夏の出口

阿沙🌷

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「ねえ。たけ」
「ん?」
 井宮がそっと話しかけた。
「あの日のこと、覚えてる?」
「へ?」
「ほら……たけが俺のこと、好きって言った日」
 どっと、心臓が鳴った。
 もう、花火の音すら聞こえない。
 急に喉が渇いてきて、俺は、何かを言おうとして開けた口をそのままぱくぱくさせるだけだった。
 何も、言えない。
 何も――。
「俺さ、その――、ごめんな」
 井宮は頭をさげた。
「ず、ずっと、言わなくちゃ、謝らなくちゃって思ってて――さ」
 何を、言っているのだ。
 目の前の井宮が急に遠いところにいるいたいになって、俺は茫然とした。
「俺、さ――本当は」
「あはは、そんなこともあったね!」
 俺はあわてて大声をだした。
「なっつかしー! 若気のいたりってやつじゃんか! あはは、で、俺、どうしたんだっけ。もう、覚えてないや!」
「たけ……、あ、そうだよね。ごめん」
「なんだよ、今日は謝ってばかりだな」
「……っ」
 つーっとそれが、井宮の頬を流れていった。
「え……」
 一度あふれて、もうとまらなくなったそれが、ずっと井宮の瞳から流れてくる。
「ど、どうしたんだよ。おいっ」
「だ、だって……」
「たっく、気持悪いなら、俺なんかと付き合うなよ」
「え?」
「昔、好きって言って来た男なんか、無視してろってこと」
「……たけは気持ちわるくなんか……っ」
「無理しなくていいから。ごめんな。ずっと、俺、井宮のこと、傷つけてたんだな」
「ち、違う!」
 泣きながら言われても、困る。
 俺は、そっと彼の背中に手をまわそうとして、あわてて、その手をひっこめた。
「たけ、あのさ」
「なんだよ」
「俺、俺も――」
 どんと、一際大きく花火が舞った。
「へ……?」
 鼓膜をゆらした振動に、俺の心臓が弾けた。
「な、なんて……ばか。そういう冗談はよしてくれ」
 俺は動揺をかくそうと必死だった。だけれど、井宮はそんな俺を逃がそうとは思わなかったらしい。必死に俺の服のすそを握りしめて、俺を捕えた。
「本当、だから」
「お、おい、それって……意味、わかってんのか? なあ」
「ま、まじでわかってる」
「おい……」
 ひゅ~と打ち上げの音が響き渡る。
 井宮が俺に身を寄せて来た。ぐっと距離が縮まる。
 そのまま俺の唇に想いを寄せた。
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