松宮くんと氷の山

阿沙🌷

文字の大きさ
上 下
1 / 2
✿松宮くんと氷の山

1.

しおりを挟む

 門倉かどくら史明ふみあき、二十六。絶賛、困惑中。
 原因はとあることあって知り合った松宮まつみや侑汰ゆうたなる人物のせいである。彼の正体は、今をときめく少女まんが家・松葉しょうようゆう氏。瑞々しく可憐な絵柄と派手なストーリー展開、はちゃめちゃな設定ですらうまく操れる、そんな作家の本性はただの暴走人間であるというのが門倉の意見だ。
 どこが暴走しているのか。すべてだといってしまえばそれでいいのだが、快楽に弱い部分や、やたらだらしない部分。それでいて綺麗好きという矛盾した性格。やたらめったら周囲に甘える性格。エトセトラ。
 とにかく門倉としてはこの松宮侑汰ただものならぬ彼に近づくときは要注意であるとわかっていた。しかし、なにかと気になって彼に会いに来てしまうのだから自分は重症かもしれない。門倉の脳は日々増えていく頭痛の種に悩まされていた。
 そして今回、松宮侑汰の自分中心人間っぷりを目撃して辟易しているのである。
「これ、なんだよ」
 松宮邸を訪問した門倉はまず絶句した。頭の中で処理が追いついてから彼に尋ねる。
「何って、かき氷です」
 そう言いながら彼が手に持っているのはスプーンと苺と銘打たれたシロップの瓶だった。
「いや、あの、かき氷ってもっとこう……」
「いいですね、夏の風物詩」
「いや。秋なんだけど。いま絶賛秋なんだけど」
「いいじゃないですか、食欲の秋。ま、食べるの、門倉さんと俺なんだけど」
「ハァ!?」
 門倉の目の前にそびえたつ氷山、ならぬかき氷に彼は対峙した。その大きさ、いや標高四十センチくらい。いったいどのくらい氷を削って作ったのか。ダイニングテーブルの上に置かれた巨大な半径十五センチくらいの皿の上にどっしりとそれは構えている。
「砂場でこれ、みたことがある。ガキがつくるお山だよな」
「さ、ふたりで愛のトンネル開通しましょうね」
「しねぇよ」
「え……そんな」
 急に松宮が恥ずかしそうに目線を逸らした。
「そんな……門倉さんがかき氷より俺のトンネルを開発したいだんて……」
「言ってねぇ、言ってねぇから!! それなら俺ァかき氷のほうが断然マシです!!」
「じゃ、いただきましょう」
「なんで!? 腹壊すぞ、これ、絶対」
「でも、削っちゃったんだもん」
「可愛く言えば何でも許してもらえると思ってるだろ、お前」
「そんなことないもん」
「つーか、なんで夏にやらないんだ?」
「夏だとすぐ溶けちゃうので。ちなみに真冬に暖房切って、かき氷チャレンジした時はこの高さの二倍いけましたね」
「……お前、食べたのか?」
「いいえ、アシスタントさんに食わせました。給料減らすぞって魔法のことばですよね」
「……だから逃げられまくるんじゃないか」
「さ、門倉さん、一気にいきますよ!」
「自分に不都合な話になった途端、勢いでごまかそうとするな。あと、一気に食べるとキーンとくるぞ」
「そんな心配はございません。山頂付近の雪は当店自慢の極砕削り機で削りました。きめ細かな氷となっているため、頭痛起きるどころかふんわり触感が楽しめます。ま、麓のほうは荒削りなのでキーンとしますが」
「え、何? 削り方二種類あるの?」
「ええ、一応うちに三台削り機あるんですが、それぞれ削りでてきた氷の感触が違うので」
「無駄に財力を使うな、財力を」
「さ、早くしないと溶けちゃうので。やん、切ない」
「何が切ないだよ。たっくよぉ」
「ああ、上のほう、もう溶けて来てる! 早く食べてください! やっぱもっと涼しくなってからじゃないとだめかな」
「お前が食え!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件

水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて── ※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。 ※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。 ※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

笑って誤魔化してるうちに溜め込んでしまう人

こじらせた処女
BL
颯(はやて)(27)×榊(さかき)(24) おねしょが治らない榊の余裕が無くなっていく話。

その関係はこれからのもの

雨水林檎
BL
年下わんこ系教師×三十代バツイチ教師のBL小説。 仕事中毒の体調不良、そんな姿を見たら感情があふれてしまってしょうがない。 ※体調不良描写があります。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

処理中です...