上 下
217 / 225

217話 圧倒的力量差

しおりを挟む

本日「悪役令嬢の妹様」と題した、捻りも何もない話をかなり端折って短くして投稿しました。
もし良かったらお暇つぶしにでも呼んでやって下さったら嬉しいです!


∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽


「ッぃ……い…ったぁぁぁぁい…ですわああああぁぁぁぁぁ!!!」

 突然後頭部を襲った痛みに、思わず患部を押さえてフロルが蹲る。
 蹲ったフロルの後ろに見えたのは、目元を包帯で覆い、地味な上着のフードを目深に被った少女……エリィだった。

「不穏な波動を感じてきてみれば……セレスも、止もせず助長してたのかしら?」

 エリィの低い声が飛び火してきて、セレスは慌てて頭を振った。

「んなわけねーだろ!? つっか、俺にフロルが止められると思ってんのかよ……、こいつら心底双子なんだ…その時点で2対1なんだよ……」

 エリィががっくりと肩を落とし、首をゆるゆると振りながら大きな溜息を吐く。

「まぁ、そうね…セレスは俺様な割に意外と常識枠だものね…」

 そんな言い方…とセレスが呟くのには頓着せず、エリィは蹲るフロルの隣に屈みこんだ。

「私を心配してくれたのかしら……かなりズレた心配の仕方だとは思うけど、気持ちは嬉しいわ、ありがとう。
 だけど、流石にやりすぎね。
 これじゃ話を通す前に戦争状態になっちゃうわよ」

 フロルの横に屈んだまま、背後にいる形となったアンセを振り仰ぐ。

「ほら、アンセもよ。まずは解放して。その後どっちでも良いから回復魔法をかけてあげてね」

 そう告げれば、アンセは顔を引き攣らせながら、フロルは未だ残る痛みに涙目になりながら、渋々頷いた。

 次いで地面に転がる人間種達に、立ち上がりながら顔を向ける。
 エリィとしては、身内とも言える精霊達に声をかける方が優先なのは揺らがないが、一応、一部を除きまだ呆けた様子の人間種の方にも声をかける。

「オリアーナさんもゲナイドさんも、早々失礼しました。
 直ぐ解放させるので」

 まだ解放をしないアンセに顔を向ければ、すぐさま人間種達が解放される。地面に引き倒されたりしているので、痛む部分があるらしく、各々がそこかしこを擦ったり撫でたりし始めた。
 その様子に再びエリィが顔を精霊達に向ければ、突然小さな花弁のような光が、周囲に満ち、それぞれが押さえたり撫でたりしている痛みのある個所に、光の花弁が降り注いだ。

「……痛みが…」
「噓でしょ…」
「これは凄いね」

 人間種が口々に驚嘆と共に呟くのに、ホッと息を吐いてから、エリィは再び座り込んでいるフロルの方へ顔を向けた。

「ほら立って。ちゃんと反省するのよ。先制したいとか思ったんでしょうけど、証拠品の運搬と言う仕事をしているだけ。
 権威だ何だについても、私は別に何とも思ってないわ。
 この国で目立ってしまった方が良いと言う言葉を受けてはきたけれど、気に入らなければさっさと出て行けば良いだけの事だしね。我慢したりするつもりは欠片もないから、安心して」
「「「………」」」

 口をへの字に曲げたフロルとアンセに、セレスが眉根を下げつつ、エリィに話しかける。

「エリィ様、ごめん。その、俺は……俺らは、人間種のやり方ってのを知ってる。
 よくわかんない血筋だとかなんだとか振りかざして、すぐ相手を貶めようとしやがるんだ。
 その癖やらかしても反省とかしないしさ……精霊の住まいも何度かそんな奴らのせいで、移したりした事あんだよ。だから……」

 エリィは黙ったまま、もごもごと言葉を紡ごうとするセレスの頭をポンポンと撫でた。
 実際にはセレスの方がエリィより若干身長が高いので、少々おかしな構図にはなっているが。

 しかし、何だか訳の分からない間に丸く収まりそうな目の前の様子に、納得がいかないのは、まず騎士達だった。

「……この狼藉…許し難い…王弟殿下を地に伏させるなど、言語道断だ」

 飛ばされた剣に這い寄って拾い上げ、立ち上がって剣を構え直すと、そのままエリィ達に斬りかかった。

「覚悟しろおお!!」

 その様子によろよろと立ち上がった、斬りかかった人物以外の人間種の方が驚いた。

「ッ!」
「おい!!」
「隊長!」

 勢いよく振り下ろされる剣を、事も無げにエリィが懐から出した短剣で受け止める。
 目に見える範囲は口元だけと、その表情は酷くわかり辛いが、それでも読み取れるものがある。
 斬りかかった警護騎士団の隊長は鬼の形相だが、それに対して何の感慨もない様だ。全くの無表情なのが、反対に見る者の背筋を震え上がらせる。
 咄嗟とは言え全力の一撃を、幼いと言って過言ではない少女に、無表情で受け詰められた隊長の方こそ、その鬼の形相に、微かな怯えが混じった。
 何故なら受け止められた後も、まだ押し切ろうと力を込めているにもかかわらず、寸分も圧すことが出来ないでいるのだ。なのに目の前の少女は、顔色一つ変えるでなく平然としている。

