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67話 魔石もお買い上げ
しおりを挟む「もしかしてエリィは魔石獣…瘴気獣と呼ぶ者もいるが、知らないか?」
ケイティの呟きにフリーズしたエリィに、オリアーナが問いかける。
「……はい」
「そうか、まぁ見た目だけじゃ魔物も魔石獣も区別はつかないし、対応するだけで精一杯で研究なんてしてる余裕が何処もないから、わかっている事は本当に少ないんだが、瘴気から生まれたと言われる魔物を魔石獣と呼ぶことがある。
大抵は区別せずに魔石獣も魔物って呼ぶ、生きて動いてる間はさっきも言ったように区別がつかないんだ。
こう魔物を倒すとそのまま死体が残るだろう? 私達はその死体を解体して素材に利用しているが、瘴気から生まれた魔石獣が残すのは殆ど魔石のみで、魔石以外が残るのは本当に稀な事なんだ。それに残ったとしても一部分だけだしな。
それだけでも魔物とは違うとわかるが、残った魔核、つまり魔石はもっとはっきりと違いがでるんだ。
魔物の魔石はほぼ真円。魔石獣の魔石は角柱…四角柱とか5角柱等と、形が違うんだよ。あぁ、形は違っても魔石としての性能なんかは、一部を除いて変わらないから安心してくれ。あ、価値は変わるかもしれん、やはり形や色が珍しい物は高い値が付くんだ。宝石と言っても差し支えない物なんかもあるからな。
で、その魔石獣の方が遭遇確率が高いんだ…瘴気があれば発生するからな。
ここへ来る途中に狩った緑ネズミも魔石獣なこともあるぞ。まぁ緑ネズミは魔石獣であっても、落とす可能性のある素材に肉はあるから、何の問題もないんだがな。
まぁ何にしたって全てが『言われている』に過ぎない。もしかすると魔物と魔石獣は同じもので、たまたまそうした違いがあっただけかもしれないし」
―――ちょっと待て……
確か瘴気は消費された魔素。
消費の多い所は瘴気も多い……つまり人里近くは魔石獣が発生しやすいと言う事になるのでは…。
万が一瘴気の澱みなんか出来てしまったら、それはもうお察しの通りだろう。
それはとても良くない事なのではなかろうか?
とは言え、魔物と魔石獣、瘴気の因果関係は、研究が進んでいないようだし、言われている以上の事はわかりようもない。
ただエリィは切に祈った…出来れば今後も遭遇するのは魔物の方が良いと。
肉不足になってしまってはまずいからだ。
魔物と魔石獣の話等、ケイティにとっては既知の事柄なのだろうが、オリアーナの説明が終わるまで待っていてくれたようだ。
書類を抱えて椅子からすくっと立ち上がり、オリアーナにキラキラした笑顔で一礼した。
「ありがとうございました! それじゃ相談してきますね」
部屋から出ていくケイティを見送ると、少々眠気に欠伸が洩れた。
「エリィ、大丈夫か? まぁ疲れて当然だろうが、もう少しだけ頑張れ」
「……はい、大丈夫。ちょっと眠気がきただけです」
「ここのギルドにも宿泊所はあるんだが、従魔達には狭かろうと思って、ここから少し離れた場所の宿にしたんだが」
素直にセラたちの事を考えてくれた選択は嬉しい。
「いえ、ありがとうございます」
欠伸をかみ殺しながらも、深々と頭を下げていると、ノックの音の後ケイティが戻ってきた。
「おまたせ…」
革袋の乗ったトレーを、魔石が置かれたままの机に置いたケイティの表情が少々暗い。
「えっとね、魔石なんだけど、トクスじゃ持て余しちゃうらしくて…王都かどこかで売ったほうが高値がつくみたい」
「あぁ、そうかもしれない…稀少性も高いし、大きさや形も良い。ここじゃ実用魔石の方が求められているだろうからな」
オリアーナも頷ける事態のようだ。
だが、エリィとしては実のところ問題はなかった。
様子見という事で、素材も魔石も、大した量は出していない。道中で減るのは肉で、それ以外は増える一方なのだから、収納内は推して知るべしだ。そんな訳だから、少々買取価格を下げられても問題はない。もちろん下げられすぎては困るが、今必要なのはお金であって素材ではない。
という事で、まずは買取り希望価格を聞いてみよう。
「あの、どのくらいの価格を付けて頂けたんでしょうか?」
