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「なら、良かった。……バラエティは嫌って言われたらどうしようと思った」
「え?」
「あ、ああ。じゃあ、えっと、他に聞きたいこと、あったら後でにしてくれる?」
「あ、はい」
「それじゃあね」
ぷつんと切れた通話の余韻。
あれはいったいどういう意味だ、と新崎は立ち尽くす。
バラエティは嫌となったら……つまりは、そういうことか。
自分であれほど貪欲にやってやると心に決めていたが、目の前に現実がひょっこりと現れた途端に少し、心に傷がつく。それほどにも弱い心でこの仕事を選んだのか、と自分で自分をあざ笑いたくなるくらいに。
「まあ、そうだよなぁ」
自分で自分を見ても、半分タレント化しているのは、わかる。ドラマの仕事だけをしているわけではない。それに役をもらえているのだって、自分の演技が認められているというのもあるかもしれない。だが、それだけではないのだ。
「華になればいい。とにかく一時だけでも、顔が売れるんだから」
口に出してみる。それで、余計に落ち着かなくなる。
「あー、くそ」
新崎は、ばたりとベッドに倒れ込んだ。
どうしようもない不安感。
それは将来に向けて、現在に向けて照射される。このままでいいのか。このままで――。
食えなくなる危機感は常にあったほうがいい。上に行くための向上心も必要だ。役を得るための飢餓感だって。
けれど、これは、たぶん、つらいことなのだ。
前を向いて、ただそれだけを目指して果てしない道をひとりゆくということが。
そういうのを自然にこなせてしまう一握りの存在と、自分の間にある大きな溝はきっとここにある。
ひとりになれば不安が襲う。答えがない。自分の選択一つ一つで決まる世界。
どうやってやっていくのかも、どうやって生きていくのかも、みんなグレーのグラデーションの中からひとつを選んで、つまりはそれ以外の選択肢のすべてを捨てて、そうでなくては進めない世界。
前に行きたいのには理由がある。上を目指したいのにも。
だからこそ、怖い。
登っている坂の途中で、転がり落ちてしまうことが。もう二度と登れなくなってしまうことが。
「え?」
「あ、ああ。じゃあ、えっと、他に聞きたいこと、あったら後でにしてくれる?」
「あ、はい」
「それじゃあね」
ぷつんと切れた通話の余韻。
あれはいったいどういう意味だ、と新崎は立ち尽くす。
バラエティは嫌となったら……つまりは、そういうことか。
自分であれほど貪欲にやってやると心に決めていたが、目の前に現実がひょっこりと現れた途端に少し、心に傷がつく。それほどにも弱い心でこの仕事を選んだのか、と自分で自分をあざ笑いたくなるくらいに。
「まあ、そうだよなぁ」
自分で自分を見ても、半分タレント化しているのは、わかる。ドラマの仕事だけをしているわけではない。それに役をもらえているのだって、自分の演技が認められているというのもあるかもしれない。だが、それだけではないのだ。
「華になればいい。とにかく一時だけでも、顔が売れるんだから」
口に出してみる。それで、余計に落ち着かなくなる。
「あー、くそ」
新崎は、ばたりとベッドに倒れ込んだ。
どうしようもない不安感。
それは将来に向けて、現在に向けて照射される。このままでいいのか。このままで――。
食えなくなる危機感は常にあったほうがいい。上に行くための向上心も必要だ。役を得るための飢餓感だって。
けれど、これは、たぶん、つらいことなのだ。
前を向いて、ただそれだけを目指して果てしない道をひとりゆくということが。
そういうのを自然にこなせてしまう一握りの存在と、自分の間にある大きな溝はきっとここにある。
ひとりになれば不安が襲う。答えがない。自分の選択一つ一つで決まる世界。
どうやってやっていくのかも、どうやって生きていくのかも、みんなグレーのグラデーションの中からひとつを選んで、つまりはそれ以外の選択肢のすべてを捨てて、そうでなくては進めない世界。
前に行きたいのには理由がある。上を目指したいのにも。
だからこそ、怖い。
登っている坂の途中で、転がり落ちてしまうことが。もう二度と登れなくなってしまうことが。
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←前作「チョコレートのお返し、ください。」
✿シリーズ一覧>>>1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
✿掌編>>>白髪ができても
✿シリーズ一覧>>>1.delete=number/2.目指す道の途中で/3.追いつく先においついて4.ご飯でもお風呂でもなくて/5.可愛いに負けてる/6.チョコレートのお返し、ください。/6.膝小僧を擦りむいて
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