だった。
彼は、理性ある人として、そういった物を付けたがらなかったので、まさか彼の鞄からヒョイとそんな物が出てくるとは思わなかった。
「あいつが姫さんの色香に堪えられねぇようならつけてやろうかと思って用意してたんだが、まさか自分が使う羽目になるとはな」
自身を嘲るような、そんなクレイの言葉にすら、ノクスはたまらない気持ちになる。
彼が、あの自分のペースを乱されることのなさそうな彼が、理性を飛ばしてしまうほどに私に夢中なのだと、そう言われているようで……。
自嘲とともに、クレイはそれを装着する。いや、しようとしていたが、上がらない肩がそれを許さなかった。
ノクスが世話をしようと慌てて立ち上がる。
その拍子にどろりとしたものが溢れ出して足を伝った。
「ほらほら、溢れてんぞ」
彼にわざとらしく指摘され、羞恥に眉を寄せつつもノクスはそれを拭った。
注いできたのはそっちだと言うのに。
彼の後頭部でベルトを締めながらノクスは尋ねる。
「きつくありませんか?」
「ん。大丈夫だ」
返事をされて、付けていても話をする程度はできるらしいと知る。
「ま、これがありゃ安心だろ」
クレイは何かを諦めるようにしつつも、側に立つノクスに手を伸ばし、サッとベストとシャツを脱がせた。
主人の着替えの手伝いで慣れているからか、その手際の良さに見惚れていたノクスが、ようやく気付く。
クレイは尊厳のような物を投げ捨ててまで、私の安全を取ってくれたのだと。
「あ、ありがとうございます……」
「あ? 服脱がされて言うことか?」
悪戯っぽく細められた金色の瞳に、彼が本当は分かっているのだとノクスも気付く。
「そういうことで、構いません」
「何だ、言うようになったな」
面白くなさそうに言いながらも、彼が喉の奥で低く唸った。
早く、もっと、お前を寄越せと催促されたような気がして、ノクスもまた身体が熱くなるのを感じる。
ドンとクレイに押されて、ノクスはベッドへうつ伏せた。
口で言えば、横にくらいなるのに。
そう頭で思いながらも、ノクスの身体は期待に震える。
「お前が、傷が塞がるまでって言うから、こっちはあれから二週間も我慢してたんだからな」
「それは、先輩が傷を開いてしまうから長くかかったんですよ。それに、途中で二回は抜いたじゃないですか、私が」
「お前が抜くと余計溜まるんだよ!」
理不尽な。と思いながらも、ぐいと片手で腰を持ち上げられて、ノクスは口を閉じた。
うつ伏せて腰を高く上げさせられたノクスの背後から、獅子は覆い被さるようにして体を重ねる。
彼の、まだ気力に溢れたそれが、あてがわれると同時にずぶずぶと中へ入り込む。
熱い熱い感覚は、彼の愛を感じているからだろうか。
「あ、ぁ……っ、く……、う……っっ」
ゆっくりと息を吐いて、圧迫感を堪えるうちに、それはゆるゆると動き出した。
「ん、あ、っぅ、あ……っ」
深く、浅く、かき回すように突いては、時々ノクスの弱いところを狙ってくる。
その緩急に、ノクスは翻弄される。
ノクスは枕をギュッと抱き寄せて、そこに顔を埋めて声を殺そうとしているが、くぐもった嬌声がいくつもいくつも部屋に溢れる。
そんなノクスの姿に、獅子は笑みをこぼして尋ねる。
「……そんなに、俺に感じてんのか?」
ノクスは快感に喘ぎながらも、真っ赤な顔でコクコクと頷いた。
クレイからノクスの顔は見えなかったが、その黒い耳が赤らんだ事は後ろからでも分かった。
恥ずかしがるくせに、素直なその反応に、クレイはまた煽られる。
衝動に突き動かされるまま、激しくその身体を貪ると、黒兎から悦びの声が漏れた。
「ゃぁっ、あ……っ、ん……っ、そこ……、あっ……」
