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21話 やっと見えてきた

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 時刻は深夜。
 結局旅程を進めることはできず、昨夜お世話になった洞へと戻り今に至る。

 アレクとセラは思った以上に疲れていたのだろう。安全を確保した後、エリィが収納から出した毛皮の上に横になると、速攻で夢の中へ旅立った。
 エリィはというと、眠るセラの横腹に仰向けの姿勢となり、件の現場で拾った魔石を両手で掲げて眺めていた。サイズがかなり大きい事もあってか、魔石の中に傷というか、模様のようなものを見ることができた。それが少し気になったようだ。

 今まで回収してきた魔石は大きさは様々だがほぼ真球で、大抵は属性色の単色、時折複数属性を内包するものが、精々その色を混ぜたり層をなしたりしている程度で、模様や傷など見たことがなく、少しばかり珍しかったのだ。
 その掲げた真球の輪郭と傷みたいなものが、月光を反射して宝石のように煌めいて見える。
 月光――この世界にも月は存在する。それも3つ。
 少しずつ色味の違うその3つの月明りは、日本の夜では考えられないほど明るかった。

 ちなみに魔石とは、魔核が結晶化したものとでも言えばいいだろうか。何故か魔物の魔核は、死する時に魔力を含有したまま結晶化するのだ。個体によっては複数個魔石が採取できたりもする。これを活用した魔具も古くから存在し、小屋に合った照明も魔具の一つだ。
 もっとも、あの照明は魔素を使って動いており、魔石を使ってはいないので、違う系統の魔具と言える。
 ただ人族や一部の動物の持つ魔核は結晶化せず、そのまま霧散してしまうのか、死後取り出したりすることはできない。

 何時まで眺めていても、傷も煌めきも変わりはしない。
 眠っているアレクとセラを起こさないように、そっと魔石を収納に放り込み、エリィは明日に備えて休むべく、毛布代わりの毛皮を肩まで引き上げた。







「ふぁぁあぁぁぁ」

 エリィだけ少し寝過ごしたようだ。洞の外はすっかり明るくなっている。
 
「エリィ、どないや? まだ痛いんとちゃうん?」

 エリィが寝ていたせいで、敷布団代わりのセラは目は開いているものの、その身は横たえていたが、アレクの方は既に起きだしていた。

「ん~……」

 寝起きの頭はまだ起動していないようで、生返事だけ返ってくる。
 もう一度洩れる欠伸に涙が浮かんだところで、もそもそと上体を起こしアレクの方へ顔を向けた。
 右肩を小さく上下に動かした後、左手で肩から二の腕に向けて確認するように撫で擦る。

「痛み…痛みは平気かな、薬が仕事をしてくれたみたい」

 洞に移動してすぐ、作り置いていた鎮痛薬を使用していた。
 周辺の素材で作り出せる薬は、スキル練習の為にも一通り作成しており、最低限のモノは収納に用意されている。
 小屋に居た約一か月の間に作った薬で効果を試したことがあるのは傷薬、それもほんの初期に作り出した1等級(効果が上がるほど数値があがるらしく、1等級とは一番効果が弱いもの)のもので、鎮痛効果の薬など、傷薬以外は軒並み使用実績ナシだった。
 まぁ効果があったので良いと言えばそうなのだが、追々等級の高いものと入れ替えつつ、その効果も確認していかなければなとエリィは独り言ちた。



 出発の準備を終え、周囲の気配をスキルで探索してから洞の外へ出ると、昨日の霧が嘘のように、陽光が木々の合間を縫って地面まで届き、とても暖かそうに見える。
 しかしながらそれは印象でしかなく、空気は昨日までよりひんやりと冷たい。
 エリィの右肩部分の裂け目は、昨日より幾分自動補修が進んでいるのか、少し解れがましになった気がするものの、裂け目からは肌が覗いており、その部分から外気の冷たさに体温が奪われていく。
 裂け目が小さくなるように、エリィは肩口の布を少し手繰り寄せて歩き出した。
 
 出発して少しした所で、エリィがよろめいた。
 転ぶほどではなかったが、少し足を挫いたようだ。
 冷静に考えれば当然かもしれない。昨日の怪我と、それに伴う痛みはなくなっているようだが、出血等によるダメージは癒えていないのだ。
 同じように大怪我を負ったセラも失血ダメージはあったはずだが、治癒魔法での回復だったし、何より基本的な再生能力が段違いなのだろう。
 ついつい普通に出発してしまったが、エリィが不調を引きずっているのは当たり前のことだ。中身はどうあれ見た目は5歳くらいの幼女でしかなく、実際の所、随分と以前の話になるが、ステータスで確認しても、体力だけは普通の人族の子供ほどしかなかったのだ。
 それ以外は出鱈目な数値や印がずらりと並び、チートの真骨頂ここに極まれりだったのだが。
 
「主殿」

 セラがエリィの前に体高を低く伏せる。急な彼の行動に、よくわかっていないエリィが首を傾げていると、その顔を腹部辺りに差し込み、エリィを持ち上げるとそのまま自分の背に移動させた。

「すまなかった。主殿の体調に気づいていなかった」
「ちょっと躓いただけだし、平気だって…」
「セラの言う通りや、僕も大怪我したセラがすぐ動き回っとったさかい、なんや知らん間に油断しとったわ」

 セラの背で何となく居心地悪そうに身じろぐエリィに畳み掛ける。

「もう、あんなん居らへんと思うけど、油断でけへんしな」

 今いる場所からどれほど早く離れたとて、この森の危険度が変わるわけではないが、遠慮しようとするエリィへの心配が高じて、アレクはズレた理由を立て並べた。


 

 エリィがセラに乗ることで、進む速度はかなり上がり、鬱蒼としていた森の奥に小さいながらも白い建造物が見えてきた。
 それを目にしたアレクが言う。

「着いたで、あそこが遺跡や」

 遠目には時間が止まったかのように、古い建物が静かに佇む様子が見えるだけだ。



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