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43話 ケネスの頼み事
しおりを挟むなんだかさらりと問題発言をされた気がする。
「はい? もう一度いいかしら?」
「えーっと、なんつーか…ハナミさんは、これからも旅をつづけるんだろ?」
「ぇ…えぇ、その予定だわね」
「ならさ、ちょっと頼まれてほしくて」
あの血みどろの建物で起こった事や、行われていた事を聞かされるのかと身構えていたのだが、どうやら違うようだ。
正直もしそれらを聞かされたとしても、エリィの手には余るだろう。誤魔化しようもなく犯罪行為だと思われるし、下手をすると色々なものを巻き込んでの大事件に発展しかねない様相なのだ
「はて…頼み、とな?」
コテリと首を傾げるエリィに、ケネスは一つ頷くと自身のポケットを探って何かを取り出した。
「助けてもらった礼もできてねぇのに、頼み事なんて…礼儀知らずだってのはわかってんだ…必ずいつか恩も借りも返すから、これをズースさんに返してもらえねぇか?」
カウンターにコトリと置かれたのは、少し大きめの赤い宝石が真ん中に置かれ、その周囲を銀細工で飾る装飾品だった。
「カーシュが攫われて、俺、取り返しに行ったんだよ。だけど反対に捕まっちまってさ…それから運搬とかさせられてたんだ、カーシュの命を盾にされて……ズースさんは逃げようとした人を殺したりする怖い人だった。だけど飯くれたりして、俺もカーシュも、あの人が居なかったらとっくに飢え死んでたと思う」
置かれた装飾品に優しい目線を向けるケネスとは対照的に、エリィは口がへの字に曲がり切っている。
(頼む…それ以上の詳細は勘弁して……)
そんなエリィの、無言の懇願にケネスが気づくわけもなく。
「これさ、いつか隙ができたら逃げろって、これ売って弟と逃げろって、俺にくれたんだ」
「…………ぃゃ、そのズースさんなんて顔も知らないし、どうやって返せって言うのよ(第一既に死体になってたんだから、返しようがないわよ…どうしたものか…無関係でいる気満々だったから、死体はほとんど調べてないし、もう死んでますよ~ってケネスに言うべき? ぅ~ん、やっぱり言わないほうが良いのか……)」
「うん、だから『もし』でいいんだ。それにさ、俺が持ってていいもんじゃねぇだろ? そんな高価そうな物、盗まれるのがオチだって」
「ぃゃ、それはそっくり私にも当てはまるわけで。こんな幼女が持ってていい物ではないでしょ」
「え…ハナミさんって幼女だったのか!?」
ケネスの想定外な言葉に、二人見合わせたまま固まってしまった。
「……ちょっと整理させてもらえるかしら?」
驚愕の表情のまま、ケネスはガクガクと首を縦に振る。
「貴方は私の事を見た目通りの年齢じゃないと思ってたわけね? まさかと思うけど性別も誤解してるとか?」
今度はブンブンと首を横に振る。
「ま、まさか! 女性だって思ってたさ。けど、その…年齢は…種族特性とかあると、ほんとわかんねーんだよ。ドワーフやエルフなんて、カーシュくらいの大きさでも、俺より年上なのに子供とかざらにいるんだぜ!? 俺も村にいた頃はそんな種族見た事もなかったけど、あの地下牢には居たからな…」
「ふむ…この世界では年齢はあまり重要視されないという事かしら?」
「重要視されないつーか、信用できない? 草人族なんて反対に年齢だけなら下なのに、実は爺さんだったなんてのも珍しくないしな」
「なるほどね、じゃあ証札に年齢表記がないのもそのせい?」
「そうそう、格差が激しくて目安にもなんねーんだよ」
「じゃあステータスが表記されないのはどうして?」
「すてー…たす? なんだそれ?」
「…ぁ~、なんでもないの(なるほど…ステータスは普通の人は見ることができないのね)。で、気にさせてしまってごめんね」
「謝るのは俺の方だろ? そんな事情もあって、ハナミさんは俺より年上だって思いこんでたんだが、そうじゃないってんなら悪かった」
「そんな事くらいで謝らなくていいわよ(そう、謝られたら反対に困るわ…だって年上なのは確かだもの、前世年齢足せば……それに草人族…また聞いたことのない種族名だわね…この世界、どれだけの種族が居るのやら…)」
カウンターに置かれた装飾品、裏返して見たりしていないので不確かだが、恐らくブローチだろう、それをケネスの方にそっと押し返す。
「それでなんだけど、やっぱり私が預かるのは防犯的にも良くないし、そのズースさんという方もわからない。ケネスが自身で返す方が良いんじゃないかしら?」
自分の方へと返されたブローチに、ケネスは眉根を寄せてじっと考え込む。
暫くそうしていたが、瞬きを一つした後エリィに視線を合わせた。
「俺とカーシュは旅にでられねぇ。俺らが助かったって事はバレないほうが良いと思うからな。どこかでカーシュと二人、隠れて暮らそうって思ってんだ。だから改めてこの品はハナミさんが貰ってくれないか? お礼にはまだまだ足りないと思うけど、今できる精一杯だし。それでもしどこかでズースさんに会えたら、俺らが感謝してたって伝えてくれたら嬉しい」
「報酬替わりってことかしら…」
「全然返したりてねぇけどな」
ニカっと大きく口を横に広げて笑うケネスに、エリィは溜息を禁じえず、そのままがくりと肩を落とした。
「状況として何も変わりないじゃないの…はぁ…わかったわ、これは預かっておくわね」
「売って路銀の足しにでもしてくれて構わねぇからさ」
「あ・す・か・る・わ・ね!」
「ハナミさんは頑固なんだな」
ケネスはカウンターに置いたブローチを、伺うように、だけど確固たる意志を貫くように、エリィの手に圧し渡した。
渡されたブローチに顔を向けて、手の中のそれだけじゃない重さを考える。
(やっぱり面倒なことになったじゃない、アレクの奴め…まぁアレクのせいだけじゃないけど……でも、それはそれでいいのかもしれない…欠片を探すという目的しか、今の所ないのだし……とは言え、どう考えても権力層絡みの犯罪案件、気が重くなるなと言う方が無理よね)
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