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 男の手が伸びてきて、一之瀬の股間に触れる。ズボンの上から撫でるようにされ、慌てて逃れようと腰を引いたがそれはかなわない。
 背後から抱きとめるかのように男に身体を抑えられ、そのまま窓ガラスに全身を押し付けられる。
 ガラスの冷たい感覚に小さく身体が震えた。
「さ、してごらんなさい」
 男は両手で肩を痛いくらいに強く押さえつけてくる。手が自由になったとはいえ、これでは逃れることが出来ない。
「出来ないなら……警察に通報します。が、その前に、ばら捲いてしまうかもしれないですよ、アレを」
 耳元でささやかれ、カッと身体が熱くなる。
 ばら捲くアレとは彼が野外で一人耽っていたあの画像のことだろう。そうなったら、全てが終わりだ。一之瀬はじめの社会的死を意味する。彼の言葉にぞっと背筋が凍る。上下関係はすでに決まっていた。戦う前に決着はついていたのだ。
「チクショー」
 一之瀬は静かに両手をズボンへと伸ばす。しなければならない悔しさと惨めさに押しつぶされそうになりながらも、一之瀬は覚悟とかすかな期待を持って静かにホックをはずした。
「そう、そのまま下着も脱いで?」
 男の指示が脳内に響く。
 途端に期待は薄れた。もしかしたら、自分が彼に従う素振りをすれば許してもらえるのではないかよいう甘い期待が一之瀬の中にあったのだ。だが、それが存在しないのだということを、牧田は突き付けた。
「ぬ、脱ぐのかよ」
「早くしてください」
 やらなければ、アレをばら捲かれてしまう。だが、そんなことは出来ない――! 一之瀬にもまだ羞恥心はのこっているのだ。逡巡していると、耳たぶを男に噛まれる。
「いっ、何するんだ!!」
「早くしてください。貴方ごときに貴重な時間を取られる身にもなってみてください」
「それなら、なんで、こんなことを!!」
 途端にぐっと肩を抑える力が強くなる。痛みに一之瀬は息を飲んだ。
「へぇ、被害者に口答えをなさるとは……さぁて、どこにばら撒こうかなぁ。おっと余計な反撃は考えない方がいいですよ? ぼくをどうこうしてもデータは友人にも預けてあるんです……」
「へっ!?」
「ぼくに何かあったら、友人がぼくのかわりに貴方の痴態をばら撒きます。貴方は逃れられないってことですよ」
 唖然としている一之瀬のズボンを素早く男の手が襲った。さっと下着ごとずり下ろされ、股間が冷たい外気に触れる感覚に、頭の中で何かが目覚めた。
 野外で自慰をしだして、それが常習化してしまったのは、ひとえにこの感覚のせいなのかもしれない。
 冷たい外気に自身の下半身が触れる。
 それだけで、一之瀬の欲望にスイッチが入る。
「あ、立ってきましたね。下着を下ろしただけなのに」
「そ、そんな」
 男の言葉どおり、一之瀬の下半身はこんな状態にも関わらず、緩やかにたちあがりかけていた。この現実に一之瀬は膝から崩れ落ちそうになる。なんという屈辱。だが、一之瀬の身体は牧田に捉えられていて逃げることも隠れることもできない。窓から差し込む太陽光に照らされて硬さを持ち始めた一之瀬の下半身を見て、牧田はふふっとかすかに笑いを零した。
「相当な変態なんですね、気持ち悪い」
「い、言うな」
「さ、さっさとその汚いそれを片付けてください」
「く、くそっ」
 なんて失礼なものの言い方だ。その口調に腹を立てながらも、言われるがままの我が身だ。自身のそれに手を伸ばそうとした。
 外から「オーライ」と一際大きな声があがり、ガラス越しに一之瀬の鼓膜に入る。
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