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従者サイドのお話
黒兎と飴色獅子(1/5)
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「なあ、お前の姫さんは、何であんなちっこい体で、アレが入るんだ?」
問われて、ノクスは同室の獅子を振り返る。
獅子は学生の頃と変わらず、寝る時に服を着る気が微塵も無いのか、裸のままベッドに潜り込んでいた。
長いしっぽが、ゆらり、ゆらり、と時折ゆるやかに揺れている。
全身を覆う淡い金の体毛の中で、肩にだけ巻き付けられた真っ白な包帯が、やけに目に付いた。
ノクスの敬愛する主人は、今日も一日愛する夫と、それはもう仲睦まじく過ごしていた。もちろん、ベッドの中でも。
今は隣室で、二人で一塊になって眠りについているはずだ。
その主人の事で、彼は何か言いたいことがあるらしい。
しかし、見れば彼のその金色がかった瞳に疑問の色は浮かんでいない。
どうやら、彼は既に答えを得ているようだった。
それなのに、わざわざ私にそれを言わせようとしている……。
眉間に皺を寄せそうになるのを堪えつつ、私は、無駄だと知りながらも、シラを切った。
「……どうしてでしょうね」
私の言葉に、彼は鼻先で軽く笑うと、ベッドを抜け出してくる。
「本当にな、この兎ばっかの国で、お偉いさんばっかのこの場所で、一体誰が獅子のサイズなんて知ってたんだろうな?」
言いながら彼は、着替えようとジャケットを脱いでいた私の肩にもたれかかり、頬をべろりと舐めた。
「…………」
性格が悪い。
……実に、正に、とにかく、この男は性格が悪いと思う。
顔は良いし頭も良い、体術もできるし、咄嗟の判断力だって申し分無い。
なのにどうしてこう、人の嫌がることが好きなのだろうか。
「王家にのみ伝わる極秘資料でもあるのかも知れませんね」
「ふぅん? そんな事言うわけだ?」
彼の金色がかった瞳が、ランプの明かりを受けてゆらりと歪に煌めいた。
獅子は柔らかな肉球で、私の耳を撫でるように引き寄せると、そこへ唇を寄せる。
「……お前が、俺のを参考に作らせたんだろ?」
耳元で熱い息と共に囁かれて、びくり、と肩が揺れてしまう。
それを肯定と取ったのか、彼は満足げに笑った。
「ふぅん、そうか……」
彼の低い声が、一層低くなる。嫌な予感しかしない。
「じゃあ、姫さんは、俺ので毎日練習してたってことな?」
「……っ!!」
主人を侮辱されたようで、頭に血が上る。
どうしてそんな、そんな話をわざわざしようと言うのだろうか。
怒りを込めた眼差しを向けた私に、彼は感情の読めない声で尋ねた。
「で、お前はそんな姫さん見てどう思ったわけ?」
その言葉に、思わず、脳裏を冬の日々が過ぎる。
頬を染め、息を荒くしたアリエッタ様の姿。
そこへと手を伸ばす自身。
その手には、彼を模した張り型が握られていて……。
私は勢いよく顔を背けると、目を閉じた。
しかしそれは逆効果で、眼裏にはアリエッタ様の潤んだ眼差しがはっきりと映る。
慌てて目を開くと、明かりの落とされた室内の風景に、ほんの少しホッとした。
「っ、どうも、思いません。仕事ですから」
「ふ~~ん?」
やたらと伸びたその声に、その顔を睨み返したいところではあったが、あの目を見てしまったが最後、捕らわれるのは自分だと分かっていた。
だからとにかく視線は伏せたまま、彼の興味が薄れるのを待つ。
視界の外からスッと伸ばされた手は、無遠慮に私の股間を撫でた。
「っ……」
びくりと肩を揺らした私に、彼は楽しそうに言う。
「思い出しただけで、こんなになってて、よく言う」
言いながら、彼はその柔らかな肉球で服の上から私を玩ぶ。
「ま、そんなとこ、嫌いじゃねぇけどな」
そう呟いてクツクツと笑う彼の、その言葉は、暗に愛を囁いていた。
理解してしまうと、もうどうしようもなく、顔が熱くなってくる。
私は平静を装いつつ、じっと俯いていた。
そんな私の耳を、彼は外側からべろりと舐める。
どうやら、彼には私の動揺など、とっくに見透かされているらしい。
私の毛は全身がほぼ黒色で、手足の先と、前髪にほんの少し白が入っているのみだ。
黒い毛は、顔色を隠してくれる。けれど、耳の内側だけは薄い皮膚がその朱色を隠しきれなかった。
「で。…………それは今、どこにある?」
私は驚きに目を見開いた。
それは、つまり……。
ぐいとタイを掴まれて、私は強引に彼と目を合わせられる。
「……お前が持ってんだろ?」
ニヤリと笑うその口端から、鋭い牙がぞろりと顔を覗かせた。
「……っ」
私はどうすることもできずに、ただ息を詰める。
彼は、私にそれを出せと言っている。
