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✿after
◇キャラメルよりもくっついて
しおりを挟む箱の中にぎっしり詰まった四角形。
紙の包みを開けばお菓子が顔を出す。
キャラメルだ。
「飯田、よくそんなもん食うよな」
呆れた口調で木村がオレに言う。
現在、昼休み中。
教室の中に入ってくる風も爽やかに季節を香らせている。
四季と同じようにオレたちの関係も冷たい冬を抜け、春は初夏に差し掛かろうとしていた。
「え、なんで?」
問い返してみれば、彼と視線が交差する。
それを恥ずかしそうに木村はさっと目をそらした。
「べたべたしない?」
木村の発言に急に心拍数が上がった。
おそらくそういった意味の言葉ではないと思うのだが、少しからかってみようとオレはわざと声のトーンをあげて答えた。
「うわぁ、木村君、えっちぃ!」
「はぁっ!? いや、えっ」
木村の瞳は大きく見開かれ、慌てた様子で手のひらを拳にしたりパーに開いたりを何回も高速で繰り返した。
木村が真っ赤になる様子はなんだか可愛くて、オレの口角が自然と緩やかなカーブを描いていくのを止めることが出来なかった。
「あれ? 違った?」
「ち、違うって……」
「だから、べたべたしないっていうお誘いなのかなと思ったんだけど」
と、言って見せながら、ちょっと肩の位置を下げて、瞳は上目使いで彼を見上げてみれば、彼は言い淀んで何も言い返せなくなる。
彼の頭は「どうしたらいいんだろう」でいっぱいになっている。
だが、すぐその緊張状態は堰を切って溢れ出してきて、
「う、うるさい! いきなりそんな話するなよ! こんな真昼間に!」
大声をオレにぶつけた。
だが、間髪を淹れずにチャイムが鳴って昼休みも終了した。
「べたべたって、そういう意味じゃないから」
放課後、オレと木村はいつものように一緒に下校していた。
「うん、知ってた。キャラメルのことだよね」
「知っ……か、からかってたのかよ! 馬鹿!」
オレの背中を木村がぽかぽかと叩く。
痛くはないが何だかこそばゆくてたまらない。
それからオレたちはキャラメルが歯にくっつきにくくなる食べ方についての話題で盛りあがった。
だがその話題もつきると沈黙が二人を包み込んだ。
しばらくの間、木村は何かを考えていたみたいだったが、考えがまとまったのか口を開いた。
「しよ」
「へ?」
「今日、俺んち、家族、夜になるまで帰らないから……べたべた、とか、どうよ?」
オレはつばをごくりと飲み込んだ。今度のは間違いがないだろう。
真っ赤になりながら、俺の手をぎゅっと握って木村は言ったのだ。
その仕草に胸が苦しくなってしまった。
うるさく騒ぐオレの心拍の音が彼に聞こえていなければいいのだが。
「お言葉に甘えて!」
オレは満面の笑みでそう答えた。
(了)
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