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34話 瞬間移動そして発見
しおりを挟む足元にあるのは、この2棟の建物に至る導となった轍。
とっても美味しいハシビロさんを探して、南下してきた場所で行き当たった、ひび割れた陶器筒とこの轍に誘われた結果見つけたものは、厄介事の臭いしかしない碌でもない光景とボロボロの兄弟2人。
正直言ってこの轍を辿っていくのは気が進まないけれど、2つ程希望もあった為その決断となった。
一つは見られても問題ないエリィの装備、もう一つは兄弟用の食料他である。
装備についてはボロ布だけでも見つかれば良いし、見つからなくてもその時だと思えるが、兄弟用の食料や飲み水は早急に必要だろう。身体の弱ってる者には胃に優しいモノの方がいいはず…少なくとも魔物肉の串焼きではないはずだ。飲み水にしても、果実で代用というのも限界があるだろう。
これらを手に入れられそうなのは、やはり人のいる場所。そしてここから一番近くにあるとしたら、それは恐らく加害者たちの拠点かもしれないと思われるが、背に腹は代えられないのだ。
【それじゃ先行するわ。後からゆっくり来てくれればいいから】
ちらりと背後を振り見て、荷車を引くセラと、その近くで警戒に当たるアレクに念話で声をかけてから、轍を追うようにエリィが先に進みだした。
エリィは幼い身体なりに、少しでも速度を上げて移動しようと考え、走ろうと足を踏み出した途端、ふわりと体が浮く感覚があり、一瞬風景が揺れたように感じた。慌てて後方のアレク達を振り返ると、さっきまでより少し離れているように思える。
エリィが振り返ってフリーズしている事に気づいたのだろう。アレクから念話が飛んできた。
【どないしたんや?】
【ぃゃ…何か一瞬、まだ走ってないのに少し…ううん、気のせいよね、ごめん、何でもないわ】
【ぁ~瞬間移動してるってか? 気のせいやあらへんで。せやけど、いつの間に習得してたんやろ、欠片のおかげかいな?】
【ん~さっぱり?】
【んな!…せやから自分のステータスは細目に確認しといてや言うたやん!?】
【えぇ…面倒…私取説読まない人だっていい加減理解しなさいよ】
【【……】】
エリィ達の主目的である欠片の探索と吸収、それは身体の僅かではあるが成長と一部分の人らしい見た目だけでなく、能力も向上と新たな取得という恩恵をもたらしていたようだ。
下草を踏み枯らして延びる土色の轍を、エリィは瞬間移動を駆使して、アレク達はその後ろから静かに荷車と共に辿っている。
暫く進んでいくと清涼感と言うには些か強く、表現の難しい刺激臭に気づいた。
【ちょっと聞いてもいい?】
進んでいくうちにエリィと荷車組との間は、かなり離れていたようで視認できなくなっていた。念話があってつくづく良かったと思うエリィだったが、臭いが気になるようで、立ち止まって周囲を見回し警戒を強めている。
【何だかちょっと刺激臭が…理解してもらえるかわからないんだけど、薄荷みたいなモノと、苦いような何とも言い様のない臭いが混ざった感じ。何か知らない?】
【薄荷と苦み? なんやろ】
【ふむ…主殿、周囲に籠のようなものがないだろうか?】
【籠? 探してみるわ】
瞬間移動ではなく身をかがめながら、徒歩で慎重に臭いを追ってみると、前方に籠と言うより、木の棒を格子状に隙間を作って組み立てた、箱のようなものが置かれているのに気づいた。大きさは一辺が30㎝ほどで、中に草団子のようなものが入っており、それが臭いの元だった。
【見つけた】
すかさず鑑定をかけてみると、どうやら魔物除けのようで、中に入っている草団子が効果の大本らしい。
【なるほど、理解。魔物除けなのね…ということはそろそろ接敵するかもって事かしらね】
【うむ、重々気を付けてくれ、主殿】
まず周囲を探索してみる――脅威になりそうな魔物はいないようだ。
次いで気配を探ると何らかの小動物はいるようだが、現在地点からは少し離れたところにいるので脅威にはなりそうにない。人間種の気配――カーシュとその兄は人族だったので、その気配他は覚えたが、それ以外の人間種だとわからない点が気がかりだが、少なくとも人族の気配はないと思われる。
【今いる場所に人間種はいなさそう。ここまでは大丈夫だと思うわ】
【こっちも今ンところ問題あらへん。結構離れてしもてるけど、そっち向かうわ】
【了解、気を付けて。こっちはもう少し探っておくわ】
木々で身を隠しながら更に轍を辿ると、保護色になっていてわかりにくいが、テントが幾つか見えてきた。
【テント発見。ちょっと止まってて】
【気ぃつけんねんで!】
【承知した】
身を低くして木の陰からテント群を窺う。
どれも森に溶け込む暗い色をしており、ドームテントと呼ばれる形状をしたものが5つ張られている。前世日本でも見た事はあるが、こちらの物の見た目はかなり簡素だ。
それぞれが適度な距離を置いて円状に設置されていて、円の中心部分は共有スペースなのか、焚火の跡が残っていた。
暫くじっと身を潜めて窺っていたが、聞こえ来る音にも人の気配は全くない。当然動く影もない。
更に少し待ってみてから、身を屈めたままそっとテントに近づく。
ローブの内側に忍ばせている短剣の柄を握り、一番手前のテントの入り口にかかっている布に薄く隙間を開けて中を覗き見るが、布は出入り口の暖簾か雨避けかのようで、その奥に更に入り口があった。入り口部分の上の方に魔紋が浮かび上がっていて、テント自体が魔具なのだとわかった。
(ふーん、魔具のテントね、初めて見た。そのうち自分でも作れるといいんだけど…で、この魔紋が鍵ってところか)
魔紋には触れただけで何らかの反応をするものがある。先だっての転移紋などはそのいい例だ。
なのでまずは触れずに観察する。
(掠れて判別できないとかならいざ知らず、見えるなら読めるわけで)
エリィの口元がニィッと黒い笑みを形作る。
(アレクをしてチートと言わしめる、このエリィ様を舐めんじゃないわよ、解紋よ)
微かに魔紋が光ったかと思うと、あっさり入り口が開いて中を見ることができた。
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