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✿after
◇観察者の疑惑
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「絶対、上!」
「いーや、下だからね!」
あたしはみやちゃんと討論になった。
昼休み。弁当も食べずにあたしたちは、隣の教室を覗いている。目的はこの二人。
明るくて元気なクラスのムードメーカー的存在の飯田紳二と、都会からの転校生、普段は寡黙でクールな木村柚希。
あたしとみやちゃんは、趣味が同じというか似ている、というか同じなんだけれど向いているベクトルが若干違うというか……ええい、正直に云って……下半身の方向性が違うのだ。語弊を招いたかもしれないので、ちゃんとした言葉で説明しよう。
あたしとみやちゃんは、その――男の子が二人いればそれだけで白米を百杯くらい胃袋にかき込むことが出来るというか、一時間でも二時間でも妄想できるし、時間すら忘れて語り合える。そういう関係。
で、最近、気になっているターゲットが先ほどのお二人。
なかよくランチタイムの二人の言動を観察すること、これがあたしたちの生命力となるごはんであり、妄想のおかずなのだ。
「お、ほら、今、あーんした」
「ほら、絶対に木村は受けだって」
「なに言ってんの! どう考えたって、ここは……」
あたしは、自分の妄想を話そうとした瞬間、始業のベルが鳴り響き、それはやむなく中断せざるをえなくなってしまった。完全に消化不良だ。
◇◆
「あーあ、せっかくナイスシチュエーションだったのになぁ」
結局その後、あたしの妄想を語る機会はなく、ひとり虚しく帰路につく放課後。
みやちゃんと違って、あたしは木村攻めの飯田受け派。
明るくて悪くいえば単純で子供っぽい、そんな飯田が出会ったのが、孤独な転校生・木村。うん、この構図だけでご飯五十杯くらいいける。
その朗らかさと純粋さにカチコチに凍っていた木村の心が溶け出して――そう、攻めから好きになる。これぞ必勝の手。
「おい、高梁」
誰だ、妄想の時間を邪魔するのは。名前を呼ばれて振り向けば、そこに立っていたのは――飯田本人だった。
「げっ」
「げってなんだ、げって」
「いや、何でもないです」
にこにこといつもの微笑をたたえる飯田は、可愛げのある大きな瞳でまっすぐにあたしを見てくる。その眼球に真剣さが浮かんでいるのが垣間見えた。
「今、ちょっといいか?」
「え、いいけど」
そう言うと、飯田があたしの隣にまで早足で間を詰めた。
「あのさ、単刀直入に言うけど、木村……くん、いるじゃん」
「あ、おう、いるね」
どっと増す心臓の音。いけない、ネタにしていたことがバレてしまったか?
「最近よくあいつのこと見てるだろ、なあ、どう思ってんの?」
「どうって?」
「だから、可愛いとか、す、すきぃみたいな、あの、そーいう」
飯田のぎこちない笑顔に気が付いて、これはまずいぞ、とあたしは覚悟を決めた。女には腹をくくらねばならない時もあるのだ。
「ごめん、めっちゃ好き」
「!?」
「そういうのが好きなの、本当にごめん。漫画とか小説とかの中で我慢できたら最高なんだろうけれど、周囲の人からでも、萌えられるたちみたいで」
言った後で、あ、これはやばかったなと反省――しようとしたが、その間も与えずに飯田に強く肩を揺さぶられた。
「まじか!!」
その必死そうな表情はいままで一度も見たことがない。
「くっそ、だめだ!! やっぱり好きだ! オレ、いくら可愛い女子だろうと、あいつは絶対、渡せない!! ……あっ」
怒涛にまくしたてた後、何かに気が付いたように我に返る飯田。
「しまった!! 付き合っているのは秘密にしなくちゃで、ああ、くっそー!!」
訳もわからず、目を白黒させているうちに、飯田は苦悶の表情に様変わりしていた。
「とにかく、高梁! いろいろあって木村はやめとけ。やめないと、多分枕元にオレが立つ!」
どんな脅しだよ。
って、えっ?
尋ね返そうとしたが、「それじゃあ」と早口に言って飯田の姿は遠くに消えてしまった。
逃げ足の速い――というよりも、え?
友達以上恋愛未満な二人だと思っていた。だから勝手に妄想のネタにしていたし、すごく楽しく観察させていただいておりましたけれど――。
もしかして、本当だったの?
