膝小僧を擦りむいて

阿沙🌷

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「あの、伊東さん」
 テレビ局の控室にて、新崎はマネージャーを呼び止めた。
「どうしましたか?」
「真剣に聞きたいことがあって」
「はい」
「俺ってどういう人間だと思いますか?」
「ど、どうって……」
「正直に言ってしまっていいので」
「じゃ、じゃあ、素直な人、ですかねぇ」
「素直ですか?」
「真面目だし、やること、きっちりやるし……でも、少し間抜けですよね」
「え?」
「今日、靴下左右違うのを履いてきたじゃないですか」
「そっ、それは!! ほらもう、途中で履き替えたからいいんです!!」
「いや、水に流すのにはあまりにも盛大なミスなので……」
「ああ、もう、それは!! 朝から幸せすぎて、頭が馬鹿になっていたんですから!!」
「昨日の撮影でぶっ転んだのに?」
「水~! ジャージャーしてぇぇ!」
「はいはい」
 ここで新崎は話題を切り出した。
「俺、このままでもいいですかね?」
「え?」
「頑張ってかっこいい俳優、目指していたんですけど……俺、俳優・新崎迅人でもありながら、人間・新崎迅人でもあるんですよ」
「そりゃあ、役者だって人間ですから」
「二枚目路線っていうのが嫌なんじゃなくて、本当に頑張りたいことに全力を注ぎたいから、頑張らなくちゃって思っていることに対して、少し肩の力を抜きたいと思うのですが……伊東さん……どう思います?」
「ど、どうって……」
 伊東は、少し逡巡してから、それでもはっきりと伝えた。
「確かに新崎さんは二枚目プッシュして売るつもりですが、演技以外の面でギャップがすごいのでそこ込みだったんですよ?」
「は?」
「いや、確かにかっこよくしていてくださいとは何度もお願いしていましたが、素の状態ではかっこよくしていただいても、どこかに粗が出るのはもう明白だったので」
「それって……あー、もう、いいや、忘れよ。水に流して、どこまでも行ってしまえ」
 傷のかさぶたが消えてなくなるころ、それも川のように流れて海にまで消え去ってしまった。

(了)

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