5 / 8
歳月
しおりを挟む
「いや、それは……。ほら、従者が……」
「大丈夫だから」
躊躇う男に、リンデルは微笑みながらその手を男の下半身へと伸ばす。
服の上から撫で回されて、男が僅かに頬を赤らめる。
「っ……リンデル……」
「ほら、おっきくなってきたよ?」
嬉しそうに微笑むリンデルに、男が眉を顰めて答える。
「お前が……触るからだろ」
リンデルが、ぴたりと動きを止めて、悲しげに呟く。
「俺とは、もうしたくない……?」
髪と同じ金色の睫毛が、震えるようにじわりと伏せられる。
「俺が……もう、子供じゃないから……?」
捨てられる事に怯えるように、リンデルが小さく体を縮こまらせる。
「そんな事、心配してたのか」
男は苦笑を浮かべて息を吐く。
温かい眼差しのまま、男はそっと腕を伸ばして金色の頭を抱き寄せる。
「そんなのは関係ない。……お前は今でも変わらず可愛いよ」
優しく諭すように囁かれて、リンデルは男を抱き締め返した。
「カース……」
ぎゅっと上から覆い被さるようにくっついてくる青年に、男は息苦しくなったのか、姿勢を横向きに変える。
「……しかし、重くなったな」
苦笑する男の胸に、リンデルはなおも顔を擦り付ける。
「ごめん……」
「謝るような事じゃない。お前の成長は喜ばしい事だ」
「……」
「俺も、お前の成長が嬉しいよ」
「本当……?」
「ああ」
上目遣いに、男の胸元から見上げてくる金色の瞳。
まだ涙の跡を残した目尻を、男は指先で愛しく撫でた。
「お前の従者が、俺について来いと言うんだ」
「え、ロッソが?」
「ああ」
「カース、俺と来てくれるの!?」
「まあ……、途中までならな」
流石に王都までは行けないだろう。彼には前科がある。
しかしこの村から王都までは、まだかなり距離がある。
「そっか……そっか……、じゃあ、明日もカースと会えるんだ……」
心底嬉しそうに、頬を赤く染めてリンデルが微笑む。
「ああ、だから焦る必要は無い。もう寝ろ。明日出立するんだろ」
男にふわふわと髪を撫でられて、リンデルはほうっと息を吐くと表情をゆるめた。
どうやら、本人も気付かぬうちに焦りから力が入っていたようだ。
「うん……」
男の胸に頬を寄せて、青年は安心した顔で金色の目を細める。
「カース……」
「なんだ」
耳元で囁かれる返事に、青年はそっと目を閉じる。
「目が覚めたら、夢だったとか……ないよね……?」
「俺はそれでもいいけどな」
「良くないよっ」
さらりと答える男に、リンデルは慌てて抗議する。
男の括られた黒髪へリンデルは長い指を絡めると、それをぎゅっと抱き締めた。
「いてて、あんま引っ張んなよ」
「カース……」
「うん?」
「明日も、俺の側にいて……」
「わかった。約束する。だからもう寝ろ」
「うん……」
リンデルは、頭痛の疲れもあってか、男の胸でとろりと眠そうな顔をしていた。
そんな青年の金色の髪を、男はゆっくりゆっくり優しく撫でている。
「ぜったい……おいて、行かないで……よ……?」
「ああ、傍にいるよ……」
囁く男の瞳は、深い後悔と懺悔の色に染まっていた。
リンデルは、自分の事などすっかり忘れて、幸せに生きているのだと思っていた。
淋しいのは自分だけだと、信じていた。
けれど、それは俺の思い違いだった。
俺のことを思い出せないままに、この青年は俺をずっと探していたと、従者は告げた。
それはなんて残酷な事だったのか。
俺はまた。こいつの為を思って、逆にこいつを辛い目に遭わせていたのかも知れない……。
すぅすぅと柔らかな寝息に、リンデルが寝付いたのを確認すると、男は身を起こそうとして……、その髪を握りしめられている事に思い至る。
中途半端に体を浮かせた男に、ロッソの声が静かにかかる。
「そちらでお休みいただいて、構いませんよ」
「……ずっと聞いてたのか」
「これが仕事ですから」
「そりゃご苦労なこった」
「……申し訳ありません」
「謝る事じゃない」
男は小さくひとつため息をつくと、またリンデルの隣に肩を沈める。
「お前ももう寝ておけ。俺はこいつに何もしない」
「はい……ありがとうございます」
ロッソは、男の言葉を素直に受け取った。
この男がどれだけリンデルを大切にしているのかは、もうロッソにも分かっていた。
それでも、なぜこれほど想い合う二人が離れていたのかは、まだ分からないままだった。
「大丈夫だから」
躊躇う男に、リンデルは微笑みながらその手を男の下半身へと伸ばす。
服の上から撫で回されて、男が僅かに頬を赤らめる。
「っ……リンデル……」
「ほら、おっきくなってきたよ?」
嬉しそうに微笑むリンデルに、男が眉を顰めて答える。
「お前が……触るからだろ」
リンデルが、ぴたりと動きを止めて、悲しげに呟く。
「俺とは、もうしたくない……?」
髪と同じ金色の睫毛が、震えるようにじわりと伏せられる。
「俺が……もう、子供じゃないから……?」
捨てられる事に怯えるように、リンデルが小さく体を縮こまらせる。
「そんな事、心配してたのか」
男は苦笑を浮かべて息を吐く。
温かい眼差しのまま、男はそっと腕を伸ばして金色の頭を抱き寄せる。
「そんなのは関係ない。……お前は今でも変わらず可愛いよ」
優しく諭すように囁かれて、リンデルは男を抱き締め返した。
「カース……」
ぎゅっと上から覆い被さるようにくっついてくる青年に、男は息苦しくなったのか、姿勢を横向きに変える。
「……しかし、重くなったな」
苦笑する男の胸に、リンデルはなおも顔を擦り付ける。
「ごめん……」
「謝るような事じゃない。お前の成長は喜ばしい事だ」
「……」
