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✿松宮くんと氷の山
1.
しおりを挟む門倉史明、二十六。絶賛、困惑中。
原因はとあることあって知り合った松宮侑汰なる人物のせいである。彼の正体は、今をときめく少女まんが家・松葉ゆう氏。瑞々しく可憐な絵柄と派手なストーリー展開、はちゃめちゃな設定ですらうまく操れる、そんな作家の本性はただの暴走人間であるというのが門倉の意見だ。
どこが暴走しているのか。すべてだといってしまえばそれでいいのだが、快楽に弱い部分や、やたらだらしない部分。それでいて綺麗好きという矛盾した性格。やたらめったら周囲に甘える性格。エトセトラ。
とにかく門倉としてはこの松宮侑汰ただものならぬ彼に近づくときは要注意であるとわかっていた。しかし、なにかと気になって彼に会いに来てしまうのだから自分は重症かもしれない。門倉の脳は日々増えていく頭痛の種に悩まされていた。
そして今回、松宮侑汰の自分中心人間っぷりを目撃して辟易しているのである。
「これ、なんだよ」
松宮邸を訪問した門倉はまず絶句した。頭の中で処理が追いついてから彼に尋ねる。
「何って、かき氷です」
そう言いながら彼が手に持っているのはスプーンと苺と銘打たれたシロップの瓶だった。
「いや、あの、かき氷ってもっとこう……」
「いいですね、夏の風物詩」
「いや。秋なんだけど。いま絶賛秋なんだけど」
「いいじゃないですか、食欲の秋。ま、食べるの、門倉さんと俺なんだけど」
「ハァ!?」
門倉の目の前にそびえたつ氷山、ならぬかき氷に彼は対峙した。その大きさ、いや標高四十センチくらい。いったいどのくらい氷を削って作ったのか。ダイニングテーブルの上に置かれた巨大な半径十五センチくらいの皿の上にどっしりとそれは構えている。
「砂場でこれ、みたことがある。ガキがつくるお山だよな」
「さ、ふたりで愛のトンネル開通しましょうね」
「しねぇよ」
「え……そんな」
急に松宮が恥ずかしそうに目線を逸らした。
「そんな……門倉さんがかき氷より俺のトンネルを開発したいだんて……」
「言ってねぇ、言ってねぇから!! それなら俺ァかき氷のほうが断然マシです!!」
「じゃ、いただきましょう」
「なんで!? 腹壊すぞ、これ、絶対」
「でも、削っちゃったんだもん」
「可愛く言えば何でも許してもらえると思ってるだろ、お前」
「そんなことないもん」
「つーか、なんで夏にやらないんだ?」
「夏だとすぐ溶けちゃうので。ちなみに真冬に暖房切って、かき氷チャレンジした時はこの高さの二倍いけましたね」
「……お前、食べたのか?」
「いいえ、アシスタントさんに食わせました。給料減らすぞって魔法のことばですよね」
「……だから逃げられまくるんじゃないか」
「さ、門倉さん、一気にいきますよ!」
「自分に不都合な話になった途端、勢いでごまかそうとするな。あと、一気に食べるとキーンとくるぞ」
「そんな心配はございません。山頂付近の雪は当店自慢の極砕削り機で削りました。きめ細かな氷となっているため、頭痛起きるどころかふんわり触感が楽しめます。ま、麓のほうは荒削りなのでキーンとしますが」
「え、何? 削り方二種類あるの?」
「ええ、一応うちに三台削り機あるんですが、それぞれ削りでてきた氷の感触が違うので」
「無駄に財力を使うな、財力を」
「さ、早くしないと溶けちゃうので。やん、切ない」
「何が切ないだよ。たっくよぉ」
「ああ、上のほう、もう溶けて来てる! 早く食べてください! やっぱもっと涼しくなってからじゃないとだめかな」
「お前が食え!!」
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