文字化け

中田 惇

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何番煎じ

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続いている。いつだって続きからだ。
今さら0からのスタートなんて難しい。心機一転、0からのスタート!なんて思いたい瞬間なんていくつもあった。それは無理だ。もう、とっくの昔に始まってしまってるから。

当たり障りなく生きてきた33年間。
それは今も継続している。でも、周りからすると変わり者という評価をされる。良い意味で。
子供の頃は両親にマニュアル通りの教育を受け、反抗期もしっかり通り、ほんと、お世話になった。
両親は離婚し、父は死んだ。
母と兄と妹は元気でやってるよ。何よりの救いだ。

俺は一般社会の闇属性のいち社会人としてしっかりやってる。と、思ってる。最近ではそう思えてる。

神様だの宗教だの占いだのなんてものに助けを求めるつもりはない。でも、本当にいるのなら、妖怪や閻魔様にはお会いしたいな、なんて。

俺はポジティブ思考とネガティブ思考の両方を極端な程、高い数値で持ち合わせている気がする。人間の思い込みの力って凄いなってつくづく思う。
「希望」や「愛」や「光」が生きる力になるのは十分わかる。
「怨み」や「憎しみ」なども生きる力になると俺は思う。
まあ、両方あっての人生だってのも承知の上で。

とりあえず、ざっくり説明するとこういう人生でこういう思考回路を持ってる男って感じかな。


そんなある日、心当たりも前触れも無くある文字だけが見る度に読む度に声に出す度に強烈に脳裏に刻まれていく感覚に陥った。


「怨」


なぜかはわからない。
でも、怖くはなかった。

そういう日が続いたある日、その日は夏なのに少し涼しかった。なぜだろうと思っていると、雨が降っていた。全然、気付けなかった。天気予報は晴れマークだった。時間帯によっては急な雨になるとお天気お姉さんは言っていたが、晴れマークだけを見て今日は雨は降らないと思い込んでいた。けど、雨は降っていた。しかし、今日は晴れだと思い込んでいた。

そう。俺は思い込みの世界に一瞬だけ足を踏み入れていた。だから、気付けなかった。不思議な世界だった気がする。こういう経験ってあるあるなのかな?って、考えながら帰った。勿論、誰にも聞く事なんて出来ずに。


人生が変わる初日。


昔から仲の良い友達に連絡をとる。
俺「今日暇?」
友達「仕事が忙しい」
俺「終わったら飯でも行こう」
友達「仕事の後は部下達と行く所がある」

何気無いやり取り。良くあるやり取りだ。しかし、最近このやり取りがあまりにも多すぎる。

奴は社長になった。それに比べ俺は未だに転職を繰り返し定職にもつかない。財力も桁違い。
そんな事言ったって悪いのは俺じゃないか。奴は頑張った結果が出てる。

何を怨む必要があるんだ…


もう一人の友達に連絡をする。
俺「今日暇?」
友達「女と子供連れて出掛けるんだ」
俺「そっか、また誘うよ」

俺は未だに相変わらず独身。
それに比べこいつは何度別れてもすぐに恋人が出来る。
異性と出会う為の努力なら惜しまない人間だからな。
何もせずただ待っている俺に異性なんか寄ってこないよな。

わかってる。誰を怨む必要がある?
毎日それなりの努力もせずにただ生きてるだけの自分が悪いだけだろ。

いろんな出来事がフラッシュバックする。
俺が借金をしなきゃ買えないものを一括現金で簡単に買う人もいる。
俺がやりたいと思って応募した仕事も書類選考で落ちる。でも、そういう仕事を出来ている人達もいる。

わかってる。俺に足りないだけだ。
俺はそんな事で人を怨んだりするようなちっぽけな人間なんかじゃない。と、思い込んだ。…思い込んでいた。


その時は例の世界にいた。
確実にいつも自分がいる家の空間ではないことはわかった。

何も無く暗い。
居心地は悪くない。

今、俺の目に写るものは……

一文字だけ。


「怨」


それは驚かない。見慣れていたからかな。

やっぱり怨んでたんだ。いろんな事を。

その文字は徐々に姿形を変えて、髑髏に化けた。

一言だけ言われた。

髑髏「まだ何もわかっていないな」

髑髏と俺の体は一つになった。
体に力が入らない。
地面に膝をつき崩れる。
でも、体のどこが痛い訳でもない。
手足は動かないが意識はある。目も見える、耳も聞こえる。

上を見上げた。
俺の背中から蒸気の様に髑髏が姿を現している。手を動かそうとするとその同化した髑髏の手が動く。


今日この日、俺は文字に憑依された。

俺の人生、何かが0から始まる気がした。

…いや、違う。始まってたんだ、とっくに。

0からじゃない。俺にだって今まで積み重ねてきた人生の経験はある。

これからも続いていく。

そして今日から何が起きるかわからない新たな物語りを続けていけるかな。


…あ、俺の部屋だ。


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