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✿初稿
25.
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帰り道がこんなに懐かしく思える日がくるなんて、不思議だ。毎日通っている道なのに。
「そっか、それじゃ、ちゃんと尾張先生のフォローはいれられたんだね。よかった」
「はい、次号からガンガンにとばしていって、アンケートでトップとります」
いきまく花荻に千尋は、笑みをこぼした。それから、少し間をおいた。
「今回はその――、花荻さんを巻き込んですみませんでした」
「え、ああ、はい」
「その、いつも、申し訳ないな、とは思っていたんですけれど。ほら、ぼくって結構、性格キツいじゃないですか」
「ああ、え~、はい」
「いつも花荻さんや他のかたも、声かけてくださるのに、いつも、マニュアルどおりっていうか、上澄みみたいな感じの返事しかできなくて」
「ああ、いや、それは」
「ひとと、うまく、生きていけないんです、ぼく、なんかその、そういう、人間関係ってところがあんまりよくわからなくて。だから、その、今回の件で、花荻さんにすごい助けられてばかりで」
「それは、こっちもですよ。と、いうか千尋さんはマニュアル通りっていうよりマニュアル破りじゃないですか?」
といわれて、千尋は頬を赤く染めた。古賀からこのままだと仕上げが終わらないと言われ、千尋がとった行動が、編集部の電話の着信記録を漁ることだった。一週間前のとある番号にたどりついたあと、彼はためらいなくその番号に電話をかけた。あの少年が出た。
「だ、大丈夫でしたよ。松葉先生だってちゃんと大人ですし、濡れ場のシーンだけは全部ご自身で仕上げたそうなので」
まあ、そこまでは良かったのだが、あのあと、松宮が竹野少年をいたく気に入って、脱稿ののちも、うちにこないかとメールを送り付けまくっているらしい。――のだが、なんだか嫌な予感しかしない。あの口の汚い松宮に勧誘ができるのだろうか。
「それに、なんだか久しぶりにわくわくしました。編集長にくってかかるなんて」
「い、いや、だって! あれは!」
「面白いですね、千尋さんて。一緒に仕事できてよかったです。絶対、かなえましょうね」
「はい! ありがとうございます」
花荻からの電話を切ると、千尋はゆっくりと遠回りすることにした。無事、来月号の入稿ができた。これで雑誌は出る。
編集長からはお叱りをみっちりされてしまたが、大丈夫だ、結果は数字になってきっと返ってくる、と思う。
ただ問題は――編集長とガチでやってしまったことか。波風を思い切りたててしまった。
今回のことで言及された際に、いままで思っていた不満を全部ぶちまけた。それだけじゃなくて、根拠も、そうできる革新もない話までぶちまけて、しまった。
あのとき、編集部内の空気が変わった。ぎょっとみな、たちすくんでいるだけだった。
――この編集部を、いや、F社全体を立て直したい!
――まずはこの分野で黒字をあげて、黒字を重ねて、体力をつけさせてやるから
――おとなも子どもも楽しめる少女まんがの部門をつくりたい!
まあ、つくったとろこで、「少女まんが」なら大手や体力のあるところがやっている。そこに飛び込んでいっても、転覆するだけだ。そもそも、なんとか自転車操業で転ばないようにやっている状態の小さな会社に新規でものごとを始める体力はない。それをつけさせてやると豪語しては、失笑しかかわない。
でも、ビジョンがある。
こちらへ迎えばいいのだと、常に千尋の頭上を光の筋が照らしているのだ。
――と遠回りして寄ろうと思った場所にたどり着く前に、寄りたい人に遭遇した。
「ち、千尋さん!?」
帰り道がこんなに懐かしく思える日がくるなんて、不思議だ。毎日通っている道なのに。
「そっか、それじゃ、ちゃんと尾張先生のフォローはいれられたんだね。よかった」
「はい、次号からガンガンにとばしていって、アンケートでトップとります」
いきまく花荻に千尋は、笑みをこぼした。それから、少し間をおいた。
「今回はその――、花荻さんを巻き込んですみませんでした」
「え、ああ、はい」
「その、いつも、申し訳ないな、とは思っていたんですけれど。ほら、ぼくって結構、性格キツいじゃないですか」
「ああ、え~、はい」
「いつも花荻さんや他のかたも、声かけてくださるのに、いつも、マニュアルどおりっていうか、上澄みみたいな感じの返事しかできなくて」
「ああ、いや、それは」
「ひとと、うまく、生きていけないんです、ぼく、なんかその、そういう、人間関係ってところがあんまりよくわからなくて。だから、その、今回の件で、花荻さんにすごい助けられてばかりで」
「それは、こっちもですよ。と、いうか千尋さんはマニュアル通りっていうよりマニュアル破りじゃないですか?」
といわれて、千尋は頬を赤く染めた。古賀からこのままだと仕上げが終わらないと言われ、千尋がとった行動が、編集部の電話の着信記録を漁ることだった。一週間前のとある番号にたどりついたあと、彼はためらいなくその番号に電話をかけた。あの少年が出た。
「だ、大丈夫でしたよ。松葉先生だってちゃんと大人ですし、濡れ場のシーンだけは全部ご自身で仕上げたそうなので」
まあ、そこまでは良かったのだが、あのあと、松宮が竹野少年をいたく気に入って、脱稿ののちも、うちにこないかとメールを送り付けまくっているらしい。――のだが、なんだか嫌な予感しかしない。あの口の汚い松宮に勧誘ができるのだろうか。
「それに、なんだか久しぶりにわくわくしました。編集長にくってかかるなんて」
「い、いや、だって! あれは!」
「面白いですね、千尋さんて。一緒に仕事できてよかったです。絶対、かなえましょうね」
「はい! ありがとうございます」
花荻からの電話を切ると、千尋はゆっくりと遠回りすることにした。無事、来月号の入稿ができた。これで雑誌は出る。
編集長からはお叱りをみっちりされてしまたが、大丈夫だ、結果は数字になってきっと返ってくる、と思う。
ただ問題は――編集長とガチでやってしまったことか。波風を思い切りたててしまった。
今回のことで言及された際に、いままで思っていた不満を全部ぶちまけた。それだけじゃなくて、根拠も、そうできる革新もない話までぶちまけて、しまった。
あのとき、編集部内の空気が変わった。ぎょっとみな、たちすくんでいるだけだった。
――この編集部を、いや、F社全体を立て直したい!
――まずはこの分野で黒字をあげて、黒字を重ねて、体力をつけさせてやるから
――おとなも子どもも楽しめる少女まんがの部門をつくりたい!
まあ、つくったとろこで、「少女まんが」なら大手や体力のあるところがやっている。そこに飛び込んでいっても、転覆するだけだ。そもそも、なんとか自転車操業で転ばないようにやっている状態の小さな会社に新規でものごとを始める体力はない。それをつけさせてやると豪語しては、失笑しかかわない。
でも、ビジョンがある。
こちらへ迎えばいいのだと、常に千尋の頭上を光の筋が照らしているのだ。
――と遠回りして寄ろうと思った場所にたどり着く前に、寄りたい人に遭遇した。
「ち、千尋さん!?」
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