上 下
190 / 225

190話 王都へ出発

しおりを挟む

 ヴェルザンの急な襲撃はあったが、一夜明ければ予定通りエリィ達はトクス村を後にする。
 宿を出るとき支払いがどうなっているの確認した。色々と番狂わせの事態で後回しになっていたからなのだが、問題ないと言われた。聞けばオリアーナも先払いをしてくれていたようだし、色々あった期間についてはギルドが支払ってくれたとの事で、すんなりと宿を出ることが出来た。

 朝市で人通りが多くなっている通りを避け、早々に裏道に入り門番にギルド証を見せる。
 入る時と違ってセラ達は異空地に入って貰っているので、今エリィの傍らには何の変哲もない猫姿のアレクしかいない。その為ギルド門等に回る必要もなく、普通に通りの端にある門から出ることが出来た。

 途中鶏だの牛だの、発見できれば捕獲に動く予定なので、転移はせずにのんびり街道を進むことにする。

「何だか新鮮ね」
「ほえ? 何や急に」
「こうしてアレクと二人旅と言うのが、何だか久しぶりな気がして」
「あ、そういう事。ほんまやな、なんやかんやで同行人は増える一方やったし。せやけど、今かて別に2人っちゅう訳やあらへんやん」

 アレクの言葉にエリィが微かに上空を見上げる。

「……まぁ、そうね」

 エリィの言葉が聞こえたわけではないだろうが、見上げた上空から緑色の光が舞い降りて来る。
 慌てて周囲を見回すが、街道には何の気配もなくふぅと息を吐いた。

 降りて来た緑の光が見てる間に人型を取る。

「もういいのか!? いいんだよな!?」

 異空地に入る許可を出していないセレスだ。
 頭から足元までじぃっと見遣ってから、がくりと肩を落とすエリィとアレク。

「な、なんだよ……」
「まぁ良いけど、何かの気配がしたら直ぐ隠れてよ?」

 念を押すのには訳がある。
 セレスの緑髪も目立つが、それは譲っても良い。カーシュやケネスなんてパステルオレンジ色の髪だったから。
 多分前世の感覚に引きずられてエリィが違和感を感じるだけで、唯一無二の色合いと言う訳ではないのだろう。
 服装もアンセやフロル同様、古代ギリシャや古代ローマと言う感じの意匠だが、必要に応じてマントを羽織らせるなり何なりすれば誤魔化せる。
 これまでエリィは見た事がないけれど、翅もあると言う話だが、普段はあまり出す事はないらしいので、こちらについても特に問題はない。

 問題なのは、セレスは薄っすら発光しているという事実だ。
 セレスが意識を失くしていた間は発光する事もなく、エリィ達が気づく事はなかったのだが、意識を取り戻してから後はセレスの身体全体から淡い光が放たれていた。
 もっともセレスが起きた瞬間は彼の我儘炸裂で、発光に気付く余裕はなく、それに気づいたのはヴェルザンが去って落ち着いてからの事であった。
 話を聞けば、どうやら6属性の大精霊は皆発光しているらしい。ただ、その発光はコントロールできるものではなく、自身ではどうしようもないとの事だ。

 自分でどうにもできないなら仕方ないが、それならそれで大人しく上空を飛んでてくれれば良いものを、暇なのか何なのかいそいそと地上に降りて来てしまった。

「わかってるってば! えっと、このまま歩いて行くんだろ? 町とか村に寄ったりするのか?」
「ぁ~、その辺話してなかったかしら? 探し物があるし、金策の為にも魔物なんかは狩りたいから徒歩。だけど極力村や町には立ち寄らないつもりよ。それがどうかした?」
「そっか、ううん。寄らないなら別に良いんだ」
「何よ、気になるわね」

 落とした視線をちらりと向けて来るセレスに、エリィ達は首を傾げる。

「ほんまやで、何や言いたいことあんねやったら、言うたらええやん」
「ぅぅ……えっとさ、怒らねぇ?」
「……ほほう、私が怒るような事を言うつもりなのね」
「ち、違うって! そんなつもりないってば! たださ、上手く言える気がしねぇけど……俺が、俺の力の及ぶ範囲に居る奴らがどんな暮らしをしてるのか、見た事なくってさ」

 歩く速度を緩める事のなかったエリィが足を止める。

「見た事がないって、つまり森から出た事がないって事?」
「うん。ずぅっと昔はそうじゃなかった時もあったけどさ、今じゃ俺ら見つかったら酷い目に遭うんだろ? フィルが言ってた。
 だから住処から出る事なく、お役目をこなしてたんだけどさ」

 『本当に?』と言いたげな空気を醸せば、セレスが目に見えて慌てる。

「い、ぃや、フィルに怒られながらだけど、ちゃんとやってたってば!」
「ふぅん、その役目って言うのは本能的なものなの?」
「本能って言うか、双神様の命っていうか……」
「ソウシンサマ?」

 そう言えばこの世界の宗教については何も知らないなと、エリィは独り言ちた。
 女神がどうのとかは聞いた気がしなくもないが、前世の知識とごっちゃになっているかもしれない。

「そのソウシンサマっていうのが、この世界の主神なの?」
「え? ぁ、いや、そうじゃねぇけど……この世界は創造神に造られた後、何人かの神々によって管理されてたんだ。
 その頃は穏やかで良かったんだけどさ……」

 言い淀むセレスにエリィはそれ以上突っ込んで聞くのをやめた。
 人であれ神であれ、医師や感情を持つ者が複数集まれば、争いに発展するのは世の常だ。
 この世界の宗教はいずれ何処かで触れる機会があるだろうが、神々の覇権争いや力関係等々…知った所でどうにもできない。
 ならばその話題はスルーして良いだろう。

「なるほど。じゃあセレスは役目を貰ったから頑張ってたって訳ね」
「役目、かな……あ~、お願いだったかも、だけどそれが俺、嬉しくてさ! 人間種も悪い奴ばっかじゃねぇって思ってるしさ! エリィ様に「あ、エリィ、あそこに見た事あらへん花咲いてんで」……」

 セレスの言葉を遮るように、アレクが言葉を被せてきた。
 狼狽えるセレスを後目に、エリィはアレクの言葉に振り返ると、教えられた花の方へと駆け寄る。

「お~、これは確かに……って、これ薔薇の一種じゃない? 凄い! お手柄だわアレク! いい香り!」

 セレスが瘴気から解放され、季節が進んだ影響がそこかしこに散見できる。
 甘く、だけどくどい訳ではない、程良い芳香を放つ薔薇に似たソレも、白い蕾が綻んでいる。しっかり根に傷をつけないように気をつけながら収納へと放り込み、再び歩き出す。
 この分なら早春に咲く花々は、それほど苦労せずに集められそうだ。

「そうそう、王都までの間にどのくらいの村や町があるのかわからなけど、最初の予定通りでも見る機会くらいはあると思うわよ。
 トクス……出てきた村…町? まぁどっちでもいいわ。あそこほどがっつり宿を取ってとかはしないかもしれないけど。手に入れた素材を売ったり、消耗品を補充したりくらいはするから、それでいい?」
「うん!」

 セレスが嬉しそうに頷くのを見て、エリィも頷いた。
 とは言えナゴッツ、コダルサは避けて通ろうとエリィは考えていた。オリアーナは兎も角、本気で子供は苦手だし、それだけでなく貴族の子供なんて面倒の塊でしかない。
 関わらないに越した事はないと、そっと街道から逸れる方向へ足を向けたエリィだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

宝くじ当選を願って氏神様にお百度参りしていたら、異世界に行き来できるようになったので、交易してみた。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」と「カクヨム」にも投稿しています。 2020年11月15日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング91位 2020年11月20日「カクヨム」日間異世界ファンタジーランキング84位

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...