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175話 互いの情報を交換

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 黄昏ていても何も進展しない。
 こういう時カムラン、ナイハルトはそっと顔を背け、ラドグースは自分のポーチからおやつを取り出しもぐもぐするのが変わらぬ光景だ。
 目の前の村サブを楽しませるのも業腹ではあるが、自分達が負けた新人の事、従魔が少し珍しい事、それによってパウルに目とつけられた事、そこから今に至るまでの事諸々を、地面に座り込んでざっくりと話した。

「そんな事が……」

 あまりの目まぐるしさに、マツトーもそんな呟きを漏らすしかない。

「てな訳で、俺達は村サブの回収後、コッタム子爵の保護に向かわないといけないんですよ」
「ふむ……それじゃ俺が砦経由で連絡を取ったのはまずかったのか…」

 少ししょげ返るマツトーに、顔を背け話に加わっていなかったナイハルトが声をかけた。

「それはしょうがないわよ。どっちにしろ連絡して貰わないと迎えにもこれなかったんだもの」
「そう言ってくれると助かる」
「だけど村マスはどこなの? マツトーさんは村マスを追って来たんでしょう? もしかして見つけられなかったの?」

 そこまで聞いて、マツトーが怪訝な表情を浮かべた事に気づいたゲナイドが補足を入れる。

「元々コッタム子爵の保護に向かってた途中だったって話はしたじゃないですか、あの通り騎獣まで借りての急襲予定だったんですよ」

 そう言いながら、もぐもぐするラドグースの傍で、同じように草をもぐもぐしているあまり大きくない魔物に目を向けた。
 人数分居るので4頭貸し出されたのだが、全てが小型二足歩行のでポワソ・トゥリアンと呼ばれている竜種だ。
 小さな翼を1対持っているが飛ぶ事はできない。ただしそれを補って余りある脚力とスタミナを持つ。悪路であっても問題なく進むため、急ぎの時には重宝される。
 気性は大人しく、食事も雑食で特に専用の物を必要としない事からも、広く重用されているのがわかる。
 最も今いるような森の中だと体高がそれほどない犬型の方が適してはいるのだが、ポワソ・トゥリアンでも問題はない。乗り心地と言う面で悪路だと少々堪えると言う程度だ。
 ちなみに名前はポワソ2からポワソ5で、やはり命名した者のセンスは壊滅しているらしい。

「だから村サブについての情報は、理由と位置くらいしか貰えなかったんです」
「なるほどな」

 ゲナイドからの説明で納得したものの、今度は何処から話せば良いかとマツトーの方が困ってしまった。
 とはいえ順を追って話していくしかないだろう。
 西の森がどうにもおかしいと飛び出したバラガスの捜索に赴いた事、やっと見つけたバラガスが子供を抱えて戦闘していたが負傷した事、他にも子供がいたが自分一人では連れ帰れなかった事まで話したところで、ナイハルトが目を丸くして呟いた。

「は? ここより更に奥に子供ですって? 待って待って、しかも置いてきたって言うの!?」

 唐突なナイハルトの剣幕に、マツトーの方がたじろぐ。

「いや、それはだな…さっきも言った通り子供らへ魔物が目を向ける事も近づく事もなかったんだ」
「だからって奥に残してくる!? ありえないわ」
「落ち着けナイハルト」
「だって!」

 マツトーに食って掛かるナイハルトをカムランが抑えた。

「見た目が子供だからと言って、本当に子供かどうかはわからないだろう? しかもこんな瘴気の濃い場所に、普通の子供が紛れ込めるわけもない」

 ナイハルトの腕を取って押さえながらカムランが顔をマツトーへ向ける。

「そうですよね?」
「ぁ、あぁ、子供らは自分の事を精霊だと言っていた。正直その子供らの近くが一番安全だと思えたんだ」
「精霊ねぇ、なんかに化かされたとかじゃねーのかよ」

 もぐもぐしていたはずのラドグースだが、いつの間にか食べ終えていたらしい。

「慌てて追ったとは言え、森に入る事前準備は最低限している。幻覚対策も当然しているさ」
「そりゃそうか、んじゃ本当に精霊なのか。ちょいワクワクしてきちまったぜ」
「アンタねぇ」

 呆れた声をラドグースへ向けたナイハルトだったが、ふと真顔になって下唇に指を軽く添えた。

「マツトーさんがどのくらい歩いてきたかにもよるけど、先にそっちの確保に向かった方が良いんじゃない?」
「そうだな……だがコッタム子爵の保護はどうする? ギルドの目標が自身だと気付いていないと思いたいが、こっちの動きが慌ただしくなれば警戒させてしまわないか?」