「えっとね、黒ネズミの魔石が全部で100万エク、爪ウサギの魔石が27万…ごめんね、粘ったんだけど」
未だこの世界での物価がわからないエリィにしてみれば、100万は前世の感覚で大金だと思えてしまうのだが、間違った感覚なのだろうか?。
確かにパネルの平均評価価格よりは低いが、問題ない範囲と言える。需要と供給次第なのだから、仕方ない事なのだ。
それにしても、いったいどのくらいのお金があれば、この世界では最低限の生活ができるのだろう…。
思考を飛ばしそうになったが、それを押しとどめて、表情の冴えないケイティに向き直る。
「それで構わないので、魔石も買っていただけますか?」
「! ぃ、いいの!?」
「急いで売らずとも良いんじゃないか? まだ旅は続けるんだろう?」
「まぁその予定ですけど、今自分に必要なのはお金の方で、素材じゃありませんし、狩ればまた在庫は増えますから」
「そうかもしれないが…欲のない奴だな、エリィは」
「え? それは聞き捨てなりませんね。私のどこに欲がないと? こんなにわかりやすく欲張りですのに」
隣のオリアーナを座ったまま見上げ、エリィは心外だと言いたげに腕組みをする。
ははっと声をあげて笑うオリアーナに釣られ、室内の空気が柔らかくなったところで、ケイティが魔石を回収してからトレーを差し出してきた。
「それじゃ、合計で238万エク。袋の中に金平貨2枚と銀板貨3枚、銀平貨8枚が入ってるから確認してくれる?」
「はい」
革袋を手に取り、紐を緩めて中の物を机の上にだす。
ケイティが説明したとおりの金額が入っていた。キラキラとした金貨銀貨など、前世でも手に取ったことがなかったせいか、妙にワクワクしてしまう。
緩みそうになる顔を引き締めながら、硬貨を袋に詰め直していると、ケイティが話しかけてきた。
「色々と売ってくれてありがとうね。で、ちょっと低価格になっちゃったものもあったけど、それなりに大金なのよね、それ。平民が金色の硬貨なんて普通は見ることないし。それでなんだけど、ギルドで預かりもできるんだ、どうする?」
「ギルドで?」
「うん、預かるのにお金かかったりしないから、そこは安心してよ。まぁ持ち歩かなくて済むってだけなんだけど」
「あぁ、結構便利だぞ」
オリアーナも笑顔で勧めてくる。
【ええんちゃう? 持ってたかて特に困ることもないやろけど、銀行みたいなモンなんちゃうん?】
【ぁ、アレク起きてたんだ】
【失敬なやっちゃなぁ、ちゃんと起きて聞いとるわ。収納があるよって持ち歩いても構へんけどな】
【でも、どうやら普通に大金みたいだし、こっちの人だって持ち歩かないのが当たり前なんじゃないの? だったらギルドに預ける方が色々と勘繰られなくて良さげだわ】
【うん、そないしとき】
「じゃあそれでお願いします」
「それじゃプレートちょっと貸してもらっていい? あ、全額入れちゃう?」
「いえ……幾らぐらい手元にあれば良いのでしょう?」
「そうだな、手元には1万エクほどもあれば十分だろう」
オリアーナの提案に従って銀平貨を1枚抜こうとするが、それをオリアーナは止めた。不思議に思ってオリアーナの方に顔を向けると。
「ケイティ、済まないがついでに銅平貨か銅板貨に両替しといてやってくれないか?」
「あ、その方がいいかも。買うものによっては銀平貨じゃ店の方が困りそうだもんね。それじゃ入金と両替してくるー」
何度目かの見送りをし終えると、オリアーナが立ち上がった。
「すぐ終わるだろうから、出る準備しはじめるか」
「はい」
アレクもセラも目を閉じていたりはしても起きてはいたので、すぐに立ってエリィの傍に控えた。
ムゥはしっかり膝の上でぷ~ぷ~と寝息を立てているので、起こしにかかる。
【ムゥ、そろそろ移動するよ。起きられる?】
【むにゅぅ…ぅ~ぅん、おきりゅ…の】
【ご飯も食べないといけないから、それまでには起きてよ?】
【…ぅにゅ、ご飯…お腹、しゅいたの】
本当にすぐ戻ってきたケイティから、プレートと銅板貨10枚を受け取る。
そのまま全員で部屋から出ると、オリアーナに言われて、元々入ってきた裏手に回り、裏通路からギルドを後にした。
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