ぽろりと漏らされた言葉を、クレイは聞き逃さなかった。
「ん? ここか……?」
唸り声と共に尋ねつつ、狙って突いてやれば黒い兎はびくりと跳ねた。
そこはクレイもよく知っている場所だったが、本人の口から求められたのは初めてだった。
「お前、ここが弱いよな……?」
からかうような言葉が、けれど優しくノクスの背に囁かれる。
ぐいぐいと、そこを外さずに繰り返し突いてやれば、その度嬌声が溢れる。
「ノクス……気持ちいいか……?」
答えを促され、黒い兎は荒い息の合間から蕩けた頭で答える。
「あっ、ん……っ、そこ……気持ち、い……です……っ」
この生真面目な堅物から、そんな言葉を引き出せるとは思っていなかったクレイが、一瞬瞠目する。堪えきれず口端が弛めば、そこからぼたぼたとノクスの背にクレイの涎は落ち広がった。
発情する黒兎の背から首から広がる香りは、クレイには酷く甘く頭の芯をジンジンと痺れさせる。
この首筋を食い破って、この黒兎の全てを腹の中に収めたくなる衝動は、もう堪え難かった。
「お前……、もうたまんねぇよ。全部……俺のものにしたくなっちまう……」
余裕のまるで無さそうな獅子の声に、兎は小さく驚いた。
「全部……俺だけの物にして……、誰にも……見せたくねぇんだよ……」
低い唸り声とともに吐き出された苦しげな声は、どこか縋るような、必死で求めるような響きをしていた。
ノクスは、快感に溺れかけながらも、精一杯答える。
「んっ、私は、もう……、っ、体も、心も、貴方の、ものですよ……」
その衝撃的過ぎた言葉に、ピタ。とクレイが動きを止める。
すると、黒い兎は切なげに求めた。
「ぁ……やめないで……ください……」
「――っっっ!!」
獅子の毛が、ぶわりと逆立つ。
「っっ、もう、やめろっつってもやめねぇからなっ!?」
獅子が激しく腰を打ち付ける。
「ぁあっ、ぅぁっ、ぁぁっ、うぁんっっ、あぁあっ」
その度に蕩けそうな声が甘く響く。
二人の繋がっているところが、どうしようもなく熱く、熱を持つ。
ノクスの声が、追い詰められていくのを感じて、クレイはぐいと強く最奥を穿った。
「あっ、ああっ、あっっ、んんんんんんんっっっ!!」
黒兎の内側は嬉しそうにビクビクと収縮すると、クレイを絞った。
達したらしい黒兎の内に誘われるままに、クレイもまた精を放つ。
「くっ……」
一際深く挿し込んだまま、しばらくじっと動きを止めていたクレイが、顰めていた眉を緩めつつ唸る。
「……っ、くそ、こんなんじゃ全然足んねぇよ」
その下で小さく痙攣を続けていたノクスが、まだ整いきれない息の合間から言う。
「傷に……障りますから……」
もうやめておけと言うのだろう。そう思ったクレイにノクスは続けた。
「次は私が……。先輩は、横になっていて……ください……」
驚きに目を見開いて、クレイはノクスからそれを引き抜くと、言われた通りにノクスの隣に横になった。
学生の頃は、二度もすれば、もうこの黒兎はぐったりと立ち上がることさえ難しそうだったのに。
「お前……体力付いたな」
不意に褒められて、ノクスは一瞬キョトンとした顔をして、それから、はにかみながらも嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
至近距離での笑顔に、クレイは眩暈がした。
ヴィルのように可愛い可愛いと連呼するつもりは毛頭無いが、すらりとして整った顔立ちの黒兎が、そんなふうに笑えば、それはもう、可愛いと言うしかない。
口に出かかったその言葉を飲み込むようにしてクレイが視線を彷徨わせると、ベッドの隅に張り型がまだ乗っていた。
