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その日は疲れていた。否、門倉史明が疲れて仕事から帰宅しない日はなかった。
就職活動に失敗し、希望の仕事にありつけなかった門倉だが、現在は塗装屋で生活している。肉体仕事な分、やっぱり疲れる。いつの間か、汗と塗料の匂いが身体に沁みつき、そのことに気が付くたびに、自分は年をとってしまったのだと実感する。
けれど、そんな彼を潤してくれるものはない。一人暮らしをしている家賃が安いだけが魅力的なボロアパート二階の狭いスペースには彼が寝起きに必要なものぐらいしか癒されるアイテムは所持していない。あるのは、寝具と必要最低限の生活用品だけだ。
そんなさびしい我が家へ戻って来た門倉は、普段どおりのルーティーンで鍵穴に鍵を入れた。だが、回らない。
「うそ。かけわすれたのかよ」
ドアはそのまま開いた。朝、出勤する前に鍵を閉め忘れたらしい。空き巣に入られていたらどうしようか。家のなかを点検しなくては、という思いに駆られたが、よくよく考えたら盗まれて困るものなんてこの家にあるだろうか。貴重品は随時携帯するようにしている。とりあえず、確認しなくてはならないのは、通帳と印鑑ぐらいだろう。
急いで室内へと駆け込んだ門倉は、部屋の中で彼の到着を待っていたその物体に直面してフリーズした。一瞬で全身の血の気が引いた。
「……な、な」
釘付けになったまま動かせない門倉の視線の先には、桃色の丸い輪っか状の輪郭がひくひくと蠢いている。
「門倉さぁん、お、か、え、りぃ」
あえて高い声を作って甘ったるい口調で、その物体はぷるりと瑞々しい膚でおおわれたなだらかな二つの丘を揺らしながら、門倉に語り掛けてきた。
犯人の名前はすぐに分かった。顔を見るまでもない。四つ足で膝まづいて尻をおおきく掲げるようなポーズの状態で、伸ばして指先でその桃色が勝った蕾をあられもなく、開かせたまま、ちいさく小刻みに震えるこの異様な醜態を、門倉の知り合いのなかでとることのできる人物を彼はひとりしか知らない。いや、本当のことをいえば、そんな人間とお知り合いになどなりたくなかったのだが。
「……松宮、お前、何をしているんだ」
衝撃的すぎて、固まっていた身体がようやく弛緩してきてくれた。大きくため息をつきながら、門倉は彼に向かって声を発した。
「もう、門倉さんてばぁ。見てわからないんですか?」
「わかるもなにも、異常事態だってことはわかる。玄関開けたら、俺ん家に、大股かっぴらげて、尻穴こちらに見せつけてくる、ド変態がいすわっているんだからな」
「そんなぁ、ド変態だなんて。あ、もしかして、今日はもう既にドエスモードなんですね? やだぁ、昂奮してきちゃう……」
彼の言うとおりに、彼の幹からは透明な液体がとろりと流れ落ちて、フローリングにぽたりと雫を垂らした。
「うわ! 変態! つか、その恰好、やめろよ」
門倉は彼から視線を逸らしながら、叫んだ。
「やぁだです。門倉さんがお帰りになられるまで、大体一時間くらい、このままなんですよ? さっさと入れてください」
「何をだよ!? つか一時間もいたのかよ!! 暇人かよ!!」
「やぁん、ことばで責められるのも、大変おいしゅうございます」
「変態が!!」
「……ああ、それだけで、イっちゃいそう……っ」
ぶるっと、松宮の身体が震えたかと思うと、ぱたぱたと白く粘性のある液体が床に散らばった。
就職活動に失敗し、希望の仕事にありつけなかった門倉だが、現在は塗装屋で生活している。肉体仕事な分、やっぱり疲れる。いつの間か、汗と塗料の匂いが身体に沁みつき、そのことに気が付くたびに、自分は年をとってしまったのだと実感する。
けれど、そんな彼を潤してくれるものはない。一人暮らしをしている家賃が安いだけが魅力的なボロアパート二階の狭いスペースには彼が寝起きに必要なものぐらいしか癒されるアイテムは所持していない。あるのは、寝具と必要最低限の生活用品だけだ。
そんなさびしい我が家へ戻って来た門倉は、普段どおりのルーティーンで鍵穴に鍵を入れた。だが、回らない。
「うそ。かけわすれたのかよ」
ドアはそのまま開いた。朝、出勤する前に鍵を閉め忘れたらしい。空き巣に入られていたらどうしようか。家のなかを点検しなくては、という思いに駆られたが、よくよく考えたら盗まれて困るものなんてこの家にあるだろうか。貴重品は随時携帯するようにしている。とりあえず、確認しなくてはならないのは、通帳と印鑑ぐらいだろう。
急いで室内へと駆け込んだ門倉は、部屋の中で彼の到着を待っていたその物体に直面してフリーズした。一瞬で全身の血の気が引いた。
「……な、な」
釘付けになったまま動かせない門倉の視線の先には、桃色の丸い輪っか状の輪郭がひくひくと蠢いている。
「門倉さぁん、お、か、え、りぃ」
あえて高い声を作って甘ったるい口調で、その物体はぷるりと瑞々しい膚でおおわれたなだらかな二つの丘を揺らしながら、門倉に語り掛けてきた。
犯人の名前はすぐに分かった。顔を見るまでもない。四つ足で膝まづいて尻をおおきく掲げるようなポーズの状態で、伸ばして指先でその桃色が勝った蕾をあられもなく、開かせたまま、ちいさく小刻みに震えるこの異様な醜態を、門倉の知り合いのなかでとることのできる人物を彼はひとりしか知らない。いや、本当のことをいえば、そんな人間とお知り合いになどなりたくなかったのだが。
「……松宮、お前、何をしているんだ」
衝撃的すぎて、固まっていた身体がようやく弛緩してきてくれた。大きくため息をつきながら、門倉は彼に向かって声を発した。
「もう、門倉さんてばぁ。見てわからないんですか?」
「わかるもなにも、異常事態だってことはわかる。玄関開けたら、俺ん家に、大股かっぴらげて、尻穴こちらに見せつけてくる、ド変態がいすわっているんだからな」
「そんなぁ、ド変態だなんて。あ、もしかして、今日はもう既にドエスモードなんですね? やだぁ、昂奮してきちゃう……」
彼の言うとおりに、彼の幹からは透明な液体がとろりと流れ落ちて、フローリングにぽたりと雫を垂らした。
「うわ! 変態! つか、その恰好、やめろよ」
門倉は彼から視線を逸らしながら、叫んだ。
「やぁだです。門倉さんがお帰りになられるまで、大体一時間くらい、このままなんですよ? さっさと入れてください」
「何をだよ!? つか一時間もいたのかよ!! 暇人かよ!!」
「やぁん、ことばで責められるのも、大変おいしゅうございます」
「変態が!!」
「……ああ、それだけで、イっちゃいそう……っ」
ぶるっと、松宮の身体が震えたかと思うと、ぱたぱたと白く粘性のある液体が床に散らばった。
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