上 下
43 / 225

43話 ケネスの頼み事

しおりを挟む



 なんだかさらりと問題発言をされた気がする。

「はい? もう一度いいかしら?」
「えーっと、なんつーか…ハナミさんは、これからも旅をつづけるんだろ?」
「ぇ…えぇ、その予定だわね」
「ならさ、ちょっと頼まれてほしくて」

 あの血みどろの建物で起こった事や、行われていた事を聞かされるのかと身構えていたのだが、どうやら違うようだ。
 正直もしそれらを聞かされたとしても、エリィの手には余るだろう。誤魔化しようもなく犯罪行為だと思われるし、下手をすると色々なものを巻き込んでの大事件に発展しかねない様相なのだ

「はて…頼み、とな?」

 コテリと首を傾げるエリィに、ケネスは一つ頷くと自身のポケットを探って何かを取り出した。

「助けてもらった礼もできてねぇのに、頼み事なんて…礼儀知らずだってのはわかってんだ…必ずいつか恩も借りも返すから、これをズースさんに返してもらえねぇか?」

 カウンターにコトリと置かれたのは、少し大きめの赤い宝石が真ん中に置かれ、その周囲を銀細工で飾る装飾品だった。

「カーシュが攫われて、俺、取り返しに行ったんだよ。だけど反対に捕まっちまってさ…それから運搬とかさせられてたんだ、カーシュの命を盾にされて……ズースさんは逃げようとした人を殺したりする怖い人だった。だけど飯くれたりして、俺もカーシュも、あの人が居なかったらとっくに飢え死んでたと思う」

 置かれた装飾品に優しい目線を向けるケネスとは対照的に、エリィは口がへの字に曲がり切っている。

(頼む…それ以上の詳細は勘弁して……)

 そんなエリィの、無言の懇願にケネスが気づくわけもなく。

「これさ、いつか隙ができたら逃げろって、これ売って弟と逃げろって、俺にくれたんだ」
「…………ぃゃ、そのズースさんなんて顔も知らないし、どうやって返せって言うのよ(第一既に死体になってたんだから、返しようがないわよ…どうしたものか…無関係でいる気満々だったから、死体はほとんど調べてないし、もう死んでますよ~ってケネスに言うべき? ぅ~ん、やっぱり言わないほうが良いのか……)」
「うん、だから『もし』でいいんだ。それにさ、俺が持ってていいもんじゃねぇだろ? そんな高価そうな物、盗まれるのがオチだって」
「ぃゃ、それはそっくり私にも当てはまるわけで。こんな幼女が持ってていい物ではないでしょ」
「え…ハナミさんって幼女だったのか!?」

 ケネスの想定外な言葉に、二人見合わせたまま固まってしまった。

「……ちょっと整理させてもらえるかしら?」

 驚愕の表情のまま、ケネスはガクガクと首を縦に振る。

「貴方は私の事を見た目通りの年齢じゃないと思ってたわけね? まさかと思うけど性別も誤解してるとか?」

 今度はブンブンと首を横に振る。

「ま、まさか! 女性だって思ってたさ。けど、その…年齢は…種族特性とかあると、ほんとわかんねーんだよ。ドワーフやエルフなんて、カーシュくらいの大きさでも、俺より年上なのに子供とかざらにいるんだぜ!? 俺も村にいた頃はそんな種族見た事もなかったけど、あの地下牢には居たからな…」
「ふむ…この世界では年齢はあまり重要視されないという事かしら?」
「重要視されないつーか、信用できない? 草人族なんて反対に年齢だけなら下なのに、実は爺さんだったなんてのも珍しくないしな」
「なるほどね、じゃあ証札に年齢表記がないのもそのせい?」
「そうそう、格差が激しくて目安にもなんねーんだよ」
「じゃあステータスが表記されないのはどうして?」
「すてー…たす? なんだそれ?」
「…ぁ~、なんでもないの(なるほど…ステータスは普通の人は見ることができないのね)。で、気にさせてしまってごめんね」
「謝るのは俺の方だろ? そんな事情もあって、ハナミさんは俺より年上だって思いこんでたんだが、そうじゃないってんなら悪かった」
「そんな事くらいで謝らなくていいわよ(そう、謝られたら反対に困るわ…だって年上なのは確かだもの、前世年齢足せば……それに草人族…また聞いたことのない種族名だわね…この世界、どれだけの種族が居るのやら…)」