「俺も、お前の成長が嬉しいよ」
「本当……?」
「ああ」
上目遣いに、男の胸元から見上げてくる金色の瞳。
まだ涙の跡を残した目尻を、男は指先で愛しく撫でた。
「お前の従者が、俺について来いと言うんだ」
「え、ロッソが?」
「ああ」
「カース、俺と来てくれるの!?」
「まあ……、途中までならな」
流石に王都までは行けないだろう。彼には前科がある。
しかしこの村から王都までは、まだかなり距離がある。
「そっか……そっか……、じゃあ、明日もカースと会えるんだ……」
心底嬉しそうに、頬を赤く染めてリンデルが微笑む。
「ああ、だから焦る必要は無い。もう寝ろ。明日出立するんだろ」
男にふわふわと髪を撫でられて、リンデルはほうっと息を吐くと表情をゆるめた。
どうやら、本人も気付かぬうちに焦りから力が入っていたようだ。
「うん……」
男の胸に頬を寄せて、青年は安心した顔で金色の目を細める。
「カース……」
「なんだ」
耳元で囁かれる返事に、青年はそっと目を閉じる。
「目が覚めたら、夢だったとか……ないよね……?」
「俺はそれでもいいけどな」
「良くないよっ」
さらりと答える男に、リンデルは慌てて抗議する。
男の括られた黒髪へリンデルは長い指を絡めると、それをぎゅっと抱き締めた。
「いてて、あんま引っ張んなよ」
「カース……」
「うん?」
「明日も、俺の側にいて……」
「わかった。約束する。だからもう寝ろ」
「うん……」
リンデルは、頭痛の疲れもあってか、男の胸でとろりと眠そうな顔をしていた。
そんな青年の金色の髪を、男はゆっくりゆっくり優しく撫でている。
「ぜったい……おいて、行かないで……よ……?」
「ああ、傍にいるよ……」
囁く男の瞳は、深い後悔と懺悔の色に染まっていた。
リンデルは、自分の事などすっかり忘れて、幸せに生きているのだと思っていた。
淋しいのは自分だけだと、信じていた。
けれど、それは俺の思い違いだった。
俺のことを思い出せないままに、この青年は俺をずっと探していたと、従者は告げた。
それはなんて残酷な事だったのか。
俺はまた。こいつの為を思って、逆にこいつを辛い目に遭わせていたのかも知れない……。
すぅすぅと柔らかな寝息に、リンデルが寝付いたのを確認すると、男は身を起こそうとして……、その髪を握りしめられている事に思い至る。
中途半端に体を浮かせた男に、ロッソの声が静かにかかる。
「そちらでお休みいただいて、構いませんよ」
「……ずっと聞いてたのか」
「これが仕事ですから」
「そりゃご苦労なこった」
「……申し訳ありません」
「謝る事じゃない」
男は小さくひとつため息をつくと、またリンデルの隣に肩を沈める。
「お前ももう寝ておけ。俺はこいつに何もしない」
「はい……ありがとうございます」
ロッソは、男の言葉を素直に受け取った。
この男がどれだけリンデルを大切にしているのかは、もうロッソにも分かっていた。
それでも、なぜこれほど想い合う二人が離れていたのかは、まだ分からないままだった。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
クソザコ乳首アクメの一日
掌
BL
チクニー好きでむっつりなヤンキー系ツン男子くんが、家電を買いに訪れた駅ビルでマッサージ店員や子供や家電相手にとことんクソザコ乳首をクソザコアクメさせられる話。最後のページのみ挿入・ちんぽハメあり。無様エロ枠ですが周りの皆さんは至って和やかで特に尊厳破壊などはありません。フィクションとしてお楽しみください。
pixiv/ムーンライトノベルズにも同作品を投稿しています。
なにかありましたら(web拍手)
http://bit.ly/38kXFb0
Twitter垢・拍手返信はこちらから
https://twitter.com/show1write
えっちな美形男子〇校生が出会い系ではじめてあった男の人に疑似孕ませっくすされて雌墜ちしてしまう回
朝井染両
BL
タイトルのままです。
男子高校生(16)が欲望のまま大学生と偽り、出会い系に登録してそのまま疑似孕ませっくるする話です。
続き御座います。
『ぞくぞく!えっち祭り』という短編集の二番目に載せてありますので、よろしければそちらもどうぞ。
本作はガバガバスター制度をとっております。別作品と同じ名前の登場人物がおりますが、別人としてお楽しみ下さい。
前回は様々な人に読んで頂けて驚きました。稚拙な文ではありますが、感想、次のシチュのリクエストなど頂けると嬉しいです。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
受け付けの全裸お兄さんが店主に客の前で公開プレイされる大人の玩具専門店
ミクリ21 (新)
BL
大人の玩具専門店【ラブシモン】を営む執事服の店主レイザーと、受け付けの全裸お兄さんシモンが毎日公開プレイしている話。
ショタ18禁読み切り詰め合わせ
ichiko
BL
今まで書きためたショタ物の小説です。フェチ全開で欲望のままに書いているので閲覧注意です。スポーツユニフォーム姿の少年にあんな事やこんな事をみたいな内容が多いです。
山本さんのお兄さん〜同級生女子の兄にレ×プされ気に入られてしまうDCの話〜
ルシーアンナ
BL
同級生女子の兄にレイプされ、気に入られてしまう男子中学生の話。
高校生×中学生。
1年ほど前に別名義で書いたのを手直ししたものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる