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190話 王都へ出発

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 ヴェルザンの急な襲撃はあったが、一夜明ければ予定通りエリィ達はトクス村を後にする。
 宿を出るとき支払いがどうなっているの確認した。色々と番狂わせの事態で後回しになっていたからなのだが、問題ないと言われた。聞けばオリアーナも先払いをしてくれていたようだし、色々あった期間についてはギルドが支払ってくれたとの事で、すんなりと宿を出ることが出来た。

 朝市で人通りが多くなっている通りを避け、早々に裏道に入り門番にギルド証を見せる。
 入る時と違ってセラ達は異空地に入って貰っているので、今エリィの傍らには何の変哲もない猫姿のアレクしかいない。その為ギルド門等に回る必要もなく、普通に通りの端にある門から出ることが出来た。

 途中鶏だの牛だの、発見できれば捕獲に動く予定なので、転移はせずにのんびり街道を進むことにする。

「何だか新鮮ね」
「ほえ? 何や急に」
「こうしてアレクと二人旅と言うのが、何だか久しぶりな気がして」
「あ、そういう事。ほんまやな、なんやかんやで同行人は増える一方やったし。せやけど、今かて別に2人っちゅう訳やあらへんやん」

 アレクの言葉にエリィが微かに上空を見上げる。

「……まぁ、そうね」

 エリィの言葉が聞こえたわけではないだろうが、見上げた上空から緑色の光が舞い降りて来る。
 慌てて周囲を見回すが、街道には何の気配もなくふぅと息を吐いた。

 降りて来た緑の光が見てる間に人型を取る。

「もういいのか!? いいんだよな!?」

 異空地に入る許可を出していないセレスだ。
 頭から足元までじぃっと見遣ってから、がくりと肩を落とすエリィとアレク。

「な、なんだよ……」
「まぁ良いけど、何かの気配がしたら直ぐ隠れてよ?」

 念を押すのには訳がある。
 セレスの緑髪も目立つが、それは譲っても良い。カーシュやケネスなんてパステルオレンジ色の髪だったから。
 多分前世の感覚に引きずられてエリィが違和感を感じるだけで、唯一無二の色合いと言う訳ではないのだろう。
 服装もアンセやフロル同様、古代ギリシャや古代ローマと言う感じの意匠だが、必要に応じてマントを羽織らせるなり何なりすれば誤魔化せる。
 これまでエリィは見た事がないけれど、翅もあると言う話だが、普段はあまり出す事はないらしいので、こちらについても特に問題はない。

 問題なのは、セレスは薄っすら発光しているという事実だ。
 セレスが意識を失くしていた間は発光する事もなく、エリィ達が気づく事はなかったのだが、意識を取り戻してから後はセレスの身体全体から淡い光が放たれていた。
 もっともセレスが起きた瞬間は彼の我儘炸裂で、発光に気付く余裕はなく、それに気づいたのはヴェルザンが去って落ち着いてからの事であった。
 話を聞けば、どうやら6属性の大精霊は皆発光しているらしい。ただ、その発光はコントロールできるものではなく、自身ではどうしようもないとの事だ。

 自分でどうにもできないなら仕方ないが、それならそれで大人しく上空を飛んでてくれれば良いものを、暇なのか何なのかいそいそと地上に降りて来てしまった。

「わかってるってば! えっと、このまま歩いて行くんだろ? 町とか村に寄ったりするのか?」
「ぁ~、その辺話してなかったかしら? 探し物があるし、金策の為にも魔物なんかは狩りたいから徒歩。だけど極力村や町には立ち寄らないつもりよ。それがどうかした?」
「そっか、ううん。寄らないなら別に良いんだ」
「何よ、気になるわね」

 落とした視線をちらりと向けて来るセレスに、エリィ達は首を傾げる。

「ほんまやで、何や言いたいことあんねやったら、言うたらええやん」
「ぅぅ……えっとさ、怒らねぇ?」
「……ほほう、私が怒るような事を言うつもりなのね」
「ち、違うって! そんなつもりないってば! たださ、上手く言える気がしねぇけど……俺が、俺の力の及ぶ範囲に居る奴らがどんな暮らしをしてるのか、見た事なくってさ」

 歩く速度を緩める事のなかったエリィが足を止める。

「見た事がないって、つまり森から出た事がないって事?」
「うん。ずぅっと昔はそうじゃなかった時もあったけどさ、今じゃ俺ら見つかったら酷い目に遭うんだろ? フィルが言ってた。
 だから住処から出る事なく、お役目をこなしてたんだけどさ」

 『本当に?』と言いたげな空気を醸せば、セレスが目に見えて慌てる。

「い、ぃや、フィルに怒られながらだけど、ちゃんとやってたってば!」
「ふぅん、その役目って言うのは本能的なものなの?」
「本能って言うか、双神様の命っていうか……」
「ソウシンサマ?」

 そう言えばこの世界の宗教については何も知らないなと、エリィは独り言ちた。
 女神がどうのとかは聞いた気がしなくもないが、前世の知識とごっちゃになっているかもしれない。

「そのソウシンサマっていうのが、この世界の主神なの?」
「え? ぁ、いや、そうじゃねぇけど……この世界は創造神に造られた後、何人かの神々によって管理されてたんだ。
 その頃は穏やかで良かったんだけどさ……」

 言い淀むセレスにエリィはそれ以上突っ込んで聞くのをやめた。
 人であれ神であれ、医師や感情を持つ者が複数集まれば、争いに発展するのは世の常だ。
 この世界の宗教はいずれ何処かで触れる機会があるだろうが、神々の覇権争いや力関係等々…知った所でどうにもできない。
 ならばその話題はスルーして良いだろう。

「なるほど。じゃあセレスは役目を貰ったから頑張ってたって訳ね」
「役目、かな……あ~、お願いだったかも、だけどそれが俺、嬉しくてさ! 人間種も悪い奴ばっかじゃねぇって思ってるしさ! エリィ様に「あ、エリィ、あそこに見た事あらへん花咲いてんで」……」

 セレスの言葉を遮るように、アレクが言葉を被せてきた。
 狼狽えるセレスを後目に、エリィはアレクの言葉に振り返ると、教えられた花の方へと駆け寄る。

「お~、これは確かに……って、これ薔薇の一種じゃない? 凄い! お手柄だわアレク! いい香り!」

 セレスが瘴気から解放され、季節が進んだ影響がそこかしこに散見できる。
 甘く、だけどくどい訳ではない、程良い芳香を放つ薔薇に似たソレも、白い蕾が綻んでいる。しっかり根に傷をつけないように気をつけながら収納へと放り込み、再び歩き出す。
 この分なら早春に咲く花々は、それほど苦労せずに集められそうだ。

「そうそう、王都までの間にどのくらいの村や町があるのかわからなけど、最初の予定通りでも見る機会くらいはあると思うわよ。
 トクス……出てきた村…町? まぁどっちでもいいわ。あそこほどがっつり宿を取ってとかはしないかもしれないけど。手に入れた素材を売ったり、消耗品を補充したりくらいはするから、それでいい?」
「うん!」

 セレスが嬉しそうに頷くのを見て、エリィも頷いた。
 とは言えナゴッツ、コダルサは避けて通ろうとエリィは考えていた。オリアーナは兎も角、本気で子供は苦手だし、それだけでなく貴族の子供なんて面倒の塊でしかない。
 関わらないに越した事はないと、そっと街道から逸れる方向へ足を向けたエリィだった。



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