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224話 情報共有 その6

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 エリィ達に向き直ったソアンは、腹の前で両手を組み、軽く深呼吸をしてから口を開く。

「報酬の折り合いもついた事だし、改めて依頼内容の方なんだが……問題の夜会でテレッサの護衛を頼みたい。
 叶うなら彼女の傍について欲しいが、夜会と言う場所柄、もし貴女自身が見た目の幼さは問題と感じるのであれば、陰ながらの護衛と言う形でも譲歩しよう。
 後ろに控えているマローネは本来テレッサの侍女でね。当日はテレッサの傍に控えるだろうから、この後は彼女と話を詰めてもらえると助かる」

 ソアンから目線でい流されたマローネが、深く頭を垂れた。
 それをちらと見遣ってから、エリィは暫し考え込んだ後、何の前触れもなくそれは起こった。
 いや、エリィが起こしたと言うべきか。

 物音一つ立てることなく、エリィの周囲の空気だけが揺らぐ。
 最初は微かに、徐々に周りの色と混じり合って、何が何とも判別がつかなくなった後、あっさりと戻ったそこに座っていたのはエリィではなかった。

「警護対象は危険なんでしょう? だったら最初から入れ替わったほうが早いわ。
 まぁ、そのテレッサさんとやらに合わせて貰わないといけないけれど」

 ソアン達の前に座っていたエリィは消え失せ、後ろに控えるマローネの姿に変化しているのだが、声はエリィのままという信じがたい光景があった。
 それには室内の者……と言ってもアレクとセレスは平然としたものだったが、それ以外は全員、脳が情報を受け止めきれないのか、言葉も出ない様子だ。


「……………
 あら、これはお気に召さないのかしら……ふむ、どうしたものかしらね?」

 きょとんと零された言葉に、無言の全員がビクリと震える。

 オリアーナやヴェルザンは、少し前まで知っていたはずのエリィが、得体のしれないものにでも見えたのか、微かに後退っている。
 ヒースとローグバインはどちらも一瞬遅れてから、それぞれソアンとオリアーナの前に慌てて回り込んだ。
 トタイスは目を丸くしたまま呆け続けている。
 パトリシアも目深に被ったフードのせいで顔は見えないが、床にへたり込んでしまっていた。
 ソアンは………。

「す……素晴らしい! おい、見たか!? 隠形魔法か何かだろうか、それとも幻影魔法? こんな魔法を使える者がまだ生存していたことが驚きだ!!
 いや、もしかするとスキルなのか……スキルならば私にも可能性が!」

 如何にイケメンと言えど、30を超えた成人男性が、目をキラキラさせて両手を拳に握り、立ち上がって興奮気味に捲し立てているのは、正直眉を顰める光景だ。

「えっと……それで、入れ替わりという事で良いです?」

 ソアンのキラキラ具合が止まらない。

「あぁ、あぁ!! 勿論だとも! あぁ、ならエスコートはヴェルでなくても構わない訳で……そうだ、私がエスコートしよう!」
「いえ……遠慮します」
「何故だ!!??」
「いや、貴方も王族って生き物なんでしょうが……怪我とかされると困るんで…」
「大丈夫だ!! そうだ、しっかりと契約書は作るつもりだったし、そこへ私に何があっても不問という一文を付け加えれば!」
「「「「ソアン!?」様!!」」殿……」

 キラキラどころか暴走までし始めたが、流石に周りもハッと意識を取り戻し、ソアンを抑え込みにかかった。

「落ち着いてください」
「貴方が身を危険に晒してどうする!」
「と言うかその前に自分の年齢考えろ…」
「何故だ!!?? というか年齢は関係ないだろう!!??」
「いい年齢した大人が……」
「しかし魔法だぞ!? しかも過去に失った希少な魔法!! それを間近で見たいと思って何がいけないのだ!!」

 最早エリィそっちのけで、王国組が喧々囂々している。
 先程までエリィに対する恐れに似た空気に支配されていたのが嘘のように、三文コメディでも見せられている気分だ。
 そんなエリィの空気を感じ取ったのか、思わず前に出る形になっていたローグバインが、申し訳なさそうな表情で振り向いた。

「その、済まない。
 閣下は……ソアン殿下は幼い頃より魔法が大層お好きなんだ」

 エリィに向けた言葉だったそれに、ソアン自身が反応した。

「良いじゃないか! 自分が使えずとも、魔導士たちが使っているのを見るのは好きだったんだ。だって綺麗じゃないか……こう光がふわっとだな」
「わかった……わかったから落ち着け」
「むぅぅ」

 30超えた成人男性の、以下略……だ。

 何にせよ一段落付いたとみて、エリィが口を開く。

「魔法がお好きなのはわかりましたが、エスコートやらが必要なら、その人員もこちらで準備するのでご心配なく」

 まだ諦め切れないとばかりに低く唸っているソアンだったが、誰も折れてくれないとわかり、ガックリと肩を落とし大きな溜息を吐いた。

「夜会の進行等、覚えておいたり知っておかないといけない事は、纏めておいて下さると助かります」
「しょ、承知しましたッ」

 マローネも珍しく動揺が隠せなかったようで、声が上ずっている。
 とはいえ、普段の彼女を知らないエリィ達が突っ込む事はないのだが。



 話は終わったとばかりに解散ムードが漂う中、エリィが大した事ではないと言うように、さらりと言葉を発した。

「ところで、結晶草を提供できると言ったらどうします?」

 漂っていた空気が一気に霧散し、誰もが目を見開いたまま硬直している。
 その様子に、エリィは何か間違ったかしらと、首を傾けていると、パトリシアが震える声を紡いだ。

「……は……はぁぁぁ!? いやいや、待ってくださいって! 結晶草があるっていうんですか!?」

 そっとパネルを呼び出せば、既に居空地の面々が収穫してくれていたようで、大量の結晶草の葉が入っていた。
 さっきの話だと、そんなに大量に必要な雰囲気ではなかったので数枚と言ったのだが、何故か500枚以上の在庫が見て取れる。
 頑張ってくれるのは嬉しいが、異空地の結晶草の安否が気になってしまう。
 まぁ、それは一旦置いておくとして、腰につけたポーチ…ギルドで新人応援とか何とか出貰ったものだ、それに付随するようにぶら下げていた袋から取り出す振りをして、一枚の結晶草の葉をテーブルに置いた。

「この袋、小さいですけどマジックバッグなんですよ。とは言え結晶草の葉は、そんなに持ってないんですけど」

 テント群やハレマス調屯地で拾った袋類も、しっかり活用しているのだ。
 そして腰のポーチに気付いたのか、オリアーナとヴェルザンが何ともにこやかに微笑んでいる。

 すっかり放置してしまっていたが、パトリシアの問いに答えた方が良いだろう。

「出所は……そう、セレスに貰った。うん、そうしとくわね」
「そうしとくって……」
「細かい事は気にしないの。それで、これで間違いなしかしら?」

 収納に入っていた結晶草の葉は、その枚数も然りながら、形や大きさにいくつかのパターンがあった。
 取り出して見せた物は、手の平くらいの長さで、見た感じは子供が絵に描く様な、何の変哲もない形をしていた。
 勿論、結晶草の葉なので透明なガラス…、傾ける角度によって宝石の煌めきを放って、とんでもなく美しい代物である。



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