七月の花とBLの掌編

阿沙🌷

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✿7.9:擬宝珠

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 彼は口を開かない。「無駄口」「雑談」の類を一切感じさせない彼はどこか不思議な雰囲気を持っていた。
「なあ、今度、あいつにものしゃべらせてやろうと思うんだけど」
 友人同士で固まって下校する際中、たからが話題を切り出した。
「あいつ?」
 分からないとばかりに友人が小首をかしげる。
「だからさ、あいつ。窓側の一番後ろ」
「ああ、たまきってやつか」
「うん。滅多にしゃべらんじゃん、あいつ」
「まあな。静かなやつだな」
「そいつに『ぎゃん』と言わせてみようと思って」
 胸張って言い張る宝に友人たちの寄せた視線はどこか白々しかった。
「いや、ほっとけよ。ひとりでいるのが好きなやつにお前みたいなうるさいやつ、当てたらかわいそうじゃん」
「えー、なんでや」
 それでも絶対、決行する。
 そう心にとめた宝であった。

「なあ、こんちゃ!」
 翌朝早々、肺にいっぱい空気を溜めて緊張をほぐすと、彼に話しかけた。
 机について大人しく座っている珠は、話しかけてきた宝の相手が自分だとは思わなかったらしい。他人のことのようにスルーする。それが、宝に火をつけた。
「なあ、珠、お前に話しかけてんだけど」
 宝の発言に自分の名前がでて驚いたように目を丸くした珠の反応に気をよくしたように宝は目を細めた。
 いける。
 謎の自信がどこからか湧き上がってくる。宝はぎゅっと掌を握りしめて自分を鼓舞する。
 いける……!
「いつもお前、大人しいからさ、何考えているかわかんなくて、ミステリアスでかっこいいよな」
 まずは相手を褒め認める作戦だ。
 そう思って発言したのだが、珠の反応はあまりよろしくない。
「え、あれ? 俺、間違えた?」
 落ち込むように肩を落とした珠に戸惑って、うっかり口を滑らせてしまう。
「あ、いや、なんていうか。あれ?」
「だめか」
 ぼそっと聞こえてきたのは、低いトーンの男声だった。そこかかすれていて、無理に音を出しているような苦しさがある。
「俺、ようやく声変わり来たの。やっぱりしゃべらないと妙か?」
「え、ま、まじか⁉」
 大人しい同級生の秘密を知ってしまい宝は小さく飛び跳ねた。
「いやいやいや、全然、そんなことない。むしろ、いい。な、いいじゃん。俺たち、友達、やろうぜ」
 勢いのまま交友を求めてくる宝の一直線な行動に珠は、くすりと口元をゆるませた。

✿7月9日:
擬宝珠ぎぼうしHosta
 花言葉「沈静」から物静かさんを主人公に据えて――と思ったのですが、なんだかんだでこうなりました。わあああ。
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