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209話 鑑定持ち

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 結局誰が出迎えに行くのか、決着がつかないままヴェルザンの言に従い、その日は待機になったのだが…。

「それでエリィへ連絡入れたのか?」

 エリィに渡されている連絡手段が受信専用なので、あちらの様子を知るのが難しい。

「先刻の言いました通り、エリィ様には暫く連絡は入れておりません」
「……今どの辺りなんだろうな…エリィも見た目は幼女だから心配だ」
「従魔もいますし、エリィ様ご自身もちゃんと身を守れると思いますよ? 何がそんなに心配なのか……」

 困惑気味のヴェルザンに、本人とオリアーナ以外が苦笑交じりにお手上げポーズを決めた。

「いや、その、なんというか……単にここから離れたいってだけだな」

 仕方ないとばかりにゲナイドが話しかける。
 ヴェルザン自身も元は高位貴族なせいか、暫く首を捻っていたが、少しして腑に落ちたのか、あぁと頷いた。

「なるほど」
「だろ? 最初に不敬は問わないって言葉も貰ってるし、気にしなくて良いと頭ではわかってるんだがな…」
「待てって…。そう言われたからと言って従ったら、後ろに控えてる従僕さんかな? 彼がどうでるかわからない」
「ソレよね! 何なのアイツ……もう目が合うと不審者見るみたいな目つきしちゃってさぁ、感じ悪いったらないワ!」

 ヴェルザンの周囲に集まっていた大地の剣面々が口々に溢す。ラドグースだけは平常運転で、いつものようにマトゥーレの袋をどこからか取り出し、せっせと頬張っていた。
 従僕と言われたヒースに一度視線を向けてから、ヴェルザンも苦笑を乗せる。
 現在トタイス、ホスグエナの長男、ドマナンの3名は、それぞれ割り振られた部屋でローグバインと、テレッサから預けられたマローネが事情聴取他にあたっていた。

 エリィ側の現在位置も様子も分からないからと、ヴェルザンに出迎えは止められたが、集った邸内は地味に居心地の悪い空気が流れている。
 その原因たる王弟閣下自身はどこ吹く風で、飄々としたものだ。

「なんだろうねぇ、この微妙な空気は」
「………」
「ヒース、お前くらい相手をしてくれないか?」
「………」
「はぁ、ログは仕事中だし、ヒースは構ってくれないし……彼らと話をしたくても、こうビシビシと拒絶感を向けられては……ねぇ?」

 無言で後ろに控えるヒースに、めげることなく話しかけるソアンは、こちらの平常運転でお茶を楽しんでいた。
 すいっと視線を長し、ヴェルザンと大地の剣組の方にいる元貴族令嬢オリアーナ・ティゼルトを、ソアンはそっと観察する。
 彼女が爵位を返上してから随分と時間が経っており、印象も少し変わったように思うが、それでも面影は残っている。

「閣下、戻りました」

 そんな風に意識を別に向けていると、ローグバインとマローネが聴取を終えたのか戻ってきた。

「あぁ、どうだった?」
「聞いた話の限りでは、概ね被害者と言って良いかと思います。殺害の監視人に禁制薬物を作成使用したことについては、不問にしても問題はないでしょう。まぁ状況次第で全くの無罪にするのは難しくなるかもしれませんが」
「ふむ、まぁ、蓋を開けて見なければ……と言うやつだね?」
「はい。ただ死亡届の出されたホスグエナ伯爵嫡男に関しては、しらを切られるとこちらが不利かもしれません」
「まぁそうだろうね。ただでさえあまり表に出される事のなかった子供だ。あちらの使用人らが口裏を合わせれば、それを覆すのは難しい。
 とはいえ、鑑定ができれば……あぁ、嫡男は魔力ナシだったな…ふむ、魔力以外で鑑定できる者に心当たりのある者は?」