しかし、彼はそれを手にして、それからどうしようと言うのか。
私の背を冷たい汗が流れ落ちる。
それと同時に、熱い感覚がぞくりと駆け上るのを、私は気付かずにはいられなかった。
問われて、ノクスは同室の獅子を振り返る。
獅子は学生の頃と変わらず、寝る時に服を着る気が微塵も無いのか、裸のままベッドに潜り込んでいた。
長いしっぽが、ゆらり、ゆらり、と時折ゆるやかに揺れている。
全身を覆う淡い金の体毛の中で、肩にだけ巻き付けられた真っ白な包帯が、やけに目に付いた。
ノクスの敬愛する主人は、今日も一日愛する夫と、それはもう仲睦まじく過ごしていた。もちろん、ベッドの中でも。
今は隣室で、二人で一塊になって眠りについているはずだ。
その主人の事で、彼は何か言いたいことがあるらしい。
しかし、見れば彼のその金色がかった瞳に疑問の色は浮かんでいない。
どうやら、彼は既に答えを得ているようだった。
それなのに、わざわざ私にそれを言わせようとしている……。
眉間に皺を寄せそうになるのを堪えつつ、私は、無駄だと知りながらも、シラを切った。
「……どうしてでしょうね」
私の言葉に、彼は鼻先で軽く笑うと、ベッドを抜け出してくる。
「本当にな、この兎ばっかの国で、お偉いさんばっかのこの場所で、一体誰が獅子のサイズなんて知ってたんだろうな?」
言いながら彼は、着替えようとジャケットを脱いでいた私の肩にもたれかかり、頬をべろりと舐めた。
「…………」
性格が悪い。
……実に、正に、とにかく、この男は性格が悪いと思う。
顔は良いし頭も良い、体術もできるし、咄嗟の判断力だって申し分無い。
なのにどうしてこう、人の嫌がることが好きなのだろうか。
「王家にのみ伝わる極秘資料でもあるのかも知れませんね」
「ふぅん? そんな事言うわけだ?」
彼の金色がかった瞳が、ランプの明かりを受けてゆらりと歪に煌めいた。
獅子は柔らかな肉球で、私の耳を撫でるように引き寄せると、そこへ唇を寄せる。
「……お前が、俺のを参考に作らせたんだろ?」
耳元で熱い息と共に囁かれて、びくり、と肩が揺れてしまう。
それを肯定と取ったのか、彼は満足げに笑った。
「ふぅん、そうか……」
彼の低い声が、一層低くなる。嫌な予感しかしない。
「じゃあ、姫さんは、俺ので毎日練習してたってことな?」
「……っ!!」
主人を侮辱されたようで、頭に血が上る。
どうしてそんな、そんな話をわざわざしようと言うのだろうか。
怒りを込めた眼差しを向けた私に、彼は感情の読めない声で尋ねた。
「で、お前はそんな姫さん見てどう思ったわけ?」
その言葉に、思わず、脳裏を冬の日々が過ぎる。
頬を染め、息を荒くしたアリエッタ様の姿。
そこへと手を伸ばす自身。
その手には、彼を模した張り型が握られていて……。
私は勢いよく顔を背けると、目を閉じた。
しかしそれは逆効果で、眼裏にはアリエッタ様の潤んだ眼差しがはっきりと映る。
慌てて目を開くと、明かりの落とされた室内の風景に、ほんの少しホッとした。
「っ、どうも、思いません。仕事ですから」
「ふ~~ん?」
やたらと伸びたその声に、その顔を睨み返したいところではあったが、あの目を見てしまったが最後、捕らわれるのは自分だと分かっていた。
だからとにかく視線は伏せたまま、彼の興味が薄れるのを待つ。
視界の外からスッと伸ばされた手は、無遠慮に私の股間を撫でた。
「っ……」
びくりと肩を揺らした私に、彼は楽しそうに言う。
「思い出しただけで、こんなになってて、よく言う」
言いながら、彼はその柔らかな肉球で服の上から私を玩ぶ。
「ま、そんなとこ、嫌いじゃねぇけどな」
そう呟いてクツクツと笑う彼の、その言葉は、暗に愛を囁いていた。
理解してしまうと、もうどうしようもなく、顔が熱くなってくる。
私は平静を装いつつ、じっと俯いていた。
そんな私の耳を、彼は外側からべろりと舐める。
どうやら、彼には私の動揺など、とっくに見透かされているらしい。
私の毛は全身がほぼ黒色で、手足の先と、前髪にほんの少し白が入っているのみだ。
黒い毛は、顔色を隠してくれる。けれど、耳の内側だけは薄い皮膚がその朱色を隠しきれなかった。
「で。…………それは今、どこにある?」
私は驚きに目を見開いた。
それは、つまり……。
ぐいとタイを掴まれて、私は強引に彼と目を合わせられる。
「……お前が持ってんだろ?」
ニヤリと笑うその口端から、鋭い牙がぞろりと顔を覗かせた。
「……っ」
私はどうすることもできずに、ただ息を詰める。
彼は、私にそれを出せと言っている。
しかし、彼はそれを手にして、それからどうしようと言うのか。
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