腕を伸ばしてヒョイと手に取ると、目の前の兎が顔色を変える。
クレイはクツクツと笑って言った。
「これは、また今度な」
それを聞いて、ホッとした様子の兎の耳を、クレイは肉球でそっと引き寄せる。
マズルガードがカチャリと小さく音を立てる。
「お前も、こっちより、俺の方が欲しいだろ……?」
耳元で甘く熱っぽく囁かれて、ノクスがぞくりと背を震わせる。
「……っ」
戸惑うように揺れる黒い瞳を、金色の眼差しが射抜く。
「ん?」
悪戯っぽい表情を浮かべる彼に、短く促されて、ノクスは観念したように頷いた。
彼が何に怯えているのかも、もちろん分かる。
「大丈夫ですよ……。私は、どこも怪我していません……」
ノクスは身をかがめて、シュンとなっている獅子の耳へ口付ける。
この手が使えれば、撫でる事も、抱きしめることもできるのに。
「……このタイを、解いてもらえませんか?」
「…………やだ」
拗ねたような声で、獅子は呟いた。
黒兎は、体内のそれが力を失うのを感じながら、どうしたら良いのだろうかと、途方に暮れる。
「お前、さっきなんつった」
俯いたままの獅子に問われて、黒兎がよくわからないままに答える。
「え、ええと……好き、だと……」
「その前」
黒兎は、自分が何と言ったのか、一瞬思い出せずに首を捻る。
そして、やっと気付く。彼が何に心奪われたのか。
「……クレイ先輩……」
ピク。と獅子の耳が二つ揃ってこちらへ向いた。
「お前、まだ俺の事そんな風に思ってたのか?」
感情の読み取れない声に、ノクスは戸惑いながらも、正直に答える。
「先輩は変わらず先輩だと思っていますが……」
「……いつもクレアさんって呼んでんじゃねぇか」
今度の言葉には、拗ねたような響きが多分に含まれていた。
「それは立場上……」
「じゃあ、クレア先輩って呼べよ」
「それはちょっと……」
獅子はようやくじわりと顔を上げると、渋る後輩に「何でだよ……」と溢す。
黒兎は、その瞳が思ったよりもずっと傷付いた色をしていた事に息を呑んだ。
獅子はノクスの後ろへ両手を回すと、黙ったまま縛を解いた。
「……先輩……?」
理不尽に捕われていた癖に、戸惑うような声で尋ねるノクスに、クレイは苦笑を噛み殺しながら、解いたそれを差し出して言う。
「これで、俺の口を縛っとけ」
「……それは私のタイですが……」
ノクスの瞳が、どうして、そんな涎だらけになるのが分かっているのに、自分の持ち物を使わないのか、と言外に訴えている。
クレイは自分の握ったタイから、ノクスの首の匂いが濃く漂う事に気付くと、苦しげな苦笑を滲ませて「そうだな。俺のにするか」と言った。
立ち上がった彼は、自身のカバンを漁ると、ガチャリと音を立てて、格子状のそれを取り出した。
「……マズルガード……」
ノクスが普段目にする事の無いそれを見て、思わずその名を呟く。
それは、鼻先から顎までの口周りを囲むように湾曲した鉄柵と、それを頭の後ろで締めるベルトでできていて、装着すれば口が開かなくなる、一種の拘束具だった。
彼は、理性ある人として、そういった物を付けたがらなかったので、まさか彼の鞄からヒョイとそんな物が出てくるとは思わなかった。
「あいつが姫さんの色香に堪えられねぇようならつけてやろうかと思って用意してたんだが、まさか自分が使う羽目になるとはな」
自身を嘲るような、そんなクレイの言葉にすら、ノクスはたまらない気持ちになる。
彼が、あの自分のペースを乱されることのなさそうな彼が、理性を飛ばしてしまうほどに私に夢中なのだと、そう言われているようで……。
自嘲とともに、クレイはそれを装着する。いや、しようとしていたが、上がらない肩がそれを許さなかった。
