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48話 ムゥと魔力交感

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 途中何度か狩りを挟んだり、薬草や果物の補充等していたので、時間はかかっているが、旅そのものとしては順調だ。

 他に変わったことと言えば、ムゥの体形がひらべったい形から葛饅頭のような真ん丸体形に変わった。
 それがスライムという種にとって標準体形なのか、ただの肥満なのかはわからないが、エリィにとっては前世の記憶にあるフォルムに近くなり、不満はない。
 食べる量は落ち着いて、アレクと同程度になった。おかげで収納内は魔物肉が再び潤沢に保存される結果になっている。
 とは言え、このまま落ち着くのか、それともまた何か切っ掛けがあれば暴食になるのかがわからないので、在庫不足にならないように気を付けている。
 現在食事中だが、肉串2本を枝ごとぺろりと平らげた後は、大人しく不用品処理を手伝ってくれていた。

「ムゥ、ありがとね。処理は一旦終わりにして休憩しましょ」
「ムムゥッ!」

 どこで覚えたのか、腕のように伸ばした身体の一部でビシッと敬礼している。

 セラはまだ食べ終えていないが、アレクは毛繕い、ムゥは欠伸をしていて、それぞれがリラックスモードの中、エリィはポーションを作っている。
 地道な練習の成果か、現在は2等級ポーションの上辺りが作製可能になった。低等級ポーションの味改善にも取り組んではいるが、こちらはなかなか進んでいない。それでも一般的な2等級ポーションの中では、かなりマシな味になっていると思われる。何故なら練習用に作りまくったポーションは、一部を除いてムゥに食べてもらっているのだが、以前に比べて顔を顰めることが少なくなっているのだ。

 セラが食べ終わったらしく、ムゥがセラの前に置かれた皿に腕を伸ばして掴むと、エリィの方へと皿を移動させた。
 以前は串から外した肉を置く器は、葉っぱ等で代用していたのだが、先だってのハレマス調屯地で食器を入手できた為、今は木製の大皿がセラ専用となっている。
 当然肉汁で汚れているが、エリィは気にすることなく収納へと放り入れる。食器など汚れて然るべきものには、収納の際、浄化も行う設定にしてあるので何も問題がないのだ。
 超高性能収納様には頭が上がらない。


「お手伝いありがとね」
「ムゥ殿、感謝する」
「ムゥ~ムムゥ~」

 お腹もいっぱいになって眠いのか、ムゥの返事は随分と間延びしている。アレクも既に丸くなって目を閉じており、その横にくっつくように移動したムゥも目を閉じた。

「主殿、少し良いだろうか?」

 再びポーション製作に勤しみだしたエリィに、セラが声をかける。
 手は止めずに顔を向けて、先の言葉を促すように首をコテリと傾がせた。

「ムゥ殿も魔力交感した方が良いのではないだろうか?」
「ムゥも? ん~しても良いけど『むむ~』としか話さないんじゃない?」
「会話としてはそうかもしれぬが、何らかで離れてしまった際等には役立つのではないだろうか」
「念話で事足りるんじゃないの?」
「念話で会話は出来るが、位置把握は交感していなければ出来ぬ」
「ふぁ? 位置把握って何!? 知らないんだけど」

 エリィがセラの方へ、ずいっと身を乗り出す。

「前回話して居らなんだか…すまぬ」
「大層なものじゃないとは聞いたけど、位置把握って…やっぱり大層なモノじゃないの! で、何処まで把握できるの?」
「交感した者は互いの所在位置そのものがわかる。主殿の場合マップと連動させることができれば、恐らくマップ上に表示させることも可能であろう」
「なるほどね…マップ連動は後で確認するとして…十分すぎるほど有用な機能だわ。何にしても了解、起きたら話しましょ。この辺りは魔物も少ないし、私がへばっても大丈夫そうだものね」

 そう言って周囲を見回す。
 木々は生えてはいるが、森と言うより林だろうか、開けた場所も時折ある。隠れる場所がないと言えば確かにそうだが、敵性生物にとっても同条件なのだから問題はない。実際探索をかけても、引っかかるのは小物の魔物と動物で、しかも数も少ない。

「まだ日は高いけど、魔力交感するならこの辺が適当かしら…」
「そうだな、あちらの木の根元あたりはどうだろうか?」

 セラが向いた方向を、エリィも立ち上がって見る。
 他よりも太く立派な木が、少し離れた所に生えている。

「うん、いいかも。それじゃ早速テント出してくるわ」

 


 まだ日陰は寒いだろうと、昼寝をするアレクとムゥに掛けた毛布がもぞもぞと動いた。
 テント等と共に回収した毛布だが、現在アレクとムゥ専用になっている。そのうち人里へ行くことがあれば、寝具はそれぞれのお気に入りに買い直してやりたい所だ。

 ふぁぁっと欠伸をしながらアレクが毛布から這いだし、ぐぐ~~っと伸びをする。ムゥもつられて起きたようだが、こちらはまだとろんとした目をしていて、2度寝してしまいそうだ。

「寝てしもてたなぁ、堪忍や」
「ム~プゥ、ムムゥ~~」
「今日はあそこで一泊するつもりだから問題ないわ」

 エリィが少し離れた木の下に設置したテントを指さす。

「あれま、先を急がへんのかいな」
「セラから提案があってね、ムゥも魔力交感しとこうかと思うんだけど、どう?」
「ムゥと?」
「会話はできないでしょうけど、ムゥは私達の言葉理解してるし、位置把握とかって言うのもできるんでしょ? だから何かあったときの為にって」
「それやったら理解や! 確かに何時何があるかわからへんもんな」
「という事で、晩御飯の後魔力交感するわよ。ムゥもいい?」
「ム? ムムゥッ!」

 最初語尾が上がったから疑問に思ったようだが、すぐにビシッと敬礼してくれた。



 いつもと変わらぬ晩御飯を終える。切実に味変調味料が欲しいが、無い物強請りをしても仕方ない。後片付けも終えて全員でテントに入ると、毛布や毛皮を巡視してから魔力交感を行った。
 こちらも以前と変わりない。エリィは滝汗流しながら倒れ伏し、アレクもだらしなく伸びている。
 ムゥが存外平気そうに、ポヨンポヨンと弾んでいるのが若干癪に障る。
 突っ伏すエリィとアレクに、セラが恐る恐る声をかけた。

「あ、主殿…念話だけでも確認しておいてはどうだろうか…?」

 肩で息をしながらエリィが上体を起こす。

「…はぁ、はぁ…そ、そうね…ムゥとは念話さえ、した事、なかったものね」

 エリィの言葉にアレクも、伸びたまま無言で頷いた。

【よし……ムゥ、聞こえる? 聞こえたら『む~』でも何でもいいから返事してみて】
【……アレクやで~】
【ムゥ殿、如何だろうか?】

 じっと全員でムゥを見つめていると、念話に気づいたのか、ムゥの顔にパァァッと嬉しそうな表情が広がる。

【ムゥ、返事してや~】

 アレクの催促に、一瞬ムゥがきょとんとした表情を浮かべるが、すぐに頷く。

【……ム…ぇ……と…】
「「「!!!」」」

 鳴き声が返ってくると思っていたのに、所々聞きなれない音が混じり、エリィ、アレク、セラは意表を突かれている。

【…ぇと…主様ぁ、ムゥね、お話しできてるぅ? アレクさんやセラさんとも、お話しできるぅ?】


――魔力交感、侮れん。



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