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「ちっくしょーっ!!」
青年は壁を蹴った。むしゃくしゃする。苛立ちを物にぶつけたとしても、なんら役に立たないことは理解している。
藤滝家。
闇社会にて莫大なブラック・マネーを動かしているそんな出自である藤滝美苑が主として君臨する屋敷。
そこでは彼が集めたコレクション――ならず、男の欲望を満たすためだけの男たちがより集められ、主の命じるがまま、淫らに性の花を咲かせている。
そんな屋敷に売られてきた青年・弥助は、積もるストレスと屈辱の毎日。そして奪われた自由に苛立っていた。
こんな場所、抜けてやる!!
前もって計画しておいた脱走計画を実行するしかない。
屋敷を抜けるには数字のおかしい利息付きの借金を返すか、藤滝に飽きられるかの二択しかない。そして、藤滝は決して、コレクションが壊れるまで手放さない男だ。
逃亡。
それしか道はない。覚悟を決めたところで、青年は、やけに今日は屋敷の雰囲気が明るいということに気がついた。
「なにか、あったんですか?」
屋敷にいた他の男に尋ねてみる。彼らは便宜上売り子とよばれている春売りで、藤滝が連れてきた男たちの実際の相手をする。
青年はというと、まだ客を取らせたことはなく、大勢の客たちの前でなぶられるショー用と呼ばれる春売りをさせられていた。
「何ってほら」
彼が見せてくれたのは。
「これって……」
個包装された菓子が一つ、二つ、三つ。
「クッキーだよ。何やら今日はお菓子を配る祝祭らしいんだ」
「へ、へぇ?」
「使用人たちが朝から配っていたよ」
「そうなのか?」
「なにせ、まぁ今日は客の相手をしなくていいからね。気軽なもんだ」
「へ!? でも、家敷に誰か入ってきてたぜ!?」
「ああ、主さまのご友人さまたちらしいぞ。知らないのかい? 今日は全館休日だ」
休日に人を呼ぶのか……。どこか違和感が拭えない。
しかし、屋敷の中に暇な奴らばかり、うろつかれるのは隙を見て逃げ出すのに都合が悪い。
「きみも、もらっておいでよ。甘くて美味しいぞ。せっかくだからあげようか?」
「いや、いい」
「ふーん」
それにしても。
絶対に何かあるぞ。青年は藤滝の考えそうなことに必死で思いを巡らせた。
そのとき。
「むぐっ!?」
青年の口に強引にクッキーが押し込まれた。彼はそれを咀嚼して飲み込んだ。
「芹那! お前、一体、なんで!?」
突如、青年の前に現れ、その口にクッキーを押し込んだ者の正体は、この屋敷で売り子をしている芹那だった。
青年は壁を蹴った。むしゃくしゃする。苛立ちを物にぶつけたとしても、なんら役に立たないことは理解している。
藤滝家。
闇社会にて莫大なブラック・マネーを動かしているそんな出自である藤滝美苑が主として君臨する屋敷。
そこでは彼が集めたコレクション――ならず、男の欲望を満たすためだけの男たちがより集められ、主の命じるがまま、淫らに性の花を咲かせている。
そんな屋敷に売られてきた青年・弥助は、積もるストレスと屈辱の毎日。そして奪われた自由に苛立っていた。
こんな場所、抜けてやる!!
前もって計画しておいた脱走計画を実行するしかない。
屋敷を抜けるには数字のおかしい利息付きの借金を返すか、藤滝に飽きられるかの二択しかない。そして、藤滝は決して、コレクションが壊れるまで手放さない男だ。
逃亡。
それしか道はない。覚悟を決めたところで、青年は、やけに今日は屋敷の雰囲気が明るいということに気がついた。
「なにか、あったんですか?」
屋敷にいた他の男に尋ねてみる。彼らは便宜上売り子とよばれている春売りで、藤滝が連れてきた男たちの実際の相手をする。
青年はというと、まだ客を取らせたことはなく、大勢の客たちの前でなぶられるショー用と呼ばれる春売りをさせられていた。
「何ってほら」
彼が見せてくれたのは。
「これって……」
個包装された菓子が一つ、二つ、三つ。
「クッキーだよ。何やら今日はお菓子を配る祝祭らしいんだ」
「へ、へぇ?」
「使用人たちが朝から配っていたよ」
「そうなのか?」
「なにせ、まぁ今日は客の相手をしなくていいからね。気軽なもんだ」
「へ!? でも、家敷に誰か入ってきてたぜ!?」
「ああ、主さまのご友人さまたちらしいぞ。知らないのかい? 今日は全館休日だ」
休日に人を呼ぶのか……。どこか違和感が拭えない。
しかし、屋敷の中に暇な奴らばかり、うろつかれるのは隙を見て逃げ出すのに都合が悪い。
「きみも、もらっておいでよ。甘くて美味しいぞ。せっかくだからあげようか?」
「いや、いい」
「ふーん」
それにしても。
絶対に何かあるぞ。青年は藤滝の考えそうなことに必死で思いを巡らせた。
そのとき。
「むぐっ!?」
青年の口に強引にクッキーが押し込まれた。彼はそれを咀嚼して飲み込んだ。
「芹那! お前、一体、なんで!?」
突如、青年の前に現れ、その口にクッキーを押し込んだ者の正体は、この屋敷で売り子をしている芹那だった。
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