ノクスが世話をしようと慌てて立ち上がる。
その拍子にどろりとしたものが溢れ出して足を伝った。
「ほらほら、溢れてんぞ」
彼にわざとらしく指摘され、羞恥に眉を寄せつつもノクスはそれを拭った。
注いできたのはそっちだと言うのに。
彼の後頭部でベルトを締めながらノクスは尋ねる。
「きつくありませんか?」
「ん。大丈夫だ」
返事をされて、付けていても話をする程度はできるらしいと知る。
「ま、これがありゃ安心だろ」
クレイは何かを諦めるようにしつつも、側に立つノクスに手を伸ばし、サッとベストとシャツを脱がせた。
主人の着替えの手伝いで慣れているからか、その手際の良さに見惚れていたノクスが、ようやく気付く。
クレイは尊厳のような物を投げ捨ててまで、私の安全を取ってくれたのだと。
「あ、ありがとうございます……」
「あ? 服脱がされて言うことか?」
悪戯っぽく細められた金色の瞳に、彼が本当は分かっているのだとノクスも気付く。
「そういうことで、構いません」
「何だ、言うようになったな」
面白くなさそうに言いながらも、彼が喉の奥で低く唸った。
早く、もっと、お前を寄越せと催促されたような気がして、ノクスもまた身体が熱くなるのを感じる。
ドンとクレイに押されて、ノクスはベッドへうつ伏せた。
口で言えば、横にくらいなるのに。
そう頭で思いながらも、ノクスの身体は期待に震える。
「お前が、傷が塞がるまでって言うから、こっちはあれから二週間も我慢してたんだからな」
「それは、先輩が傷を開いてしまうから長くかかったんですよ。それに、途中で二回は抜いたじゃないですか、私が」
「お前が抜くと余計溜まるんだよ!」
理不尽な。と思いながらも、ぐいと片手で腰を持ち上げられて、ノクスは口を閉じた。
うつ伏せて腰を高く上げさせられたノクスの背後から、獅子は覆い被さるようにして体を重ねる。
彼の、まだ気力に溢れたそれが、あてがわれると同時にずぶずぶと中へ入り込む。
熱い熱い感覚は、彼の愛を感じているからだろうか。
「あ、ぁ……っ、く……、う……っっ」
ゆっくりと息を吐いて、圧迫感を堪えるうちに、それはゆるゆると動き出した。
「ん、あ、っぅ、あ……っ」
深く、浅く、かき回すように突いては、時々ノクスの弱いところを狙ってくる。
その緩急に、ノクスは翻弄される。
ノクスは枕をギュッと抱き寄せて、そこに顔を埋めて声を殺そうとしているが、くぐもった嬌声がいくつもいくつも部屋に溢れる。
そんなノクスの姿に、獅子は笑みをこぼして尋ねる。
「……そんなに、俺に感じてんのか?」
ノクスは快感に喘ぎながらも、真っ赤な顔でコクコクと頷いた。
クレイからノクスの顔は見えなかったが、その黒い耳が赤らんだ事は後ろからでも分かった。
恥ずかしがるくせに、素直なその反応に、クレイはまた煽られる。
衝動に突き動かされるまま、激しくその身体を貪ると、黒兎から悦びの声が漏れた。
「ゃぁっ、あ……っ、ん……っ、そこ……、あっ……」
ぽろりと漏らされた言葉を、クレイは聞き逃さなかった。
「ん? ここか……?」
唸り声と共に尋ねつつ、狙って突いてやれば黒い兎はびくりと跳ねた。
そこはクレイもよく知っている場所だったが、本人の口から求められたのは初めてだった。
「お前、ここが弱いよな……?」
からかうような言葉が、けれど優しくノクスの背に囁かれる。
ぐいぐいと、そこを外さずに繰り返し突いてやれば、その度嬌声が溢れる。
「ノクス……気持ちいいか……?」
答えを促され、黒い兎は荒い息の合間から蕩けた頭で答える。
「あっ、ん……っ、そこ……気持ち、い……です……っ」
