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ride
しおりを挟む番という特殊な関係を繋ぐことが出来るのは、αとΩだけだ。
αのヒートを沈め、救うことが出来るのもΩだけ。αが好きになるのもΩだけ。
「好きだ」
彼の言葉が放たれた先にいるのは自分であってはならない。分かっているのに、拒めなかった――。
✿
都心部から三十分。
βの居住区間でもある閑静な住宅街にぽつんと民家風の淹れたてコーヒーの美味しいと評判のワッフル店。
「最近、男らしくなりましたねぇ」
「え、そう?」
休憩中、アルバイトの一人に声をかけられ、木場はドキリと胸を弾ませた。
うら若き女性相手ならお世辞でも嬉しいと思ってしまうのが、木場正章という人間だ。
だが、次の言葉に木場はたじろいだ。
「もしかして、彼女とかできました?」
まさに確信を得ているような発言だ。
男女の違いはあるが、一か月前から木場はある男性と恋愛関係にある。
ハートのキングの名は楠八重伊皇。
木場とは幼い頃からの親友で、その正体はαだ。
警視庁は警視庁でも、バース関連の事件を扱う専門の捜査官らしい。
なんと言葉を返したらいいのか必死に答えを探していると、表から聞きなれたエンジン音が聞こえてきた。
「おい、キバ。迎えに来たぞ」
店の扉を開くと鳴るベルの音色と共に、低いトーンの彼の声。
楠八重が立っていた。
✿
「ちぇっ、なんだよ、さっきまで俺のこと、どうこう言ってたのに、イオが来たらすぐにイオに釘付け」
「妬いちゃうからそういう話はパスな」
「は? 妬く? 誰に?」
「さっきの女の子たち。ほら、早く乗って」
木場はヘルメットに頭を通して楠八重の後ろにまたがった。
お尻の下で彼のバイクが発進を待ちながら震えているのを感じる。
掴まってと、楠八重に言われて腰に手を回そうとした。
だが、その手は宙に浮いたまま固まってしまう。
「どうした?」
「あ、いや……なんでもない」
慌てて、楠八重にしがみつく。
彼のライダースの素材感を通して、彼の体型を実感する。
「やっぱり、また痩せた」
思わず口に出してしまい、慌てて楠八重の表情を確認した。
ヘルメットが邪魔してそこから感情を読み取ることは出来ない。
「……イオ?」
「行こうか、キバ」
楠八重がアクセルをかけた。
バイク内部の爆発は推進力に変り、愛の巣へと加速していく。
過酷な職場なのだと聞く。
αはΩのヒートに巻き込まれるように発情する。
オメガ犯罪を取り締まる仕事をしていては、Ωへの接触回数も多いだろう。
ヒートに巻き込まれる危険性だってある。
エリートコースを歩むαはすぐに昇進して現場から離れるらしい。
けれど現場を好む楠八重のようなαにとって時には本能と戦わなければならない局面だってある、そういう職場。
心労のせいだろうか、だんだんとやせ細っていく楠八重の姿は痛々しい。
なんで、俺なんだろうな。俺は特別じゃない。
ただのβなのに。
自分じゃ、彼の何になることも出来ないのが、歯がゆくて悔しくて、彼に回した手に力を入れた。
(了)
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