 そう恐れるのはその可能性だった。
 ギルド、延いては王都の思惑としては保護なのだが、トタイスはそんなこと知る由もなく、警戒した上で姿を晦まされては元も子もない。
 ホスグエナに繋がる決定的な証人を逃すわけにはいかないのだ。

「二手に分かれるのが一番か……」

 何やら進んでいく話に、マツトーが慌てて言葉を挟む。

「ちょっと待ってくれ。バラガスの方には既に依頼を出した」

 その場に居る全員の視線がマツトーに突き刺さり、場の空気が一瞬固まった。

「依頼…ですか? いや、こっちへ向かうよう指示が出されたのは俺らだけだと思うんですが」

 ゲナイドが絞り出した言葉に他3名も頷いている。

「救援要請の為にバラガス達から離れたが、その途中で新人クンに会ったんだ」

 何故かにこやかになるマツトーに、驚愕の視線が集まる。

「新人って…」
「いや、まさか。だってつい先日まで軟禁状態だったはず」
「他の新人かもしれない」
「そんな都合のいい偶然がありえるか?」
「だが、そう考える方がよほど現実的じゃ」
「落ち着け。この森に新人と言う時点で現実的じゃない」

 ポカンとするマツトーを置き去りに、大地の剣面々が口々に意見を交わし合う。

「だけどあの子なら……」
「そうだな。彼女なら」

 実際に剣を交えた事のあるゲナイドとカムランは、眉根を寄せながらも肯定を口にする。

「なんで納得しちゃってるわけ? 私らは騎獣のおかげでここまで来れたけど、あの子にはそんな足ないで……」

 ナイハルトも言いながら自分で気づいたのか、言葉が徐々に空気に溶け消えた。

「あ~……あったわね、足」
「あぁ、アレなら簡単に来れる」
「俺見た事ないんだけど、そんなにスゲーのか?」
「あぁ、ゲナイドが簡単にあしらわれたくらいだからな」

 話についていけないのはマツトーの方だった。
 確かに凄い従魔がいると言うのは連絡文にあったが、直接見る事は叶わなかったのでピンと来ないのだ。
 そんなマツトーにセラの話をしたい所ではあるが、魔法契約で口外を禁じられている事もあり、もごもごと言葉をくぐもらせるしかなかった。

「なんにせよ、君らの想像する新人クンと私の言う新人クンは同一人物であると思う。
 そして彼女の従魔は凄くて、この辺りに突然いても不思議はないという事なんだな。まぁそのおかげで助かったわけだが」

 諸々の騒ぎの発端となった従魔について、早々に情報規制をかけるのはヴェルザンらしいと、よくわからないなりにマツトーは理解した。

「じゃあもう少し待てばエリィちゃん達と合流できるかもしれないのね?」
「待ってるだけで合流できるかは怪しいだろ? 迂回してるかもしれないし」
「そんなぁ…さっき二手に分かれるって話してたわよね? 私はエリィちゃん達と合流班に立候補するわ」

 ブンと勢いよく手を上げて主張するナイハルトに、ゲナイド達はやれやれと顔を見合わせる。

「あの子らなら大丈夫だろう。合流できたとして、こっちが反対にお荷物になりかねないぞ?」

 脳裏に過日の確認戦闘の事を思い浮かべていたカムランが口を挟むと、ゲナイドまで頷いた。

「あぁ、こっちは速やかに本来の任務を済ませたほうが良い」

 むぅと唇を突き出してむくれるナイハルトに、カムランが諦めろとばかりに手をひらつかせて見せた。

「まぁさらに詳しい話はトクスに着いてからにしてもらって、ナイハルトとラドグースは村サブを連れて戻ってくれるか?」
「仕方ないわねぇ」

 溜息交じりに立ち上がり、ナイハルトは騎獣たちの方へ近づいて声をかけた。

「4号、5号はごめんねぇ、交代で2人乗せになっちゃうけど、ゆっくり進行で構わないからお願いできる?」

 その言葉を理解できているのか、首を擡げたポワソ・トゥリアン達は大きく首を縦に振っている。

「よし、じゃあさっさと行くか」

 話が纏まり、それぞれが地面から立ち上がった所で、微かな人の声が風に乗って運ばれてきた。



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