 カウンターに置かれた装飾品、裏返して見たりしていないので不確かだが、恐らくブローチだろう、それをケネスの方にそっと押し返す。

「それでなんだけど、やっぱり私が預かるのは防犯的にも良くないし、そのズースさんという方もわからない。ケネスが自身で返す方が良いんじゃないかしら?」

 自分の方へと返されたブローチに、ケネスは眉根を寄せてじっと考え込む。
 暫くそうしていたが、瞬きを一つした後エリィに視線を合わせた。

「俺とカーシュは旅にでられねぇ。俺らが助かったって事はバレないほうが良いと思うからな。どこかでカーシュと二人、隠れて暮らそうって思ってんだ。だから改めてこの品はハナミさんが貰ってくれないか? お礼にはまだまだ足りないと思うけど、今できる精一杯だし。それでもしどこかでズースさんに会えたら、俺らが感謝してたって伝えてくれたら嬉しい」
「報酬替わりってことかしら…」
「全然返したりてねぇけどな」

 ニカっと大きく口を横に広げて笑うケネスに、エリィは溜息を禁じえず、そのままがくりと肩を落とした。

「状況として何も変わりないじゃないの…はぁ…わかったわ、これは預かっておくわね」
「売って路銀の足しにでもしてくれて構わねぇからさ」
「あ・す・か・る・わ・ね!」
「ハナミさんは頑固なんだな」

 ケネスはカウンターに置いたブローチを、伺うように、だけど確固たる意志を貫くように、エリィの手に圧し渡した。

 渡されたブローチに顔を向けて、手の中のそれだけじゃない重さを考える。

(やっぱり面倒なことになったじゃない、アレクの奴め…まぁアレクのせいだけじゃないけど……でも、それはそれでいいのかもしれない…欠片を探すという目的しか、今の所ないのだし……とは言え、どう考えても権力層絡みの犯罪案件、気が重くなるなと言う方が無理よね)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生したらよくわからない騎士の家に生まれたので、とりあえず死なないように気をつけていたら無双してしまった件。

星の国のマジシャン
ファンタジー
 引きこもりニート、40歳の俺が、皇帝に騎士として支える分家の貴族に転生。  そして魔法剣術学校の剣術科に通うことなるが、そこには波瀾万丈な物語が生まれる程の過酷な「必須科目」の数々が。  本家VS分家の「決闘」や、卒業と命を懸け必死で戦い抜く「魔物サバイバル」、さらには40年の弱男人生で味わったことのない甘酸っぱい青春群像劇やモテ期も…。  この世界を動かす、最大の敵にご注目ください!