(了)
「いーや、下だからね!」
あたしはみやちゃんと討論になった。
昼休み。弁当も食べずにあたしたちは、隣の教室を覗いている。目的はこの二人。
明るくて元気なクラスのムードメーカー的存在の飯田紳二と、都会からの転校生、普段は寡黙でクールな木村柚希。
あたしとみやちゃんは、趣味が同じというか似ている、というか同じなんだけれど向いているベクトルが若干違うというか……ええい、正直に云って……下半身の方向性が違うのだ。語弊を招いたかもしれないので、ちゃんとした言葉で説明しよう。
あたしとみやちゃんは、その――男の子が二人いればそれだけで白米を百杯くらい胃袋にかき込むことが出来るというか、一時間でも二時間でも妄想できるし、時間すら忘れて語り合える。そういう関係。
で、最近、気になっているターゲットが先ほどのお二人。
なかよくランチタイムの二人の言動を観察すること、これがあたしたちの生命力となるごはんであり、妄想のおかずなのだ。
「お、ほら、今、あーんした」
「ほら、絶対に木村は受けだって」
「なに言ってんの! どう考えたって、ここは……」
あたしは、自分の妄想を話そうとした瞬間、始業のベルが鳴り響き、それはやむなく中断せざるをえなくなってしまった。完全に消化不良だ。
◇◆
「あーあ、せっかくナイスシチュエーションだったのになぁ」
結局その後、あたしの妄想を語る機会はなく、ひとり虚しく帰路につく放課後。
みやちゃんと違って、あたしは木村攻めの飯田受け派。
明るくて悪くいえば単純で子供っぽい、そんな飯田が出会ったのが、孤独な転校生・木村。うん、この構図だけでご飯五十杯くらいいける。
その朗らかさと純粋さにカチコチに凍っていた木村の心が溶け出して――そう、攻めから好きになる。これぞ必勝の手。
「おい、高梁」
誰だ、妄想の時間を邪魔するのは。名前を呼ばれて振り向けば、そこに立っていたのは――飯田本人だった。
「げっ」
「げってなんだ、げって」
「いや、何でもないです」
にこにこといつもの微笑をたたえる飯田は、可愛げのある大きな瞳でまっすぐにあたしを見てくる。その眼球に真剣さが浮かんでいるのが垣間見えた。
「今、ちょっといいか?」
「え、いいけど」
そう言うと、飯田があたしの隣にまで早足で間を詰めた。
「あのさ、単刀直入に言うけど、木村……くん、いるじゃん」
「あ、おう、いるね」
どっと増す心臓の音。いけない、ネタにしていたことがバレてしまったか?
「最近よくあいつのこと見てるだろ、なあ、どう思ってんの?」
「どうって?」
「だから、可愛いとか、す、すきぃみたいな、あの、そーいう」
飯田のぎこちない笑顔に気が付いて、これはまずいぞ、とあたしは覚悟を決めた。女には腹をくくらねばならない時もあるのだ。
「ごめん、めっちゃ好き」
「!?」
「そういうのが好きなの、本当にごめん。漫画とか小説とかの中で我慢できたら最高なんだろうけれど、周囲の人からでも、萌えられるたちみたいで」
言った後で、あ、これはやばかったなと反省――しようとしたが、その間も与えずに飯田に強く肩を揺さぶられた。
「まじか!!」
その必死そうな表情はいままで一度も見たことがない。
「くっそ、だめだ!! やっぱり好きだ! オレ、いくら可愛い女子だろうと、あいつは絶対、渡せない!! ……あっ」
怒涛にまくしたてた後、何かに気が付いたように我に返る飯田。
「しまった!! 付き合っているのは秘密にしなくちゃで、ああ、くっそー!!」
訳もわからず、目を白黒させているうちに、飯田は苦悶の表情に様変わりしていた。
「とにかく、高梁! いろいろあって木村はやめとけ。やめないと、多分枕元にオレが立つ!」
どんな脅しだよ。
って、えっ?
尋ね返そうとしたが、「それじゃあ」と早口に言って飯田の姿は遠くに消えてしまった。
逃げ足の速い――というよりも、え?
友達以上恋愛未満な二人だと思っていた。だから勝手に妄想のネタにしていたし、すごく楽しく観察させていただいておりましたけれど――。
もしかして、本当だったの?
(了)
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