夏とラムネ

阿沙🌷

文字の大きさ
上 下
1 / 1

夏とラムネ

しおりを挟む
 今日こそは、だなんて思いながら、その日を先送りにしてきた。好きなひとに、好きと伝えることを。
 それが、きっと、こいつじゃなかったら、まだ、よかった。

「なあ、最近、どうかした?」
 部活終わりに通学路。方向が一緒だから、途中まで一緒に帰る彼が尋ねてきた。
「え? なにが」
「いや、いいんだ。なんでもないなら」
「は?」
 もしかして、洩れてた? 友だちにしては、ちょっと、な感じだった?
 不安になる。
 俺の好きなひとは、こいつだからだ。
 同級生。
 で、男だし。
 しかも、こいつ、意外とモテる。引く手あまた。
 もし、こいつ、俺がお前のことをそういう目で見ていたって知ったら、どう思うんだろうか。今までと同じようにならんで帰れたりするのだろうか。
「あっ! 寄り道していこ!」
 急に方向転換したと思いきや彼は速足で、コンビニの中に消えていった。晩飯までのつなぎに、何か腹に入れるつもりらしい。
「おい、待てよ」
 俺は、慌てて彼の後を追った。
「なあ、コレ、懐かしのってやつじゃね?」
 他の飲料と一緒に並んでケースの中に置かれてあったのは、ガラス瓶に入ったラムネだった。栓にビー玉が使われているタイプ。
「おっしゃ、これだ!」
 菓子パンと一緒にラムネ瓶を抱えた彼がレジに直行していく。
「おい、ちょい待てって」
 俺は彼がなぜかラムネ二本掴んだのを見て、その背中を追いかけた。
 支払いがすんで、また帰路に戻る。しかし、問題はここから。
「開けられない」
 ラムネをしばらく格闘したのち、彼が言ってきた。
「かしてみ」
 俺は彼から瓶を受け取ると、そのまま栓を開けてやった。
「うわ、すげえ」
 泡の音。瓶のくぼみに、ビー玉がはまって静かに揺れている。
 彼は嬉しそうに俺からそれを受け取ると、そのまま口をつけた。彼の細い首、のどぼとけが上下した。
「はー、やっぱ夏はこれだな」
 うへへっと笑い出す彼を横目に、俺も彼買ってくれた自分のぶんの瓶を開けた。
 しゅわっと音がたつ。それから、夏の香り。そして――。

 決してでられることのない、隙間のなかで、揺れ動く。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...