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13話 早春に踏み出す
しおりを挟む―――さて、意気揚々と出立する一行…とはいかず。
「で、どこに行けば「先導を頼む」いいの? 地図出す?「この辺りに」えっとこっちが北だっけ「土地勘はないのだ」」
「あ、うん、せやな…とりあえず二人とも一旦落ち着こか」
「あ、はい」
「ふむ?」
エリィとセラが思い思いに喋るので収拾がつかない。
どうやらわかっていない様子のセラは置いておくとして、アレクはやれやれと肩をすくめつつ場を仕切り直した。
「この森に目指す一か所目があんねんけど、結構離れてんねん。まぁ狩りでもしながら向かおや」
「離れてるってどのくらい?」
眼前に出した地図を見ていたエリィがアレクに顔を向けて尋ねるが、何か思いついたようでセラの方を見上げた。
「すごーーく離れてるならセラに運んでもらうとかは? この森の端辺りまででもショートカット出来たら楽じゃない?」
「ふむ、主殿らを運ぶくらい造作ない」
「まぁ、セラがええんやったら、それでもかまへんのやけどな…」
ふぅと息を軽くついて、耳手(耳毛束の事だ)をひらひらとさせながら、ちらりとエリィとセラを流し見る。
「経験は大事や思うねん。セラは大丈夫やろうけどな、エリィには経験あらへんやろ?」
「な、何のよ」
流し向けられる視線に不穏な気配を感じたのか、右足を半歩引いてエリィがたじろいでいる。
「何って、の・じゅ・く や、野宿! 野営でも何でもええけどな」
なるほどとエリィが頷く。
この世界に降り立ってから今まで、小屋という拠点ありきの生活だった。
つまり『旅』というのは初体験になるわけだ。前世でも『旅行』は経験したことがあるが、それは予定がきまっており、宿などの心配のない整えられた行動だ。あくまで『旅行』であって『旅』ではない。
だがこれから待っているのは、見知らぬ世界での『旅』なのだから、まだ小屋の近くにいるうちに、そういった経験を積むのは道理に叶っていると思われた。
「一理どころか十里も百里もあるわね。ショートカット無し了解よ」
「セラには不便かけてまうけどな、堪忍やで」
大人しく成り行きを見守っていたセラが頷く。
「問題ない、徒歩であっても背に乗せて運ぶことは可能だ。疲れた時などは遠慮なく言うといい」
即答するセラにアレクはつい心配げな視線を向けてしまうが、エリィの方はうんうんと楽しげに返事していた。
内心ではエリィも思うところはあるのだろうが、それを見せることなく気遣っている。まだぎこちなさがあるのは仕方ない、それぞれが距離を測りながらなのだから。いつかは互いに馴染んでいければいいとアレクは小さく口角をあげて笑んだ。
朝それなりに早い時間に起きだして動き始めたのに、準備の後、扉の破壊に続いて打ち合わせ(と言っていいのか悩むところだが)しているうちに、朝の少し冷たさを含んでいた風がほんのりと温んできていた。
見慣れた周辺に目をやれば、小さな花が少し咲いていたりして、季節としては春、まだ早春といったところだろう、そういえば今がいつなのかも知らなかったなとエリィはぼんやりと考える。後でアレクに聞いたらわかるだろうかと取り留めもなく思考を流す。
そんなことをしている理由はきっと一抹の寂しさ。
たかが一か月、されど一か月だ。
右も左もわからないまま放り入れられた世界で、縁と言えばアレクと小屋だった。いつの間にかしっかり『家』だったのだなぁと一人呟き、振り向かずに行こうと決める。振り向いてしまえば動けなくなる気がしたから。
「んじゃ出発といきましょ、アレク、先導お願いね」
「一か所目はまかしとき!」
「以降は不可ということであろうか?」
一人と2匹は早春の午前、一歩を踏み出した。
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