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✿初稿
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「あ、ほら、俺と松宮、同じ大学だったんだよ。今でもたまにふらっとアイツ顔だすんだけど」
大学?
「で、今は――、っと、おい、もう八時過ぎてるじゃないか! ほら、お開きだ! お前たち、帰れ!」
柱にひっついている古い時計を見て、守谷が叫んだ。客がいるのだと思ったが違った。酔っている者もいるが、そうじゃない者は顔つきでなんとなくわかる。役者たちだ。それが八人、ごろっと店内でくつろいでいた。
「えー、もう、お終い?」
「そうだ、終わり。もう店じまいして俺は寝る」
「これからって時間でしょうに。いいんですか?」
「いいんだよ。おばはんがいないときは俺が店長なの。早く寝て明日早くから仕込み終わったらさっさと稽古!」
笑いながら座席を陣取っていた若者たちがばらばらと立ち上がって食べたものを片付けはじめた。
「劇団の子たちかい?」
尋ねればビンゴだった。守谷がにっこりと笑いながらうなづいた。
「もうすぐ次の公演だから、いい舞台にできるよう、あいつらに飯食わせてんだ」
「というか、ほぼ毎日入り浸ってますけどね」
「って言われてるけど、守谷?」
「ああ、んもう! ちょっと、皿あとで洗うから、そこ! そこ置いといて! ほら、帰った帰った!」
「ぼくも帰ったほうがいいかな?」
「いや、千尋はそこにいて! って、あれ? 新崎のやつは?」
周囲をきょろきょろと見まわしながら守谷が尋ねる。
「ああ、それなら、さっき便所行って、まだ帰って来ませんね」
「お前が飲ませようとしたからだろ。あいつ、まだ二十歳なってないんだぞ」
「え、十九、十八? ダイジョブ、かわりにオレンジジュース一気飲みやらせたから」
「あほか!」
守谷が声をあげた。
「そういうおふざけはだな……!」
「モリヤン、おっさんくせーぞ!」
「くそ、そうだよ、俺はもう、おっさんだぞ!」
がはは、と雑な笑い声が室内に満ちる。酔っぱらいは抱えられながら、そうじゃないものも、のんびりと引き戸を鳴らしながら去って行った。
「もう店じまいか。かたずけ、大変?」
ふたりきりになったので、少し気がぬけた。千尋は首元を緩めて、空いた座席に腰をおろした。守谷は楽し気にそばに寄る。
「その前に、お前に飯くわせてやる」
腕まくりをする動作をして、守谷が笑った。壁に貼ってあるメニューに目を通して、千尋が話しかけようとしたとき、ケータイが震えた。
大学?
「で、今は――、っと、おい、もう八時過ぎてるじゃないか! ほら、お開きだ! お前たち、帰れ!」
柱にひっついている古い時計を見て、守谷が叫んだ。客がいるのだと思ったが違った。酔っている者もいるが、そうじゃない者は顔つきでなんとなくわかる。役者たちだ。それが八人、ごろっと店内でくつろいでいた。
「えー、もう、お終い?」
「そうだ、終わり。もう店じまいして俺は寝る」
「これからって時間でしょうに。いいんですか?」
「いいんだよ。おばはんがいないときは俺が店長なの。早く寝て明日早くから仕込み終わったらさっさと稽古!」
笑いながら座席を陣取っていた若者たちがばらばらと立ち上がって食べたものを片付けはじめた。
「劇団の子たちかい?」
尋ねればビンゴだった。守谷がにっこりと笑いながらうなづいた。
「もうすぐ次の公演だから、いい舞台にできるよう、あいつらに飯食わせてんだ」
「というか、ほぼ毎日入り浸ってますけどね」
「って言われてるけど、守谷?」
「ああ、んもう! ちょっと、皿あとで洗うから、そこ! そこ置いといて! ほら、帰った帰った!」
「ぼくも帰ったほうがいいかな?」
「いや、千尋はそこにいて! って、あれ? 新崎のやつは?」
周囲をきょろきょろと見まわしながら守谷が尋ねる。
「ああ、それなら、さっき便所行って、まだ帰って来ませんね」
「お前が飲ませようとしたからだろ。あいつ、まだ二十歳なってないんだぞ」
「え、十九、十八? ダイジョブ、かわりにオレンジジュース一気飲みやらせたから」
「あほか!」
守谷が声をあげた。
「そういうおふざけはだな……!」
「モリヤン、おっさんくせーぞ!」
「くそ、そうだよ、俺はもう、おっさんだぞ!」
がはは、と雑な笑い声が室内に満ちる。酔っぱらいは抱えられながら、そうじゃないものも、のんびりと引き戸を鳴らしながら去って行った。
「もう店じまいか。かたずけ、大変?」
ふたりきりになったので、少し気がぬけた。千尋は首元を緩めて、空いた座席に腰をおろした。守谷は楽し気にそばに寄る。
「その前に、お前に飯くわせてやる」
腕まくりをする動作をして、守谷が笑った。壁に貼ってあるメニューに目を通して、千尋が話しかけようとしたとき、ケータイが震えた。
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