この生真面目な堅物から、そんな言葉を引き出せるとは思っていなかったクレイが、一瞬瞠目する。堪えきれず口端が弛めば、そこからぼたぼたとノクスの背にクレイの涎は落ち広がった。
発情する黒兎の背から首から広がる香りは、クレイには酷く甘く頭の芯をジンジンと痺れさせる。
この首筋を食い破って、この黒兎の全てを腹の中に収めたくなる衝動は、もう堪え難かった。
「お前……、もうたまんねぇよ。全部……俺のものにしたくなっちまう……」
余裕のまるで無さそうな獅子の声に、兎は小さく驚いた。
「全部……俺だけの物にして……、誰にも……見せたくねぇんだよ……」
低い唸り声とともに吐き出された苦しげな声は、どこか縋るような、必死で求めるような響きをしていた。
ノクスは、快感に溺れかけながらも、精一杯答える。
「んっ、私は、もう……、っ、体も、心も、貴方の、ものですよ……」
その衝撃的過ぎた言葉に、ピタ。とクレイが動きを止める。
すると、黒い兎は切なげに求めた。
「ぁ……やめないで……ください……」
「――っっっ!!」
獅子の毛が、ぶわりと逆立つ。
「っっ、もう、やめろっつってもやめねぇからなっ!?」
獅子が激しく腰を打ち付ける。
「ぁあっ、ぅぁっ、ぁぁっ、うぁんっっ、あぁあっ」
その度に蕩けそうな声が甘く響く。
二人の繋がっているところが、どうしようもなく熱く、熱を持つ。
ノクスの声が、追い詰められていくのを感じて、クレイはぐいと強く最奥を穿った。
「あっ、ああっ、あっっ、んんんんんんんっっっ!!」
黒兎の内側は嬉しそうにビクビクと収縮すると、クレイを絞った。
達したらしい黒兎の内に誘われるままに、クレイもまた精を放つ。
「くっ……」
一際深く挿し込んだまま、しばらくじっと動きを止めていたクレイが、顰めていた眉を緩めつつ唸る。
「……っ、くそ、こんなんじゃ全然足んねぇよ」
その下で小さく痙攣を続けていたノクスが、まだ整いきれない息の合間から言う。
「傷に……障りますから……」
もうやめておけと言うのだろう。そう思ったクレイにノクスは続けた。
「次は私が……。先輩は、横になっていて……ください……」
驚きに目を見開いて、クレイはノクスからそれを引き抜くと、言われた通りにノクスの隣に横になった。
学生の頃は、二度もすれば、もうこの黒兎はぐったりと立ち上がることさえ難しそうだったのに。
「お前……体力付いたな」
不意に褒められて、ノクスは一瞬キョトンとした顔をして、それから、はにかみながらも嬉しそうに笑った。
「ありがとうございます」
至近距離での笑顔に、クレイは眩暈がした。
ヴィルのように可愛い可愛いと連呼するつもりは毛頭無いが、すらりとして整った顔立ちの黒兎が、そんなふうに笑えば、それはもう、可愛いと言うしかない。
口に出かかったその言葉を飲み込むようにしてクレイが視線を彷徨わせると、ベッドの隅に張り型がまだ乗っていた。
腕を伸ばしてヒョイと手に取ると、目の前の兎が顔色を変える。
クレイはクツクツと笑って言った。
「これは、また今度な」
それを聞いて、ホッとした様子の兎の耳を、クレイは肉球でそっと引き寄せる。
マズルガードがカチャリと小さく音を立てる。
「お前も、こっちより、俺の方が欲しいだろ……?」
耳元で甘く熱っぽく囁かれて、ノクスがぞくりと背を震わせる。
「……っ」
戸惑うように揺れる黒い瞳を、金色の眼差しが射抜く。
「ん?」
悪戯っぽい表情を浮かべる彼に、短く促されて、ノクスは観念したように頷いた。
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