捨てられた転生幼女は無自重無双する

紅 蓮也
ファンタジー
スクラルド王国の筆頭公爵家の次女として生を受けた三歳になるアイリス・フォン・アリステラは、次期当主である年の離れた兄以外の家族と兄がつけたアイリスの専属メイドとアイリスに拾われ恩義のある専属騎士以外の使用人から疎まれていた。 アイリスを疎ましく思っている者たちや一部の者以外は知らないがアイリスは転生者でもあった。 ある日、寝ているとアイリスの部屋に誰かが入ってきて、アイリスは連れ去られた。 アイリスは、肌寒さを感じ目を覚ますと近くにその場から去ろうとしている人の声が聞こえた。 去ろうとしている人物は父と母だった。 ここで声を出し、起きていることがバレると最悪、殺されてしまう可能性があるので、寝たふりをして二人が去るのを待っていたが、そのまま本当に寝てしまい二人が去った後に近づいて来た者に気づくことが出来ず、また何処かに連れていかれた。 朝になり起こしに来た専属メイドが、アイリスがいない事を当主に報告し、疎ましく思っていたくせに当主と夫人は騒ぎたて、当主はアイリスを探そうともせずに、その場でアイリスが誘拐された責任として、専属メイドと専属騎士にクビを言い渡した。 クビを言い渡された専属メイドと専属騎士は、何も言わず食堂を出て行き身支度をして、公爵家から出ていった。 しばらく歩いていると、次期当主であるカイルが後を追ってきて、カイルの腕にはいなくなったはずのアイリスが抱かれていた。 アイリスの無事に安心した二人は、カイルの話を聞き、三人は王城に向かった。 王城で、カイルから話を聞いた国王から広大なアイリス公爵家の領地の端にあり、昔の公爵家本邸があった場所の管理と魔の森の開拓をカイルは、国王から命られる。 アイリスは、公爵家の目がなくなったので、無自重でチートし続け管理と開拓を命じられた兄カイルに協力し、辺境の村々の発展や魔の森の開拓をしていった。 ※諸事情によりしばらく連載休止致します。 ※小説家になろう様、カクヨム様でも掲載しております。

最強のコミュ障探索者、Sランクモンスターから美少女配信者を助けてバズりたおす~でも人前で喋るとか無理なのでコラボ配信は断固お断りします!~

尾藤みそぎ
ファンタジー
陰キャのコミュ障女子高生、灰戸亜紀は人見知りが過ぎるあまりソロでのダンジョン探索をライフワークにしている変わり者。そんな彼女は、ダンジョンの出現に呼応して「プライムアビリティ」に覚醒した希少な特級探索者の1人でもあった。 ある日、亜紀はダンジョンの中層に突如現れたSランクモンスターのサラマンドラに襲われている探索者と遭遇する。 亜紀は人助けと思って、サラマンドラを一撃で撃破し探索者を救出。 ところが、襲われていたのは探索者兼インフルエンサーとして知られる水無瀬しずくで。しかも、救出の様子はすべて生配信されてしまっていた!? そして配信された動画がバズりまくる中、偶然にも同じ学校の生徒だった水無瀬しずくがお礼に現れたことで、亜紀は瞬く間に身バレしてしまう。 さらには、ダンジョン管理局に目をつけられて依頼が舞い込んだり、水無瀬しずくからコラボ配信を持ちかけられたり。 コミュ障を極めてひっそりと生活していた亜紀の日常はガラリと様相を変えて行く! はたして表舞台に立たされてしまった亜紀は安らぎのぼっちライフを守り抜くことができるのか!?

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【R18】スライムにマッサージされて絶頂しまくる女の話

白木 白亜
ファンタジー
突如として異世界転移した日本の大学生、タツシ。 世界にとって致命的な抜け穴を見つけ、召喚士としてあっけなく魔王を倒してしまう。 その後、一緒に旅をしたスライムと共に、マッサージ店を開くことにした。卑猥な目的で。 裏があるとも知れず、王都一番の人気になるマッサージ店「スライム・リフレ」。スライムを巧みに操って体のツボを押し、角質を取り、リフレッシュもできる。 だがそこは三度の飯よりも少女が絶頂している瞬間を見るのが大好きなタツシが経営する店。 そんな店では、膣に媚薬100%の粘液を注入され、美少女たちが「気持ちよくなって」いる!!! 感想大歓迎です! ※1グロは一切ありません。登場人物が圧倒的な不幸になることも(たぶん)ありません。今日も王都は平和です。異種姦というよりは、スライムは主人公の補助ツールとして扱われます。そっち方面を期待していた方はすみません。

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...