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2019
11月③肉まん以上/足の下/乾杯の音/絶叫/出会い/鬼ごっこ/言わば言え
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肉まん以上 2019.11,15
雨。
飛び跳ねる水滴が足元を
濡らして気持ち悪い。
飛び込んだコンビニの
床を湿らせながら、
何か温かいものを探す。
「肉まん一つ」
店員を見て息をのんだ。
「せ、先輩……」
ここでバイトしていたのか。
ずぶ濡れの僕を見て
「大丈夫?」と
その表情だけで胸の奥が熱くなる。
肉まんなんて必要ないくらいに。
足の下 2019.11.16
橋の下に鯉。
それらしいデートスポットに二人。
彼が俺に餌を数粒握らせた。
自販機で買って来たのだろう。
宙に放り投げれば水面に落ちパクンと魚に飲み込まれる。
彼も投げる。
「どうしたらいいんだろうな、恋人って」
「だよな、らしくねぇよな、俺ら」
それでも確かなのは、
足元で恋が泳いでいることだ。
乾杯の音 2019.11.17
「お疲れ」
紙コップに珈琲。
彼と音のない乾杯をする。
「最近、調子良さそうじゃん」
「おい、残業後の俺に言う台詞か?」「残業は俺もだよ」
人気のないオフィスに
胃に流す液体の香りが流れていく。
こんなに遅くまで残れる理由、
君はきっと知らない。
「よっしゃ帰るぞ!」
彼を追って、俺も椅子を立った。
絶叫 2019.11.18
走れ。
飲み込んだ空気は乾いていて
喉の奥を切り裂きながら肺に流れ着く。
心臓も脚も爆発しそうだ。
「先輩ッ」
遠ざかってくバス。
僕の手の届かない場所に行ってしまう。
後部座席の彼が振り返る。
その瞳に写るのは
喘ぐ僕の哀れな姿だろう。
でも、
これだけは
伝えなくてはいけない。
「貴方が好きです‼」
出会い 2019.11.19
たどり着いた改札は開かない。
ICカード入りの財布がないからだ。
慌ててホームに引き返したが
見つからない。
引き返そうとした時、
男の人に声をかけられた。
手に財布。
僕が落とすところを目撃したらしい。
「ま、待ってください」
思わず引き止めてしまう僕は、
いずれこの出会いに
感謝するようになる。
鬼ごっこ 2019.11.20
ベランダに出てみれば、
近所の小学生たちの下校時刻だった。
「昔、俺らもしたよな、帰りながら鬼ごっこ」
いつの間にか隣に彼が。
思い出にうっとりとため息をつきながら柵にもたれかかる。
「俺は大変だったんだぞ。
誰かさんがいつも俺ばかり狙って追ってきたから」
悪びれずに彼は言う。
「昔も、だろ?」
言えば言え 2019.11.21
「暑い!」
歩道橋の上、
彼の声は冷たい風の音をかき消す。
「お前は寒い寒い
言うから寒いんだよ!」
それが口癖になりつつある自覚はある。
でも暑いと言えば温まるのか。
「一緒に叫ぶぞ、せーの、暑い!」
「暑いー!」
のせられて叫んでしまった僕を
羞恥が熱くさせた。
それを見て彼が太陽みたいに笑った。
雨。
飛び跳ねる水滴が足元を
濡らして気持ち悪い。
飛び込んだコンビニの
床を湿らせながら、
何か温かいものを探す。
「肉まん一つ」
店員を見て息をのんだ。
「せ、先輩……」
ここでバイトしていたのか。
ずぶ濡れの僕を見て
「大丈夫?」と
その表情だけで胸の奥が熱くなる。
肉まんなんて必要ないくらいに。
足の下 2019.11.16
橋の下に鯉。
それらしいデートスポットに二人。
彼が俺に餌を数粒握らせた。
自販機で買って来たのだろう。
宙に放り投げれば水面に落ちパクンと魚に飲み込まれる。
彼も投げる。
「どうしたらいいんだろうな、恋人って」
「だよな、らしくねぇよな、俺ら」
それでも確かなのは、
足元で恋が泳いでいることだ。
乾杯の音 2019.11.17
「お疲れ」
紙コップに珈琲。
彼と音のない乾杯をする。
「最近、調子良さそうじゃん」
「おい、残業後の俺に言う台詞か?」「残業は俺もだよ」
人気のないオフィスに
胃に流す液体の香りが流れていく。
こんなに遅くまで残れる理由、
君はきっと知らない。
「よっしゃ帰るぞ!」
彼を追って、俺も椅子を立った。
絶叫 2019.11.18
走れ。
飲み込んだ空気は乾いていて
喉の奥を切り裂きながら肺に流れ着く。
心臓も脚も爆発しそうだ。
「先輩ッ」
遠ざかってくバス。
僕の手の届かない場所に行ってしまう。
後部座席の彼が振り返る。
その瞳に写るのは
喘ぐ僕の哀れな姿だろう。
でも、
これだけは
伝えなくてはいけない。
「貴方が好きです‼」
出会い 2019.11.19
たどり着いた改札は開かない。
ICカード入りの財布がないからだ。
慌ててホームに引き返したが
見つからない。
引き返そうとした時、
男の人に声をかけられた。
手に財布。
僕が落とすところを目撃したらしい。
「ま、待ってください」
思わず引き止めてしまう僕は、
いずれこの出会いに
感謝するようになる。
鬼ごっこ 2019.11.20
ベランダに出てみれば、
近所の小学生たちの下校時刻だった。
「昔、俺らもしたよな、帰りながら鬼ごっこ」
いつの間にか隣に彼が。
思い出にうっとりとため息をつきながら柵にもたれかかる。
「俺は大変だったんだぞ。
誰かさんがいつも俺ばかり狙って追ってきたから」
悪びれずに彼は言う。
「昔も、だろ?」
言えば言え 2019.11.21
「暑い!」
歩道橋の上、
彼の声は冷たい風の音をかき消す。
「お前は寒い寒い
言うから寒いんだよ!」
それが口癖になりつつある自覚はある。
でも暑いと言えば温まるのか。
「一緒に叫ぶぞ、せーの、暑い!」
「暑いー!」
のせられて叫んでしまった僕を
羞恥が熱くさせた。
それを見て彼が太陽みたいに笑った。
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