「…ば、ばかな」

 思わず漏らした言葉をきっかけに、エリィが声をかける。

「まだ続ける?」
「貴様……当然だぁぁぁ!!」

 隊長が叫んだ声に、精霊達も構えようとするが、それをエリィは顔も向けないまま片手で制する。

「こういう人たちって、彼ら自身の土俵以外の力で圧倒しても、納得なんかしないのよ」

 その言葉が耳に届いたソアン達も息を呑む。
 エリィ達の言う権威で止めるのは簡単だが、確かにそれでは禍根が残るだろう。警備に当たってくれていた騎士達には悪いが、ここはそのまま全力でぶつかって貰った方が良いと判断し、出かかった言葉を飲み込んだ。

 周囲の様子と反応を的確に読み取ったエリィが、その口元に微かな笑みを乗せる。

「どうやらお許しが出たみたいよ。とはいえ、長々とやり合うつもりはないの、さっさと終わらせましょう?
 正直マウント取りなんて興味もないんだけど」

 呟くや否や、騎士の名に恥じない屈強な隊長がどれほど全力で押してもピクリとも動かなかった短剣をそのまま跳ね上げて隊長の体勢を崩し、間髪入れずにその場で剣を握る隊長の手を蹴り上げた。

「ック!!」

 握っていた剣が、無様に弧を描いて後方に飛ばされるのを苦渋の表情で一瞬追うが、隊長側もそれで終わりにはできないとばかりに、近くに転がっていた、恐らく部下の誰かの剣だろう、ソレに手を伸ばした。

 隊長の手から離れた剣が後方の地面にぶちあたり、ガシャンと大きな音を立てると同時に、近くの剣を取ろうと飛び掛かった所を、エリィは容赦なくその腹部を蹴り飛ばす。

「ぅ!」

 見れば隊長の纏う鎧の腹部が大きくめり込んでいる。
 とてもじゃないが少女……どちらかと言えばまだ幼女と言って差しさわりのない者の所業とは思えない。金属で作られた鎧、確かに継ぎ目など弱い部分もあるが、そんな弱い部分を狙うという定石などそっちのけな凹み具合に、精霊たちまでが目を丸くしていた。
 隊長の方は痛みが一瞬遅れて襲い掛かったのか、蹴り飛ばされてから叫び声を大きく上げた。

「……ぁ、っくあああぁあぁぁぁぁ」
「「「隊長!?」」」
「そんな!」

 慌てて痛みに悶え苦しむ隊長に、駆け寄りすがる隊の騎士達をしばらく眺めてから、平坦な声でエリィが問いかける。

「また続けます?」

 エリィの声に痛みに呻く隊長に取りすがった騎士達が、ローグバインに情けない表情を向けた。
 指示を仰ぎたいのだろう。
 この場は、ある意味隊長の怒りにソアンが許可を出したものとも言える。
 つまり結果に手出しは無用だ。それを無視してこの爆弾少女たち一団を、捕らえたり等の指示を出す事は出来ない。
 ゆるゆると頭を振ってから、ローグバインが言葉を紡いだ。

「いや……」
「そ、ご理解いただけたようで何よりだわ」

 エリィは呻き続ける隊長達騎士一団の方をちらと見てから、フロルに声をかける。

「フロル、申し訳ないんだけど再度回復をお願いしてもいい?」
「は、はい♪」

 突然振られて驚きはしたが、エリィから頼まれるのが嬉しかったのか、フロルは弾んだ声で返事をした。
 すぐに先程と同じ光る花弁が舞うと、呻く隊長の腹部に吸い込まれて行った。




 呻き声もなくなった周囲は静寂に支配された。


 ゲナイド達は実際エリィと手合わせした事があるが、自分達が怪我を負う事もなく済んだのは、実力差が半端なかったからだと分かった。
 オリアーナにしても小物魔物と戦ったのは見たが、あれは戯れでしかなかったんだと気づいた。
 エリィが戦う姿を全く知らなかった者達は、圧倒的過ぎるその力量に言葉もなかった。

 とはいえ当然と言えば当然だ。元々人外の飛びぬけたベースを持つエリィは、この世界に来てから、ずっとゲナイド達5等級パーティがやっと相手にできるような魔物相手に、単身で戦闘訓練を積んできていた。

 その差があって当然だったのだ。

 最も、エリィ当人は戦闘の度に『もう、やだ』『死ぬかと思った』等と震え思っているのだが……。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!

猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」 無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。 色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。 注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします! 2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。 2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました! ☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。 ☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!) ☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。 ★小説家になろう様でも公開しています。

異世界転生したのだけれど。〜チート隠して、目指せ! のんびり冒険者 (仮)

ひなた
ファンタジー
…どうやら私、神様のミスで死んだようです。 流行りの異世界転生?と内心(神様にモロバレしてたけど)わくわくしてたら案の定! 剣と魔法のファンタジー世界に転生することに。 せっかくだからと魔力多めにもらったら、多すぎた!? オマケに最後の最後にまたもや神様がミス! 世界で自分しかいない特殊個体の猫獣人に なっちゃって!? 規格外すぎて親に捨てられ早2年経ちました。 ……路上生活、そろそろやめたいと思います。 異世界転生わくわくしてたけど ちょっとだけ神様恨みそう。 脱路上生活!がしたかっただけなのに なんで無双してるんだ私???

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

処理中です...