 現在、血筋の鑑定は多くの場合魔力で行われる。
 そんな鑑定が必要になるのはほぼ貴族に絞られるのだが、理由は明白だ。托卵回避は貴族家にとって重要な事なのだ。まぁ貴族は魔力がある者が多い為通じる方法なのだが、昨今の魔素減少はそこにも打撃を与えている。
 『鑑定魔法』を行使できる者がほぼ壊滅し、今は『鑑定スキル』で視るものばかりになったせいだ。
 エリィが練度上げと称して頑張っている事からわかる様に、スキルは基本的に練度…習熟度がモノをいう。
 勿論そういう努力を一切受け付けないスキルも多くあるが、『鑑定スキル』に関しては、しっかり練度が重要なスキルだ。

「「………」」

 ソアンからの問いかけに、ローグバインもマローネも黙り込む。
 一瞬視線を泳がせたヒースが、躊躇いの後重く口を開いた。

「あまり推奨はできませんが……エルフの鑑定スキル持ちなら…」
「ほう?」
「同じ人間種ではありますが、エルフ族は人族と違い固有の魔法を持ちます」
「あぁ、あれか……確か神樹に問うとかいう」
「はい」
「しかしあれは占いとか、そういう類のものだと聞いた覚えがあるが?」
「表向きは…」

 何とも歯切れの悪いヒースに、ソアンが微かに眉根を寄せた。

「ふむ……だが、推奨しないとは?」
「…はい、まず私も話を聞いただけで知己ではありません。そしてその話は随分と過去の話で、現在でも通用するのかわかりません。
 そして情報主からは他言無用と言われております
「あまり公言できない、してはならない事なのだね?」
「……はい。恐らくですが裏絡みかと」

 同じ血筋のマローネも聞いた事がなかった話なのか、一瞬目を丸くしている。

「わかった。この一件の後、その話は忘れる事にしよう。それで、伝手はあるのか?」
「………私自身には残念ながら…。我が筋の先々代にはあったようなのですが」
「ヒースの祖父か……既に鬼籍の方だな」
「はい」
「まぁ他に方法もない。爆弾少女が合流するまでの間、少し探してみるとしよう。あぁ、彼女と共に来るであろう『精霊』とか称している存在ならどうなのだろうね」

 ソアンの呟きに、軽く頭を垂れた姿勢を保っていたヒース、ローグバイン、マローネの3人が、思わずと言った風情で顔を上げ困惑の表情を浮かべるが、ふと目が合ったローグバインが代表するように渋々返事をした。

「閣下、精霊なんて御伽噺の中にしか存在しておりませんでした。そんな存在の情報など、今知る限りの知識はあてにならぬかと思われます」
「ふむ。まぁそれも合流さえ果たせば自ずと知れよう」

 話はここまでと立ち上がったソアンが、何かを思い出したようにくるりと振り返る。

「あぁ、そうだ。言い忘れていたが、夕食は我々は部屋で取るとしよう。彼らを畏縮させるのは本意ではないからね」
「御意」
「私から厨房の方へ伝えておきます」

 返事をするヒースの言葉の後を引き取って、マローネが恭しく深礼を取ってからその場を離れて行った。
 それを無言で見送る男性陣だったが、ソアンがポツリと呟いた。

「全く、テレッサには何か良い土産でも見繕ってやらねばならないか」
「そうですね。何分女性使用人で『そういう意味』で使える者が、離宮にはおりませんから」
「ホスグエナの嫡男の話は彼女が担ってくれたのだろう?」

 ローグバインがはっきりと頷く。

「私も怯えられました」
「まぁ救世主であるトタイス殿とあの薬師は兎も角、特に男性に怯えているようだったからね」
「はい、理由まではわかりませんが」
「まぁ彼女が最低限話を聞きだしてくれたから、問題はないよ」

 そう言いつつソアンは再び視線を動かす。

「それより……」

 その場に残ったヒースとローグバインも、ソアンの視線の先を見る。

「ログ、オリアーナ嬢が夕食をどうするのかはわからないが、先んじて面会の手はずは整えたほうが良い」
「!!………ぃあ、それは…」
「先触れは、そうだな。ヒース、マローネに頼んでおいてやってくれるか?」
「承知」

 ソアンの様子に感化されたのか、ヒースまでニヤリと黒い笑みを浮かべた。



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